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34 正体

 振り抜かれた剣。

 真っ二つとなり、宙を舞う穿弓。

 カラン、と乾いた音が鳴り、落下したミストルティンは光となって宝玉に戻った。

 次の瞬間、ホズモンドはよろめき、体をくの字に曲げ、


「グハッ!」


 口から大量の血を吐くと、その場に倒れ伏す。

 召喚武器を破壊された場合も、召喚獣と同様に反動が使用者を襲う。

 七傑武装セブンアームズともなれば、その衝撃は相当のものだ。

 しばらくは立ち上がる事すらできないだろう。


「やった、レイ!」


 玲衣の勝利に安堵の表情を浮かべるリンナ。

 同時に緊張の糸も切れ、今まで感じなかった体中の痛みに顔をしかめる。


「うぐっ! ごめん……、ブーストはこれが限界だ……」


 リンナから供給される力が途絶え、玲衣の体を包む白い光が消え去る。

 途端に全身から力が抜け、足が体を支えていられなくなった。

 剣を杖代わりに体を支え、なんとか耐える。

 ここで倒れたら相討ちも同然だ。


「ハァ、ハァ……。私の、私たちの勝ちだ!」

「フフフ、見事でした。ワタクシの夢への想いを、貴女達の想いが上回ったといったところでしょうか」


 力なく笑うホズモンド。

 ここに来るまでの道中、夢を語る彼の姿は作り物ではなかった。

 リンナにはどうも、彼が根っからの悪人だとは思えない。


「ホズモンド……。どうしてヘレイナ達の仲間になったんだ」

「どうして、ですか。そうですね。ワタクシは三神獣の実在を証明する研究に没頭していた。しかし決定的な資料が見つからず、行き詰っていたのです。そんな時、ワタクシの前にヘレイナが現れた。ワタクシが穿弓に選ばれたと言って」

「ヘレイナが穿弓の宝玉を渡したのか!?」

「そう。彼女がそれをどこで手に入れたかは分かりませんが、ワタクシは感動しました。暁の伝説に登場する七傑武装セブンアームズが実在する。それはすなわち、三神獣の実在をも意味している」


