第一章 第九話 幼馴染
「へえ。タクマとマサユキは幼馴染だったのね」
「まあな。昔っからの腐れ縁よ」
自己紹介を聞いたサナは興味津々でもっと聞きたい、という感じだ。まあ、俺と正行は当人のいう通り小学生から高校生まで同じ学校に通い続けるぐらいの腐れ縁。となれば、必然的に俺の話も入ってくるわけで。
「もっとタクマとの話聞かせてもらえる?」
「おいおいソレ、目当てタクマの方だろ」
「ソ、ソンナコトハナイヨー」
「誤魔化すの下手くそかよ!」
この通り、より興味があるのは俺の小さな頃の話のようだ。今はあんなんでも、影響された部分は少なからず俺にはあるから、正行の事も知ってほしいんだけどなあ。
「私はタクマの契約者だもの。彼の事を沢山知りたいのは当然よね?」
「ムカつくけど反論できねえ!」
とまあ、こんな大喜利みたいな状態になっている。こいつが絡んでくると高確率でこうなるのが不思議だ。
ただ聞いていた態度からして正行自身の話をほぼなあなあで聞いていたサナも、最近の事で一つ気になる事があったようで。
「マサユキはどうしてジョーホー系? の道へ行かなかったのが気になるかな。頑張ったんだよね?」
「そこ掘り下げるのか。いいぜ、聞かてやるよ」
それまで嬉々として話していたのにも関わらず、何故かそこだけ異常に手短に語った就職の話だ。
俺は事情を知っている。トラウマでもあり、正行のターニングポイントだった。
「簡単に言うとよ、間違えたんだ」
「間違えたって何を?」
「作る側と使う側、との違いって言ったら良いんかねえ……」
明るい日差しが差し込んでくる窓の方を遠い目で見つめながら、正行は続けた。
「こんな楽しいモンなら、きっと作る側も楽しいだろ! そう思って頑張ってたんだがなあ。実態は全然違ったんだよ。おまけに気づいた頃には学び直す時間も、気力も足りんかった」
自嘲するかのような薄い笑みを浮かべながら語る正行を見て、サナは続く言葉がない。意味はわからないが、表情と雰囲気からして地雷を踏んづけたと思っているのだろう。
実際、笑える話ではない。余程性格が捻くれてない限りは同情する。
「あっはっはははっ! そんな聞いちゃいけない事聞いたみてえな顔すんなって。もう過去の話だし、身の上話はいずれはしなきゃんらんだろ?」
「そうだけれど、話してた時のあなたがあまりに悲しそうな顔してたから……」
「おお? マジか。もう吹っ切れたモンだと思ってたがなあ」
口ではああ言っているが、語り終えた今でも作っていると判る引きつった明るい表情をしている。
そう簡単に決別できるもんか。大好きなゲームを作りたいが為に、高校に入るまで全くのゼロの所からタイピングを身体に叩き込んだのに。
「まあ正行、その辺にしとこう。それ以上は暗くなるばっかりだ」
「いけね、雰囲気悪くしちまったか。じゃあ自分語りはこの辺にしとくぜ」
ドアを開け放ち、正行は部屋から出て行った。多分状況把握をするんだろう。
しかし、この話を初対面であるサナに話すとは。今の話、正行にとって古傷を抉るような内容で俺が聞いても話すのは一度きりだと言われたのに。
「何だこれっ!? 槍にツタとか絡まってる!」
「ああ、それは父さんが手にれいた武器なの」
今思うとアイツはただ好きなゲームを好きなようにやりたかっただけったんだ。しかしそれに気付けず頑張ってしまったんだ。
そして頑張ってしまった分、気付いた時反動も大きい。その結果が、今の正行だ。
「ほおお……そんな理屈で動いてんのな」
「凄いでしょー」
「そう思うぜ! こういう不思議武器はロマンが詰まってる。いつか使ってみたいトコだぜ」
にしてもちょっとおかしい。
ここまで自分の過去を詳しく語るのは。サナの持つ魅力の補正と正行の性癖もあろうだろうが、それだけでトラウマを話す理由にはならないよなあ。
「ああそうだ、タクマぁー!」
「なんだあー!」
向こうの部屋から大きな声が聞こえてきた。
聞こえるよう、こちらも大きな声で返しておく。
「俺この世界に住むわ! 親と勤め先何とかして誤魔化してくるもんで、上手く行ったらこれからよろしくな!」
聞こえてきた弾んだ声になるほどな、と悪くない意味でため息が溢れる。
アイツにとって役満な条件が揃っているとは思っていたし、昔から決断が早いのは知っていたがもっとこう衣食住の問題とか考えないのだろうか。
