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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
一章 鮮やかなる国 ブライト
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第一章 第四話 慣れない事はするもんじゃない

 広い、眩しい、豪華。

 今いるこの空間を表すならこの三つの言葉が的確だな。


 舞踏会でもやるんか、と尋ねたくなる程に無駄に広く、灯だけじゃなく、本体も金色で昼も無駄に明るいシャンデラがいくつも。

 床には紅く金色で何かの紋章らしい装飾が施されたカーペットが敷かれ、真っ白という言葉が適切な硬い印象を受ける白色の壁は一切汚れがなく、俺の二倍の大きさはあろうバカでかい木製のドアが四枚、小さめのドアがずらり、さらにドアより大きな柱が何本か立ち建物を支えている。


 そんな中をフリル等の装飾があまり見られず実用性に富んだメイド服やら執事服を着た人々が男性、女性問わず慌てた様子で行ったり来たりしている。お、たまに鎧を着た人も居るな。


 これだけの人とこれだけの広さと無駄に豪華なシャンデラ、無駄に大きなカーペットに真っ白な壁の清潔さの維持。

 俺は城になんか初めてきたし、王様だから当然ではあるが、ツルトという王様の圧倒的財力を身を以て理解できた。


「はあぁー……凄い!」

「すごく広くてすごく豪華だよねー。私何度来ても目が眩んじゃって迷っちゃうんだ」

「これは無理もないよ」


 言いながら案内人に付いていく為に歩みを止めず進んでいく。ここはお城の入り口のすぐ近くだからホールだろうか。となると舞踏会の会場は別にあるからもっと広い場所があるわけだから……うーむ、空恐ろしい。


「二人とも、我々はあの階段を登るぞ。迷わぬよう付いてきてくれ」

「あ、はい」

「はーい。お願いしますー」


 指差した先には弧を描いて上に登っていく白い階段があった。これまた手すりに何やら葉か何かの装飾が施されてる……尽くせる贅を尽くしたって感じでため息が出る。


「ここは……なんだろ」


 階段を上った先で今度はどんな豪華な空間が繰り広げられるのだろう、と思ったらカーペットとシャンデラこそあったがドアは一つのみで、階段がすぐ近くにあるだけの先程よりずっと狭い空間だった。


「ここは王が直々に雇っている料理人の部屋だ。この上が謁見の間となるので、失礼のないように」

「ああ、なんだ。謁見の間……え、もうですか!」

「しっ、声が高い!」


 急に声を潜めて語り出したから何かと思ったらそういう事か。今から緊張する。地理も勢力に関しても全く知識が無いからこの国がどれほどの力と広さがあるかわからないが、今から国の最高権力者に会うのは確かだ。


 それと謁見の間で霞んでしまったが、王が直々に雇ってるならここは宮廷料理人の部屋ってことか。どっちにしろ粗相はできないな。


「王様かぁ。お元気かなあ」


 階段を登る途中、サナがぽつりと呟いた。王様はご高齢なのだろうか。気になるが今さっき釘を刺されたばかりだ、黙っていよう。


「先ず私がツルト様と対談する。君達はご指示があるまで待機するように」


 もう階段が終わるかという所で、聞き取るのに苦心するぐらいに小さな声で案内人が言ったのに、俺たちは無言で頷いて返す。

 先にある空間はもう見えていて、胃が痛くなるような硬い雰囲気が漂っている。気を引き締めなければ。



「よく来たのう」



 ここを歩いてくれと言わんばかりに階段から出た側からバージンロードよろしく紅いカーペットが延びる部屋の奥。


「ヴィヴィットよ」

「はっ!」


 シンプルな王冠を被り、対称的に目に毒なくらい様々な色の宝石に彩られた黄金の玉座に白いファーの付いた紅いローブを纏った初老くらいに見える男性が鎮座している。案内人の人はヴィヴィットさんというのか。


「た、タクマ。御前だよっ」

「あ。ごめんっ!」


 裾を引っ張るサナを見ると、王様の方を向いて頭を下げて跪いていたのでこちらも同じように跪く。

 やっちまった、雰囲気に呑まれて棒立ちしてたようだ。案内人が話していたお陰で注意があちらへ逸れていたのが幸いか。


「ふむ、そうか。報告、ご苦労であった」

「はい。詳細は……」

「詳しい話は本人達に」

「承知しました」


 案内人が一歩下がり、王様がこちらへ部屋に響く足音を立てながら歩み寄ってくる。

 いよいよ王様とご対面か。汗と脈拍が鬱陶しい。特に脈は煩くて、煩くて耳障りなぐらい……!