 台座の上で輝く紫の宝玉にホズモンドは目を向け、愛おしげに眺める。


「さらにヘレイナは見た事も無い資料を数多く提供してくれた。おかげで研究は大幅に進みました。ワタクシの夢の実現には、彼女の力が必要だったのです」


 そして天井に目を向け、ため息を一つ。


「ワタクシは自分の選んだ道に後悔はありません。現にこうして世界蛇の存在も証明できた。さて、依頼の達成報酬がまだでしたね」

「達成報酬……、それって! 教えてくれるのか!?」

「ふふっ、悪党の気まぐれですよ。ひび割れた宝玉の正体、それは——」


 玲衣を異世界から召喚し、光の剣を呼びだす不思議な力を持った宝玉の正体が、ついに明かされる。

 玲衣とリンナは思わず息をのみ、ホズモンドの言葉を待つ。


「その正体は、最後にして最強の七傑武装セブンアームズ。聖剣・レーヴァテインの宝玉です」


 ホズモンドの口から飛び出したその言葉に、玲衣もリンナも一瞬思考が停止する。


「せ、せ、七傑武装セブンアームズって、聖剣って、どういう事!? リンちゃん!?」

「私もさっぱりだよ! 七傑武装セブンアームズって、七英刃が全部持ってるんじゃ……」


 リンナの疑問に、ホズモンドは首を横に振る。


「全く、七英刃なんて紛らわしい名前を付けたものです。ワタクシ達は六人、所有している武装も六つです。もっとも、今は五つになってしまいましたが」

「つまり光の剣の正体は……」

「あれこそが聖剣の力の片鱗。貴女達が未熟なせいか、完全な形での召喚はまだ出来ないようですね」


 杖の先端で淡く輝く宝玉を、リンナはじっと見つめる。

 この宝玉が聖剣・レーヴァテインの宝玉、もしそうだとしても。


「これが聖剣の宝玉だとしたら、どうしてレイはこの宝玉で召喚されたんだ?」

「ね、リンちゃん。私ずっと気になってたんだ。このペンダント」


 玲衣は首に下げたペンダントのカバーを開き、中に入った欠片を見せる。

 光の剣が現れる時、リンナの宝玉と共鳴するように光るペンダント。

 今回の戦いでも輝きを放ち、光の剣を呼びだした。


「これって、その宝玉の欠片なんじゃないかって」

「その通りです、レイさん。それは聖剣の宝玉の欠片。確証は持てませんが、貴女が召喚されたのと無関係では無いでしょう」


 玲衣の言葉を肯定してみせるホズモンド。

 次にリンナに目を向け、伝えるべき事を伝える。


「リンナさん、七傑武装セブンアームズは誰にでも使える召喚武器ではありません。武装が使い手を選ぶのです」

「使い手を、選ぶ……」

「そして聖剣レーヴァテインに選ばれたのは——」

「お喋りはそこまでよ、『ミストルティン』。いや、ホズモンド」


 地下に反響する女の声。

 玲衣とリンナの全身に緊張が走る。

 この場にいる全員が、その声に聞き覚えがあった。


「アンタ……、ヘレイナ!」

「くそっ、こんな時に……!」

「はぁ~い。また会ったわね、お二人さん」


 どこからともなく姿を現したヘレイナ。

 こちらにヒラヒラと手を振ると、ヨルムンガンドの宝玉が置かれた台座の前で彼女は足を止めた。

 玲衣もリンナも臨戦態勢を取ろうとするが、二人とも体力の限界だ。

 体に力が入らず、ただ睨むことしかできない。


「そんなに怖がらなくてもいいのよ。用があるのは貴女達でも、そこに無様に転がっている男でもないから」


 そう言うと、ヘレイナは世界蛇の宝玉に手を伸ばす。

 すると突然、ホズモンドが顔色を変えて叫んだ。


「いけません、ヘレイナ! その宝玉は邪悪なものとして暁の召喚師が封印を施したのです! リンナさんの力を使い、正しい手順で封印を解かなければ、この遺跡は崩れ去る!」

「あらそうなの、でも私には関係無いわ」


 全く耳を貸さず、台座の上の宝玉を小石を拾い上げるようにひょいと掴み上げ懐にしまう。

 その途端、地下のドーム全体を激しい揺れが襲った。


「なんて事を! お二人とも、早く脱出して下さい! この遺跡はすぐに崩れます!」

「脱出って言っても……」

「私達、体が動かないんだ……!」


 ヘレイナは三人の様子を面白そうに眺め、クスクスと笑う。


「大丈夫。貴女達二人はここで死なせるわけにはいかないから、助けてあげる。そこの男はどうでもいいのだけれど」


 ヘレイナが指を鳴らした瞬間、ホズモンドの前から二人の少女は忽然と姿を消した。


「ヘレイナ、二人をどこへやったのですか!?」

「ふふっ、心配しなくても平気よ。安全な場所へ送っただけだから」


 倒れているホズモンドに、ヘレイナはツカツカと歩み寄る。


「穿弓を壊してしまうなんて、全く使えないわねぇ。あれが自動修復するのに五十年はかかるのよ?」

「貴女、ワタクシ達の戦いを最初から見てましたね」

「さぁ、どうかしら」


 口元に手を当て、彼女はホズモンドを見下ろす。

 冷笑を浮かべ、その右手にブリージンガメンを輝かせて。


「先ほどのワープ、あれはブリージンガメンの力ではありませんね」


 彼の知る限り、ブリージンガメンにあの様な力は無いはずだ。

 その言葉を聞いた瞬間、ヘレイナの顔から笑みが消える。


「貴女の力の源、それはまさか——」


 彼が次の言葉を口にする前に、ヘレイナはホズモンドの顔面を鷲掴みにした。

 そのまま片手で彼の身体を軽々と持ち上げる。


「……放っておいても岩に潰されて死ぬけど、それでは気が済まなくなったわ。口は災いの元って言葉、知らないのかしら」

「やはり! 貴女のちか」


 ブリージンガメンの黄色の宝石が光を発し、ホズモンドの体の周囲に三つの雷雲が瞬時に生成される。

 雷雲は即座に電撃を放ち、彼の全身は焼け焦げていく。

 薄れゆく意識の中、彼は最期にこう思った。


 ——三神獣の存在を、『二つ』も証明できた。まぁ、満足ですかね。



「この私に、余計な力を使わせて」


 黒く焼け焦げたホズモンドの亡骸を、ヘレイナはゴミのように投げ捨てる。

 そしてミストルティンの宝玉を懐にしまうと、崩れゆく遺跡から忽然と姿を消した。




 ☆☆




 ヘレイナがパチンと指を鳴らすと、一瞬で景色は移り変わった。

 今、玲衣とリンナは蒸し暑い夕暮れの森の中にいる。


「あれ!? ここどこ?」

「何が起こったんだ!?」


 激しい困惑の中、二人は辺りを見回す。

 少なくとも見える範囲に、世界蛇が封印されていた岩山の広場は見えない。

 石柱の遺跡群も見当たらない辺り、かなり遠くまで飛ばされたのだろうか。


「これって、ヘレイナの力——だよね」

「ああ。私達二人をここまで飛ばしたのか? 何なんだ、あいつは」


 果たして、これが魔輪・ブリージンガメンの力なのか。

 ヘレイナの底知れない力は、不気味さすら感じさせた。


「そうだ、ホズモンドはどうなったの!?」

「一緒には飛ばされていないな。多分、まだあの遺跡の中だ……」

「助けに行かないと……。それに、世界蛇もヘレイナに奪われちゃう……」


 その場から立ち上がろうとするが、足に力が入らずよろめく。

 倒れそうになる彼女を、リンナは抱きとめた。


「無理だ! あの遺跡がどこにあるかも分からないし、見つかったとしても間に合わない。それにその体じゃ……」

「……そう、だね。ちょっと動けない、みたい」

「あまり無茶しないでくれ。レイに何かあったら、私は……」

「……うん。ねぇ、リンちゃん。私、疲れちゃった。少し休むね……」

「ん、お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」


 体に溜まった極度の疲労とリンナの体温の安心感から、強烈な眠気が襲う。

 大切な彼女の髪を優しく撫でながら、リンナはその顔を見つめる。

 リンナの腕の中、玲衣は目を閉じ、静かに寝息を立てはじめるのだった。

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