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80 もう一つの魔輪

 ライアの右手首に光るそれは、紛れもなく魔輪・ブリージンガメン。

 使用者に四属性魔法を操る力を与える伝説の召喚武器。

 そして、今はヘレイナが持っているはずの七傑武装セブンアームズの一つ。


「ブリージンガメン? リンナちゃん、これを知ってたんだ。よかった、わざわざ見せに来て」


 安心した様子のライアだが、玲衣とリンナはそうはいかない。

 ブリージンガメンはヘレイナが持っているはずなのだ。

 実際に魔輪の力で四属性魔法を繰り出す様もこの目で見ている。


「ライア、もう一度確認するがそいつは本当に露店で売ってたんだな」

「そうだよ? もう何十年も蔵で眠ってたんだって。誰が使っても何も出てこないガラクタだから捨て値で処分したいって言ってた」

「誰が使っても駄目……。リンちゃん、七傑武装セブンアームズって武器に選ばれないと使えないんだったよね」

「そうだな。その特徴と完全に一致する。もしもその店主がヤツの仕掛けた罠で無かったとするなら、ヘレイナの魔輪は一体……」


 そこまで口にして、リンナは考えを中断する。

 今あれこれ考察すれば、無関係なライアを厄介事に巻き込みかねない。


「ところで結局この腕輪はどんなものなの?」


 自分を置いてけぼりにしてよくわからない話を続ける二人に疎外感を感じたようだ。

 ライアは頬を軽く膨らませて話に割り込んだ。


「あ、ああ。そういえばそれを聞きにここまで来たんだったな」

「ひどいっ! 忘れてたの!?」

「ごめんね、ライアちゃん。私達も驚いちゃって」

「で、その腕輪の名前だが」

「さっき聞いた。ブリージンガメンでしょ。……あれ、でもさっき魔輪って言ってなかった?」


 魔輪、その呼び名ならば誰でも知っている。

 暁の伝説に登場する、七つの召喚武器の一つだ。


「その通り。それは魔輪・ブリージンガメン。暁の伝説に登場する七英傑が使った七傑武装セブンアームズの一つだ」

「……は? ……え? リンナちゃん、何言ってるの? あれはただのおとぎ話だよね?」


 リンナの言葉に、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするライア。

 すっかり感覚が麻痺していたが、これが当然の反応だ。

 七傑武装セブンアームズや三神獣が実在するなど、多くの人間が夢にも思っていない。


「やっぱり驚くよね。でも暁の伝説は本当にあったことなの」

「ほ、本当なのですか? レイお姉さま」

「うん、リンちゃんも持ってるし。聖剣と神狼」

「ちょっ! そこまで言わなくても……」

「え、ホント!? リンナちゃん凄い、結婚して!」


 リンナとしては最低限の情報だけを与えたかったのだが。

 だが、そこまで明かさなければ信じて貰えないほど荒唐無稽な話ではある。

 求婚については無言のスルー。


「でもそっかー、これが魔輪なのか。じゃあ何で私なんかにそんな凄いものがあっさり呼べたの?」

「魔輪を含む伝説の召喚武器、七傑武装セブンアームズって呼ぶんだけど、コイツは武器に選ばれた人間だけが召喚出来るんだ」

「召喚師の訓練を積んでなくても呼べるとは思わなかったけどね」


 思い起こせばホズモンドも召喚師ではない一研究者だった。

 武器に選ばれさえすれば、召喚師の技術は関係なく呼べるのだろう。


「なるほどなるほど。でもこれって武器には見えないんだけど。ただの綺麗な腕輪だよね」

「そいつは使用者に四属性の魔法を操る力を与えるんだ。今のお前は手から火を出したり……」

「どれどれ……。おぉ、ほんとに出た! ライアさん感動だよ!」


 人差し指を立てて念じると、彼女の指先に小さな炎が灯った。

 本当に魔法を使えたことにライアは目を輝かせる。


「おわっ、ここで出すな! 火事になったらどうする!」

「ごめんごめん、すぐ消すから。えいっ」


 消えろと念じた途端、小さな火種はきれいさっぱり消え去った。


「なんか面白い……。ねえリンナちゃん、これがあればお風呂を簡単に湧かせるんじゃない? あと暖炉の種火にも使えるし。他には何が出来るの?」

「あとは氷を出したり……」

「おお、ぬるいジュースをいつでも冷やせる!」

「風を操ったり……」

「掃除に大助かり!」

「雷も出せるぞ」

「蓄電機にタダで電気溜め放題だ!」