「まあ、アイツらしいから別にいいか」
むしろ仲間になって欲しくて呼んだのだから、思い通りに事が運んで都合がいいじゃないか。
当初の目的は仲間を増やす事だし、サナや俺は腕っ節は強くないから、バランス的にも都合がいい。
「それでも、注意しなきゃな事はあるか」
軽くのびをし、注意事項を頭の中で纏める。
環境が大きく変わったり、魔王討伐を目的としてもいるから形容し難いくらいに危険だ。ちゃんと事情を知った上で動いてもらいたい。
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「いやあ五分も保たないとは恐れ入った」
「ねえ、流石にあの人単純すぎない?」
「はは……アレでも一応気は効くんだぜ?」
改めて正行の話題を出したサナが、大きくため息を漏らす。我が友人ながら、餌があるとこうも行動が早く、また単純になるとは知らなかった。
注意すべき点について、魔王に関する話題を語り終えた時点でアイツは「まあ追い追い聞くよ」と言い出し、元の世界に戻ってしまったのだ。
「正行が戻ってきたらクラスを変えたいから、ギルドにもう一度来たはいいけど」
「うん。やる事がないねえ」
両手で頬杖を突いたサナがぼやく。
言う通りで、正行が両親や勤め先に交渉している間俺たちはここで待ちぼうけだ。目の前にクエストがあるのに何たる焦らし。
因みに本人曰く両親は何とでもなるが、勤め先が口実作りに困るとの事だ。
「帰ってくるまで暇潰さなきゃだな……やれやれ」
持ち物が入っているカバンを漁って必要なものを探し、取り出す。
「よっと」
「あれっ?」
「んっ? どうかしたか」
「だってタクマ、今までそれしてなかったよね?」
「ああぁー……確かにな!」
言われて気づく。
俺は視力が眼鏡なしでも見える程にはあるから、かけなくても過ごせてしまったから、サナの前では眼鏡をかけた俺は初披露となるわけか。
普段は矯正用に眼鏡をかけているのだが、その普段を知らない人に感想を聞けるあまり無い機会だ。
ちょっと暇つぶしにどんな印象を聞いてみよう。
「さっきと比べて、どう見えるよ?」
「うーんとね。似合うと思う!」
「おおう。単純だな」
「もうちょっと褒めるなら、小さかった目が大きく見えて少し整って見えるよ!」
「おうふ……」
言わせておいてなんだが、嬉しいやら恥ずかしやらわからんなこれ。
異性に褒められた試しがないから耐性皆無な上、このやらかし召喚士、見た目は悪くないから褒められると嫌に照れてしまう。
「ま、まあまあ、それはさておきだな!」
「タクマ顔まっかー!」
「その話は終わり! 別の話をしよう。な、な?」
まだ掘り下げようとしてくるから無理にでも切り替える。
このままだと俺が茹で上がりかねんので、少し気になってた事でも聞いて気を逸らさせておこう。
「別の話って?」
「時間の話でも聞いておこうと思って」
「あ、確かに話して無かったっけ」
ギルド内にある古そうな振り子のついた時計に視線を向け、同じようにそちらを俺も向く。
時間を測るのに今まで日の傾きおよそ予測つけるしか無かったので知りたかったのだ。
「どういう、事だ」
思考が止まる。
あってはならないものが、ある。
円の中に十二の数字が時計回りに配置され、数字を三つの針が指している俺たちの世界によくある時計なんてこの世界にはありえない存在のはず。
それが何故ここに。
「どしたの、顔青いよー?」
「何でだよ」
「何でって……何が?」
時計の歴史の詳しい事なんて知らない。
しかし、この世界は魔法なんて物があって異なる歩みを進んできたはずなのに俺たちの世界にあるものとおよそ同じ構造をした時計が存在するのは酷く、歪だ。
「あの時計、俺たちの世界にある物とそっくりなんだよ。時間の単位とかもなのか?」
「うーん、見方は同じじゃないかな。単位や見た目は大分違うけれど」
「おいおいどういう事だよ……」
確かめる為、古時計に近づく。
文字こそ、この世界のもののようだが……
「頂点に十二、そのま反対の位置に六。さらに各数字の上に分単位の数字までご丁寧に……!」
数字を追う指が震える。
おかしい、こんなのおかしい。
そっくりどころかまんまじゃないか!
