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アノマリー・ライフズ  作者: カジタク
序章 異世界へ
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序章 第十二話 始まりと別離

「では、こちらの書類を」

「わかりました。拓真、これ書いて」


 日頃冗談ばかり言ってクラスの雰囲気を和ませてくれている担任の先生、黒いスーツを着た森木先生が神妙な面持ちで書類を母さんに渡して、それをさらに俺が受け取って書く。

 以前父さんと俺で話し合い、さらに聞いていた母さんも異論はなかったので学校は休学という運びとなり、先生に五日前休学したい旨を伝えて今日を指定された。


「母さん、これ」

「できたのね。先生こちらを」

「はい、確かに受け取りました」


 母さんが休学届等の書類の入ったファイルと一緒に今書いた書類を提出し、表情のない先生がそれを受け取った。

 休学すると言っても、五日間の空白の間はクラスに別れを言って、書類を受け取ったり、休学に関する担当の先生に印鑑をもらったりする以外は普通に授業を受けて普通に帰った。

 帰った後はゲームするなり、漫画見るなり、配信されているファンタジーもの、日常もの、百合なんかのアニメを見るなりして暇を潰していた。


「お忙しいところ、すいませんね。森木先生」

「いえ。これも教師の務めですので」


 口ではそう言う先生だが、口を結んで表情が無く声は低くどこか寂しげだ。

 俺は先生の担当する部活動、パソコン部の部員でもあったし、また二年連続で担当され、さらに皆勤賞で休んでこなかった。

 決して成績は良くなくても、そこそこ付き合いが長くて休んでこなかった生徒が脈絡もなく休学したいと言い出せば、寂しくも思うだろう、いや実際に話を出した時は驚いてたし寂しそうだった。


「休学の理由は、一身上の都合と書いてありますが実際のところをお聞きしても?」

「主人の会社の経営が芳しくなくて。元々授業料を払うのも厳しく収入も減少傾向で……」

「払うのが難しくなったから拓真に育成ついでに手伝ってもらおうというわけです」


 母さんが詰まったところに父さんが引き継いだ。

 実際のところ、父さんの会社の経営状況は芳しくないから嘘は言っていない。


「左様でしたか。ところで拓真君は今回の件について同意されて……」

「してますよ、先生」

「そう、なのか」


 先生の問いかけに重ねるように俺は即答した。

 正直、俺たちはもう腹が決まっているからこの話し合いは早く終わらせたいのだ。

 にしても危なかった。今のは父さん達が少しでも言い淀んだら食い下がられるやつだった。

 

「拓真君とご両親のご意思、ひいては書類にも問題はないので受理します。書類についてはこちらで処理しておきます」

「本日は以上でよろしいですか?」

「はい、お疲れ様でした」


 話が終わり、俺たちは立ち上がり声を揃えて「お疲れ様でした」と言って面談をした部屋を出て、無言で学校を後にした。


「終わった、かあ……」

「だな。休学期間は半年。それまでの間にサナって子の抱える問題がお前で事足りるかどうか……それを見定めて来い」

「うん、わかってるよ」


 学校から出て溢れた言葉を父さんが拾って返してきた。気を引き締めて異世界での生活をしなければ。

 あれ、でもそれ以前に生活するってことは。


「ところでさ、異世界だけど生活する以上色々いるよな?」

「まあ生活するんだしな。腹は現地で飲んだり食ったりすればいいだろうがよ」

「服とかあんまりフロウさんに迷惑かけるわけにもいかないしねえ。着替え持って行ったほうがいいかもしれないわねえ」

「だよなあ……」


 歩いていたら急に俗っぽい事に気付いてこんな話題になってしまったが、重要だ。

 サナがどのくらいの路銀を渡されるかわからないし、節約できるならするに越したことはない。また魔物なんかの存在があり得なくもないだろうから、魔法に頼るだけでなく、武器もあって損はない。


「他にも武器とかもいるだろうし……」

「シャベルは強いって聞いたぞ。あと槍」

「いや、近接戦前提かいな」

「お前は遠距離なのか?」

「そりゃこの筋肉だからなあ。魔法に頼るよ。短剣あたりを持ってくべきなのかなあ」


 言いながら腕まくりをして、自分の筋肉のない貧相な腕を披露する。改めて見ても本当に女性の腕みたいにか細い。しかも無駄に色が白いからますます弱そうに見える。


「ここで話しても準備は家でしかできないわ。早く駐車場へ行きましょ」

「だね。走ろっか」


 母さんの意見を取り入れ、学校には駐車場がないからってよくうちの学校の親御さんに停められている、近所のデパートの駐車場へ俺たちは走り出した。




_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_☆_




 これとこれを入れて、後はこれを入れてよし、と。何か他に入れるべきものは……

 無いか。今は家に帰ってきて居間で異世界に行く準備を進めていて終わりに差し掛かっている。結局は着替えやハンカチ、ライターなんかの日用品がボストンバッグの中身占領していて、旅行みたいだ。