「……ん、本当にこいつが魔輪に選ばれたのか?」

「あはは……、物騒な使い方をするよりずっといいんじゃないかな……」


 伝説の武器を便利な電化製品みたいに扱うとは、彼女はリンナの想像の上を行ったようだ。


「ありがとう、リンナちゃん。私とっても良い物を手に入れたみたい」

「それは良かったけど、あんまり言いふらしたりするなよ。それ、便利な家庭用品じゃないんだから」

「わかってるわかってる。それじゃあ私、牧場に戻るね。皆に仕事をまかせっきりにしてるから、早く帰ってあげないと。えい、元に戻れ!」


 ライアが念じると、魔輪は緑色の宝玉へと姿を変えて彼女の手の中へ。

 宝玉をポーチの中に大事にしまうと、彼女は椅子から立ち上がった。


「それでは二人とも、お世話になりました」

「じゃあね、ライアちゃん。また困ったことがあったらいつでも来てね」

「あぁ、お優しいレイお姉さま。実は今とっても困っているのでおっぱい見せてください」

「帰れ! お前は今すぐ帰れ!」


 わきわきと手を動かして玲衣に迫るライアを羽交い絞めにして、リンナは追い出そうとする。


「あぁん、別に良いじゃん、減るもんじゃないんだし。あと背中に押し付けられたリンナちゃんの体の感触、役・得っ」


 うっとりとした表情で土間まで連行されたライア。

 玲衣の体を舐め回すように見つめる彼女をリンナは威嚇する。


「早く帰れ、この変態!」

「つれないリンナちゃんも素敵。それではごきげんよう」


 最後までひたすら己を貫き、彼女は部屋を後にした。

 大きなため息を吐くと、リンナは勢いよく玲衣に抱きつく。


「レイ、私すっごく疲れた……」

「うん、私も……。でも疲れてる場合じゃないよね」

「そうだな。疲れるのもイチャイチャするのも後回しだ」


 玲衣から体を離すと席に付き、真剣な表情で頭を回転させていく。

 もう一つのブリージンガメンが存在する、これの意味するところとは。


「ヘレイナの魔輪とライアの魔輪。魔輪は二つあるのか、それとも……」

「どちらかが偽物ってことか、だね」

「その通り。まず二つあるって可能性だけど、これはほぼ無いだろうな」

「どうして? もしかしたらあるかもしれないじゃん」


 玲衣の言葉に、リンナは首を横に振る。

 魔輪が二つある可能性は低い。


「暁の伝説に魔輪が二つなんて記述はどこにも無いし、他の武器が一つなのに魔輪だけが二つあるなんてのも考えにくい」

「でもそれだけで否定するのは……」

「確かにゼロとは言えない、でも可能性は物凄く低い。もう一つの可能性、私はこちらで間違いないと思ってる」

「どちらかが偽物の魔輪、リンちゃんはそう思ってるの?」

「どちらかって言うか、ヘレイナの魔輪。偽物なのはあっちだろうな」


 自信を持って断定する。

 そもそもヘレイナには、魔輪以外にも不可解なことが多すぎた。


「なんで……ってそうか。ライアちゃんの魔輪が偽物なら、魔法を出せるはずないもんね」

「それに間近で見たからわかるんだ。ライアのブリージンガメンからは他の七傑武装セブンアームズと同じものを感じた」

「ライアちゃんのが本物である以上、ヘレイナのは偽物ってことか」

「ところが、ヤツの魔輪が偽物だとすると新たな謎が生まれるんだ」

「それって? アイツに関してはわからないことだらけじゃん」


 ヘレイナの正体や目的について考えても、玲衣には全く見当がつかない。

 リンナは何か糸口を掴んでいるのだろうか。


「ヤツが一体どうやって魔法を使っているのかってことだ」

「そんなの自力で使ってるに決まってるよ。アイツ瞬間移動だって出来ちゃうんだし」

「問題はそこじゃない。人間は自力で魔法なんて使えないんだから」

「あ……、そうだった……」


 ファンタジー好きな玲衣にとっては、魔法使いという物は非常に馴染みがある。

 そのために、ヘレイナの瞬間移動もすんなり受け入れてしまっていた。

 思えばアレ自体が人間としてあり得ないのだ。


「えっと、人間が魔法を使う方法……。何かあるの?」

「……ん、それこそブリージンガメンのような召喚武器。でもヘレイナが魔輪以外の召喚武器を使ってる場面なんて一度も無かったな」

「リンちゃんにわかんないなら私にわかるわけないよね。考え過ぎて疲れちゃったしちょっと休むね」


 玲衣はテーブルに突っ伏してだらけはじめてしまった。

 ひんやりとした木の感触が頬に心地いい。

 彼女の対面でリンナは考えを巡らせる。

