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短編の2「奇跡」

作者: 湊 ユウヒ

兄妹である美穂とその兄は、幼い頃からの親友、凛が病気になったことを聞かされ、そのお見舞いへ向かった。

2人は病院で、凛の病気は治すことがとても困難で、死に至る危険性もあると告げられる。


その帰り道、悲しみにくれている2人は、3人の思い出の場所に向かっていた。



俺は美穂の後ろを歩いた。夕日に照らされ、長く伸びる影をただじっと見つめながら、何を言うこともなく"あの場所"を目指して歩いた。


「ここ、懐かしいな」


歩き続けてようやくたどり着いたのは、幼い頃3人でいつも遊んだ公園。


端っこの方に鉄棒がポツンと設置してある。

そういや、あの鉄棒で毎日練習してたなぁ。


滑り台も、砂場もジャングルジムも、今となってはとても小さくなってしまった。昔はあんなに大きくて、いくらはしゃいでも物足りないくらいだったのに。いつの間にこんなに見る世界が変わってしまったのだろう。


「ねえ、奇跡ってあると思う?」


ブランコに腰を下ろした美穂がうつむきながら聞いてきた。


「俺は、無いと思う」


そう告げた。奇跡なんてない。人々が奇跡と言っている出来事は、ただ運が良かっただけの事実なのだから。


「…………そう」


『私の病気は奇跡でも起こらない限り治ることは難しい』


さっき凛から直接聞いた言葉だった。きっと凛は"死"を覚悟しているんだ。でも病気は、奇跡でも起きなければ……運が良くなければ治らない。


「一昨年の夏、3人で海に行ったじゃない? その時ね、私凛ちゃんから聞いたの。『好きな人がいるんだ』って」

「……そういやそんなこと言ってたな」

「きっとその人はお兄ちゃんなんだよ。だってお兄ちゃんと喋ってる時、いつもすごく楽しそうじゃん」

「ん? いつもツンツンしてるけど」

「それはそれ。全く、兄が鈍感すぎて困ってますって小説のタイトルありそうよね〜」


何言ってんだ? こいつ。


「でも凛ちゃんは本気だったんだよ。いつもお兄ちゃんのためにって。あんなの普通の人が見たらすぐに気づくのが当たり前よ」


美穂の言うことを今聞いても、驚くことはなかった。なぜかは分からないけど、きっと今まで共にいた時間がそうさせたんだと思う。


「そうか。……俺も、凛のことが好きだったよ。友達としてか、恋愛としてかは分からないけど、あいつといると……3人でいると、いつも気づいたら夕暮れになってた」

「それって好きっていうの?」

「……どうだろうね」


ふふふ、と美穂が悲しそうな顔で笑った。きっと美穂も今まで一緒にいた記憶を思い出してるんだろう。


「……昔、小学校の先生が言ってたことなんだけどさ、どれだけ頑張っても最終的には報われない人が、割合的にはものすごい多いらしいんだ。でも、何で人は努力を続けると思う?」

「そりゃあ、まだ諦めてないからでしょ?」

「……確かにそれもあるかもしれない。でも、違う」


遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。それが鳴き終わるのを待ち、俺は口を開いた。


「信じてるからだ。周りで見ている人や、家族や友達や、そして自分を」


そうだ。俺は信じている。だから願い続ける。


「凛の病気は、治らない確率の方が格段に高い。でも、俺たち2人で何かを続けていこう」

「…………そうだね」


美穂がそう言ったのを確認して、俺は美穂の手を握った。きっと1人じゃ寂しいだろう。いつの日か、もう片方の手は凛に握ってもらうと信じている。


「ねぇ、おにいちゃん」


ブランコから立ち上がった美穂が呼んできた。美穂は後ろを振り返り、短い髪を視界が開けるようにはらい、言った。


「……夕日が綺麗だね」

「あぁ、そうだな」


優雅に咲く赤い太陽に背を向けて、2人で並んで歩き出した。

ここまで呼んでくださりありがとうございます! 大好きです(ハート)

学生の教科書に載っているような短編を書くことが夢でもあります。

あれ、妙に世界に飲み込まれて見入ってしまいますよね。

まだまだ修行中の身、どうか感想をお聞かせください!(ついでに評価もよろしくの願いします)

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