「サナよ」

「はいっ!」

「正式契約に成功したと聞いたが、誠か?」


 事実確認をされたらしいサナが、書類の束が渡すと僅かに聞き取れるぐらい大きさのくぐもった声がした。おいおい、またあいつなんかやらかしてないだろうな。


「おお……! 文字から感じられるこの強い水の魔力。間違いなくサナのものじゃな」

「はい。王国中を探しても似た魔力の持ち主は居ないかと」

「よしわかった。この書類は返そう。正式契約の成功、大変めでたい! 今宵は宴を開かねば!」

「ツルト様、宴をしたいだけでしょう?」


 後ろに控えていた案内人の冷静なツッコミに、王様は「カカ!」と笑っているのがわかる。もしかして冗談効く人なのかこの人。


「して……」


 なんて油断の隙を突くかのように、王様の声が明らかに低くなる。

 表情は見えないが、好々爺のように笑っていたのが唐突に真顔になったような王様の顔がありありと浮かぶ。


「そこなる者よ」

「ひゃいっ!」


 そのままの声音で指名され、心臓が跳ね上がったと同時に返事をしたせいで声が裏返る。落ち着け、契約について聞かれるだけだ……! 


「正式契約の証がお主の体に刻まれておろう?」

「はい。手の甲に、あります」

「ならば面を上げて見せてくれるかの」

「は、はいっ」

 

 言われた通りゆっくり顔を上げ、手を差し出す。

 時間がとても、とても遅い。 


「ふむ。なるほどのう」

「……」


 スロー再生が終わると、そこには絵に描いたような王様が居た。

 白く染まった髪と、胸まである程長い髭。どれほどの苦労をすればそうも増えるかわからない、年の数ほどにある皺に肩の膨らんだ服、よく見たら家紋であろう紋章の装飾が施されたローブを纏ったお爺さんだ。あと、思ったより好々爺じゃない。


「この魔法陣の形、間違いなくサナのものじゃ。最早確認はこれ以上必要あるまい」

「そう、ですね」


 俺の手を握って一しきり確認すると、紅いローブをマントよろしく翻し、玉座に今一度座った。


「お主らも、儂らもこれより忙しくなるであろう。時間が惜しい。今日の所は下がれ」

「え、あ。はいっ!」

「ヴィヴィット、帰りの案内を頼むぞ」

「はっ」


 そう言われた案内人は俺たちに「付いて来い」と通りがかりに一声かけて、さっさと階段を下っていってしまったので俺達も王様に一礼してから謁見の間を後にした。



「謁見、ご苦労だったな。二人共」

「あっ……あ、ありがとうございます……」

「謁見は、何回やっても、慣れないなあ……」



 謁見の間の階段を降りた先の、宮廷料理人の住居前で案内人が労ってくれたが、褒められて喜ぶ気力はもう無い。

 先程まで最大限に気を張っていたせいで精神的な疲弊が今来ているのだ。


「やれやれ、謁見をした程度で打ちのめされていては魔王とろくに相対できるか疑問だな」

「なっ、これとあれじゃ緊張感の類が違うんです」


 なんてボヤく案内人に、強気に食ってかかかるサナ。見てて兄妹のようで微笑ましい。

 結局ヴィヴィットという名前以外、何者かわからなかったのが気になるが。


「ところで、ヴィヴィットさんでしたっけ」

「私の名前はそれであっているな。ひょっとして君はサナとこうしてどことなく親しげに接している私が何者か気になる、といった所か?」

「え、ええ。まあ。合ってます」


 まくし立てるようにそう語ったヴィヴィットさんは肯定された事に我が意を得たり、と言わんばかりに微笑み、そして髪を搔きあげ——


「私は宮廷魔導師団団長、ヴィヴィット・ノーブルス。よろしく頼むぞ、ノジカ・タクマ君」


 あー……なんだろ。

 爽やかに笑顔決めてるし、手をこちらへ伸ばして握手を求めてきてて一見凄い友好的なんだけど、なんか腹たつ。自分が顔いいのと立場も良くて、勝ち組ってわかってやってるよねこの人。