 武器もなんせ突然だったから特に用意しておらず、また俺の弱い筋力で扱えるものという条件のせいで包丁だけと、およそ魔王とやり合いに行くようには見えない。まあ必要なものは戻ってきて買い足せばいいのだが。


「母さん、準備できたよ。何か忘れてるものはあるかな?」

「そうねえ。あっ、ペンダント忘れてない?」

「いやいや、流石の俺でも……ほら、大丈夫」


 そう言って胸元からペンダントを取り出して母さんに見せる。いくらポンコツな俺だが、こんな大事なものを忘れたりはしない。


「おぅ拓真、準備できたか。いよいよお別れだな」

「湿っぽいのはよそうよ。いつでもじゃないけど、サナに言えば帰ってこれるんだからさ」

「確かにそうだ。そんじゃ、笑顔でまたな、だ」


 そう、いつも通り居間の座椅子で座ってこちらへにっと笑ってみせる父さんに俺も笑い返しておく。

 準備もしたし、サナ達の家族にはもう口実ができた事は休学が成立する前に単独で異世界に赴いてもう伝えてあるから異世界とこの世界での話のすり合わせはもう無しだ。


 後はペンダントに念じれば、俺の異世界生活がスタートする。


「行くよ。母さん、父さん」

「気をつけてね」

「無事で帰って来い」

「わかってる」


 よし、行くって言ったしもう念じていいか。


 ……ペンダントよ。あの世界、あの石造りの街、サナがいたあの部屋へ、俺を導いてくれ!

 

「うっ」

「拓真?」

「大丈夫、いつものだから」


 一瞬目眩がしたが、これは召喚にサナが対応した証拠だ。直後にだんだん眠気が差して……そらきた。もう眠たくなってきてる。後は眠気に身を任せれば……ほら、ますます眠気が、ひどく……



「はっ」


 目と意識が同時に覚める、と……


「うにゅう……いらっしゃい、タクマぁ」

「えっ、サナどしたの? その格好」

「みてわからなぁい? ふ、あぁぁ……」

「まあわかるけど」


 月明かりだけだから服の色がよくわからないが、薄手のワンピースを着た、髪を解いたサナが居た。

 解いた髪と眠そうな表情が僅かに妖しげな魅力を醸し出していて、不覚にも胸が高鳴る。


「というのはまあ、置いといて」

「うにゅう……なぁにタクマぁ」

「なんでもないぞー」


 寝ぼけててくれててよかった!

 けどなんでこんな眠たそうなんだろうか。最初呼び出した時も今と同じぐらいの時間だった思うんだが……。まあ今は良い。大事な挨拶をしないと。


「眠い時に来ちまってごめん。けどこれだけは聞いてくれ」

「ん、いいよお」

「今日から世話になる。色々とわからないことや知らないことがあって、沢山迷惑かけると思う」

「それは、わかってる……。むしろ、迷惑かかけてるのは私……」


 本当にわかってるかどうか危うい返事だな……。

 けどいい。これは、俺自身の決意表明でもある。


「それでも、サナの力に必ずなるから。魔王とどれだけ渡り合えるかさっぱりだけど俺さ、頑張るよ。だから……!」


 段々思いが強くなってきて言葉がまとまらない。参ったな、なんて言えば……!



「あはは、やだなあ。タクマ」

「えっ」



 あれ、なんでサナは笑ってるんだろうか。

 何か俺はおかしなことを言って……


「私の側に居てくれるだけでいいんだよ? そう言わなかったけ」

「あっ。そういえば……! 魔力を渡すだけなら確かに……あれ。言ってなかったよーな」

「あれれー、言ってなかったけ。まあ言ってなかったにしてもそういう認識にしといてー」


 目が覚めつつあるのか、饒舌に喋るサナは少し悪戯っぽい笑みを浮かべて続ける。いつもより陽気なあたり、まだ普段どおりではないが。


「そんなに力になりたいって言うなら今日はもう遅いから寝かせて欲しいなあって」

「ああ言われてみれば……」


 睡眠欲には逆らえないから、仕方ない。じゃあ俺は別の部屋で……


「じゃあ、一緒に寝よっか」

「へっ……!?」


 この後、抵抗できない力でベッドに引きずり込まれ、色々抵抗しても寝具が足りないと言われて逆らえず、眠れない夜を過ごした。

キャラの特色を見せる序章はこれにて終了です。

次回から一章が始まります。

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