 何か無いか、人間が召喚武器無しで魔法を使う方法は。


「……駄目だ、何も思いつかない。人間が自力で魔法を使うなんて出来るはずないんだ」

「うーん、もしかしたら人間じゃなかったりして。なーんて、そんなわけないよね」

「人間じゃない、か。でもアイツ、どう見ても人間だしな」

「これ以上考えてもわかんないよ。それよりリンちゃん、せっかく二人きりなんだよ?」


 両手で頬杖を付き、上目づかいでこちらを見つめる玲衣。

 その瞬間、リンナの頭の中から薄気味悪いヘレイナの顔が吹き飛んだ。


「……ん、そうだな。なんだか考えが煮詰まってきた。気分転換も大事だよな」

「そうそう。ライアちゃんが帰ってからずっと待ってたんだからね」


 ベッドに腰掛けると、玲衣は両手を広げて「おいでおいでー」とスタンバイ。

 そんな彼女の胸の中にリンナは飛び込んだ。

 出迎える柔らかな身体の感触と大好きな恋人の匂い。

 小さな背中に腕を回して受け止めると、玲衣はリンナと間近で見つめ合う。


「えへへ。リンちゃん、いっぱいイチャイチャしようね。んむっ……」

「ちゅっ……ぷぁ。おかしいな。さっきまで色々考えてたはずなのに、もうレイのことしか考えられない」

「えへへ、私はいっつもリンちゃんのこと考えてるよ? どんな風に野菜を料理したら食べてくれるかとか……」


 放っておくと肉しか食べないリンナにどうやって野菜をとらせるか。

 その難題をクリア出来たのも、ひとえに愛の力と言えるだろう。


「だからあんなに食べやすいんだな。いつもありがとう、レイ。日常生活でも戦いでも、助けてもらいっぱなしだ。レイの居ない暮らしなんて、絶対に考えられないな」

「私こそ、リンちゃんがいないと生きていけないんだから。私をこんなにしちゃった責任、しっかり取ってね」

「責任、か……。もちろん取るよ。だからレイ——」


 前にも気持ちは伝えた。

 ずっと一緒にいたい、その覚悟もある。

 でも、今ここではっきりと気持ちを伝えたい。

 リンナは玲衣の目を真っ直ぐに見つめ、その言葉を口にした。


「私と、結婚しよう」

「ぁ……、えと……っ」


 突然のプロポーズ。

 しっかりと心の準備をしていた告白とは違い、完全な不意打ちだ。

 以前も似たようなことは言われたが、こんなにはっきりと伝えられてはいない。

 どうすればいいのか、玲衣は上手く言葉を返せない。


「あ、あのね、リンちゃん。私も……、私もリンちゃんのお嫁さんになりたい!!」


 顔を真っ赤にして、精一杯の返事を返す。

 ただただ正直な気持ちを乗せて、リンナにぶつける。

 気の利いた言葉なんて出てこずとも、それだけで玲衣の気持ちは十二分に伝わった。


「うぅ、ずるいよリンちゃん……。あんなこと突然言うなんて……」

「ごめん、でも嬉しいよ。私の気持ち、ちゃんと受け入れてくれて」

「そんなの、当たり前じゃん……。断るわけないよ、こんなに大好きなのに」


 リンナの小さな体を、玲衣は思いっきり抱き寄せた。

 体が密着し、リンナの顔は玲衣の左肩の上へ。


「ん、レイの匂い落ち着く……」


 玲衣の首筋に鼻を寄せる。

 石鹸の匂いと甘い匂いが混ざった香りは、いつまでも嗅いでいたい気分にさせる。

 リンナの息が首筋をくすぐり、玲衣の背筋をゾクゾクとした感覚が走りぬけていく。


「んっ……、リンちゃん、息くすぐったい……」

「レイ、海でのお返しだ。れろっ……」

「ひゃうんっ!」


 そのまま舌を首筋に這わせると、玲衣の全身がビクっと跳ねる。

 玲衣は慌ててリンナを引き剥がした。


「もうっ、やり過ぎだよ……。変な声出ちゃったし、凄く恥ずかしい……」

「別にいいだろ、私しか聞いてないんだし。いくらでも変な声出しちゃえばいいよ」

「うぅ、リンちゃんのえっち」


 潤んだ瞳で玲衣とリンナは見つめ合う。

 お互いに顔を紅潮させ、胸の鼓動は高まるばかり。


「ね、私もう我慢できないの。リンちゃんが好き過ぎて、我慢できないよ……」

「何が我慢できないんだ?」

「わ、わかってるくせに! リンちゃんの意地悪っ……」

「ふふっ、冗談だよ。私も我慢できそうにないし……」


 玲衣の両肩に手を置くと、リンナはゆっくりとベッドに押し倒す。

 まだ外が明るくても関係無い。

 今の二人にとって、お互いの存在が世界の全てなのだから。

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