 まあ野暮な妬みとか僻みなんだけど、なーんか無性に腹たつ。手を取ったら負けな気もするが、ここで変な意地張っても負けだから馬鹿な真似はやめておこう。


「よろしくお願いしますね」

「ああ。では自己紹介も済んだことだ、出口まで案内しよう」


 この会話を最後に、終始無言で城の中を歩き、城の出口まで送ってもらった。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆




「ん。んんんーっ……はあぁ」

「疲れたねえ、タクマ」

「だなあ。身体はまだ大丈夫だけど、心労がな」

「わたしもだよー。少し帰って休む?」


 城を出たすぐの庭にある柵に腰を下ろして、すっかり高いとこまで太陽が昇った空に向き、うーんと身体を伸ばす。

 俺もサナも、ああいう公な場は苦手なせいでまだ昼ぐらいのはずなのに二人揃ってもうおやすみモードだ。


「けど、もう休むわけにはいかないよ。今度こそ冒険者、ていうものを知りたいしさ」

「ギルドにはまだ行ってなかったもんね。そっかぁ、じゃあもうちょっと頑張ろっか」


 行き先と目的が決まったから、柵を降りて小道を歩き出す。こう見ると良い散歩道だ。近くに城が見えて、青々と茂る芝生のお陰で目の保養になるし、寝転ぶと気持ちいいだろう。


「ここなんか好きだなあ」

「あっ。タクマも?」

「うん、なんでかわからないけど。朝に来たい」


 今のこの感じもいいが、個人的には朝に起きて聞いたことのない鳴き声であろう野鳥のさえずりを聞きながら歩きたいな……って、ジジイか。


「タクマは朝が良いと思うんだ。でも、私は知ってるよ。ここは夜が良いって」

「へえ。夜かあ」

「うん、夜になるとね。すっごく静かで集中できるんだ。それと、お月様が綺麗!」

「ああ、なるほど」


 とても無垢に笑ってそう言うがサナのこれまで語ってきたことを踏まえると、とどのつまり人が居なくて魔法の練習に集中できるってわけか。

 でもそれって、あんまりいい光景とは……



 静かな満月の夜の王城の庭にて魔法陣の上に立ち、淡く青い光に包まれる、白髪の少女が一人。



 ありじゃん。

 魔法を使っている最中で、光に包まれている中でこちらを見返るサナは絵になるのではなかろうか。時々やらかしたりしてるから中身はあれだが、何だかんだでそこそこ美人ではあるし……


「うん。夜もいいね、綺麗だと思う」

「ちょっと想像した?」

「したね。言われまんまを」

「言われたまんま……」


 言った後、サナが徐々に赤くなっていく。

 おかしいな、赤くなるような事は……あ、俺ってば今言われたまんまを想像したってのは「サナは綺麗だよ」って言ったようなもんじゃんか。何を口説いてんだ、バカ……!


「ええっと、タクマ……今の綺麗っていうのはまさか、もしかして、ひょっとして……!」


 頬を染めたサナがおずおず、もじもじと尋ねてくる。褒められ慣れてないんだろうなあ。正直、元の世界に連れて行ったら、そこそこ整った顔と珍しい髪色からナンパの一つや二つはされるだろうに。


「含むよ、サナも含む。月明かりの下、静かな王城の庭で魔法の練習に励むサナを想像してた」

「ほ、ほんと……!?」


 驚き半分、嬉しさ半分といったとこか。うんうん、そういう表情も綺麗からは外れるけど悪くはない……


「えへへへぇ……お、お世辞でも嬉しいなぁ……」


 あーあ。

 蕩けちゃった。最後までさっきまでの表情を保てていれば良いのになあ。


「そういう風に、惚けたり、にやにやしたりしなけりゃあな!」

「えっ、な、なによぅ、タクマだってそういう事最後に言わなきゃ良いのにー!」


 照れ隠しに言った一言に食ってかかるサナを放って、城門へ脱兎の如く走る。

 今の顔をサナに見せるわけにはいかない。女っ気の欠片のおの字もなかった俺だ。


 きっと今の俺は、茹でダコのように真っ赤な顔をしてるに違いないからな……!

後書きにて詳しく書きますが、諸事情で更新速度をこれからは基本週一に落とす予定です。

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