「どうしてだ、どうしてこうなった……」
わからない。
否、答えは簡単だ。
よく知る人物が示しているじゃないか。
「なあ。今までに召喚士って居たのか?」
「居たよ。私以外にも沢山」
「じゃあもう一個聞かせてくれ。異世界から召喚できる人って珍しくないのか?」
問いかけに、長い間が出来る。
いや。俺がそう感じてるだけだ。
サナは、顔色一つ変えずに小首を傾げているのだから。
「決して珍しくないよー」
「ああ……なるほどな……」
なるほどな……ああ、なるほど。
すっかり拍子抜けしちまった。
俺は異世界召喚なんてモノはもっと珍しいと勝手に思っていたが、サナの言動や表情、周囲の人間の反応から察するに大した事ではないようだ。
ならばこの時計の存在は異常ではない。
過去にも元の世界から召喚が行える者が存在していたなら、召喚された人間が元の世界の知識や文明を広めて活躍していてもおかしくない。
「わかった、答えてくれてありがとう。本題に戻すけど時計の読みとかについては……」
「タクマ達の世界の時計の読み方知らないから何とも言えなくって……ごめんね」
わからないか。
何処かで同郷の人間を探して聞いておこう。
「あっ」
「どうした、サナ?」
そう思って周囲にそれらしき人がいないか探していたらサナの手の甲の印が強く青い光を放った。
何かの合図だろうか。
「マサユキさんこっちに戻ってくるみたい」
「もうか。早いなあ」
「一度外に出よっか。ここで召喚を行うとちょっと迷惑になるから」
という訳で、そそくさとギルドを出ていって近くにある噴水のある広場へ。
言われてみれば召喚魔法を使用すると昏睡状態の人が突然現れるわけだし、発光現象も伴うから人が密集しているギルド内で使用するのは良くない。
まあ外でも公共の場なのは同じなのだが……
「じゃあやるよ。今回は本人の了承があるから強制力とかは控えめで済むから外でも大丈夫」
俺の疑問を見透かしているのか、自分への言い聞かせなのかわからない言い方でそんなことを言う。
サナの事だから後者だろうが。
「ほんとに? 出てくる光とか実は使っちゃいけない決まりとかあったりしないのか」
「大丈夫、だと思う……」
俺からの疑問の提示に自信なさげなサナだが、魔法の詠唱は開始された。日光で光はかき消され、いつもの神秘さは欠片もないのが残念だが。
「我が意思に従い、今ここに現れよ……」
一拍置きすぅ、と深呼吸。
既にサナを中心に描かれた魔法陣にある星の模様に杖が突きつけられ、魔法陣の青い光が昼間でもわかる程に強くなる。
「セデムッ!」
「うぉっ!」
魔法名が叫ばれると、魔法陣がフラッシュしてサナ共々どうなってるかわからなくなった。
俺もこうして召喚されているのか。
「んごごご……」
「ふう。ひとまずは召喚成功っと」
光が収まるとそこには、呑気な寝顔をした正行を横抱きにしたサナが立っていた。正行にはおいそこ代われと言いたい所だけど、道端に転がすのも忍びないから仕方ない。今回は役得を許してやる。
「後は目覚めるのを待つだけだな」
「うん。ギルドに戻ろっかあ」
当人が目覚めるまでの間ギルド内でまた眼鏡の事やらで他愛もない話をしていた。
しかし、正行は催眠に対する耐性が薄いのか中々起きず、目覚める頃には大きい時計の針が示す数字が一つ進んでいた。




