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犬と新村謝肉祭

「おぉぉぉぉぉん、ぐあああああ。

 朝が来た、起きないと。」

「パルサ、おはよう。

 また朝ひどいのね。いけない子に呪われたのかしら?

 何か拾い食いしたの?

 鬱?それとも鬱なの?リッチになったら引きこもりのリッチになりそう。うふっ。」


 僕の朝は現実逃避から始まる。パルサです。

 朝辛い。金縛りを気力で吹き飛ばさないと起きられない、みたいな?

 ママンは僕がリッチになるのを見たいようだ。昔からリッチリッチ言ってるし。


 もっさもっさと朝食を食べている。

 今日もお手伝いで、新村住民を鍛える日だ。がんばろう。


「パルサちゃん、今日新村カーニバルだから手伝ってね。

 新バランス筋肉スーツの試作品作ったの。」

「カーニバルって昨夜のあれじゃなくて?」

「あれはあれそれはそれよ。

 筋肉スーツのイベントだから謝肉祭カーニバルって言う事にしたのよ。」

「ああ、筋肉スーツって筋肉ボロボロに虐めるからね。

 筋肉さんゴメンねって意味ね。謝肉祭ってそう言う意味なの?、この世界って。」

「パルサは、前の世界だと違う意味だったの?カーニバルって?」

「うーん。詳しくないけど。

 バーベキューで肉を沢山焼いて食べて、色々なワインを浴びるほど飲んで楽しむ?お祭り?みたいな?」

「あらあら、筋肉スーツも肉使ってるけど焼いちゃダメよ。

 焼肉とワインをいっぱい持っていきましょうね。

 村の人達と自警団の人の分もね。

 みんなも行くよね?」

「行くー」


 多種多様なワインをギンギンに冷やし、フレッシュミートがあるのを確認。筋肉スーツからは全力で目を逸らし、肉と酒に集中するんだ。

 みんなで、いそいそとお出かけ用意をする。



「おーい、お前ら!

 これまでは、色々あったかもしれん、だがそれは、お前らが弱かったからだ!

 お前らは弱い。弱すぎて悲しくなるほど弱い。わかるかな?

 もし、他村の幼児と喧嘩でもしてみろ?

 お前らワンパンで負けるぞ!

 絶対喧嘩するなよ?ホントに弱すぎて死んじゃうぞ?

 弱いのが悪いんだ。わかったな?

 それにな!

 強い盗賊なんていないんだぞ?強かったら別の仕事するんだぞ?

 お前らが盗賊以下なんて、弱すぎて、領主悲しい。

 で。だ。

 前置きが長くなったが、うちの仕事するにも、ここで暮らすのも強さがいる!」


「わかったら返事だ!

 返事は『オレは強い!』だぞ。

 わかったな!

 はい、返事!」


 パパンが適当な事を言ってて楽しそうだ。

 自警団のみんなも呆れて苦笑いだ

 楽しければ何でもいいんだけどね。


「さて、

 昨日、話したように、訓練を行う。

 誰でも!確実に!スキルが獲得出来る!強くなれる!

 これは実証済みである!

 見ろ、私のワイフが開発した特別バージョンの訓練用スーツだ!

 超お高いが、当家は開発者がいる!

 どんどん使え!嫌だと言っても使って貰うぞ!

 お前らの飼い主だった盗賊がパクったのもこのスーツだ。お前たちは筋肉スーツパクられて良かったな?良かったよな?

 このスーツには治療魔術が組み込まれている。

 体調が悪い、病気、骨折、捻挫に打ち身、浮気して母ちゃんに刺された刺し傷も!全部きれいに治っちゃうんだぞ。

 くそったれの教会で治すと奴隷落ちするほど金取られちゃうんだぞ。理解したか?理解したよな!

 さぁ、やるぞ!いいな?やるんだぞ?

 終われば、肉とワインを満足するまで食べてくれ。肉とワインだ。終わったらだぞ?

 さぁ、始めようじゃないか!

 イエス!筋肉!カーニ、バッル!」


 パパンがノリノリで説明してる。

 ここは村外れ、見通しが良く、脱走も助けも来ない。自警団がバギーで爆走している。誰も逃げられない、逃がさない。ヤバイ雰囲気バリバリしてるぜ。


「パルサーカモーン!」

「パルサです。よろしくお願いします!」

「まずは、うちの息子が実践する。よーく見ろ!覚悟を決めておけ!」

「パルサいきまーす!」


 パルサパパのニッと笑ってサムズアップにサムズアップで答えるパルサ。

 気合で筋肉スーツを装着する。最近のモデルは、筋肉を細く本数を増やし、樹脂合成筋肉に変更したので、肉の生々しさは控えられている。関節アーマーも内部にメッシュ筋肉構造を追加し密着度が上がっている。いい着心地だ。重さはかなりあるが、トレーニングが始まれば、それどころじゃない、オーケーオーケー大丈夫だ。


「開始する!ゴー農作業!」

ブーン、ミシミシミシ、ブンブン!ブンブン!


 最適な角度とスピードで筋肉スーツが躍動し鍬を操る。関節と筋肉の動きに逆らわぬよう、むしろ、力を上乗せし手の鍬を土に振り下ろす。徐々に上がる筋肉スーツのスピードを追いかける。駆動する関節部位が増え、肩と腰がダイナミックな連動を始める。振り下げた鍬刃が地面に触れ、触れた地面が深く抉れ土が弾ける。足、腰、背中、肩そして腕、一連のひねりは鍬の重さを加速に変え、上下の振り下ろしから、左右のなぎ払いへ、変幻自在な鍬さばきへと変化する。


 振り抜いた鍬が手首のひねりで宙に浮き、空中のキャンバスに円を描き、柄に力が蓄えられる、左から右へ解放する力で柄がしなり、空気と舞い上がる土、えぐる地面を混ざり合わせ、鍬の刃を振り抜く、力の余韻が手首で返され、中空に円を描き力を蓄える。右足左足すり足で下がり、しなる柄を追うように、鍬の刃が地面を通り爆裂させる。ゆるやかな動作が生み出す理不尽な力、確かにこの世の理であると、無駄がない連撃で理解させられた。これが鍬の頂きか。どこまでもどこまでも、鍬とともに威力が伸びる。今、覚醒した!


 切り裂くように、深く深く、地中をえぐり、はじけるように、溜めた力が地中を深く突き進む。舞うように、踊るように、鍬の軌跡はパルサを中心に真球を描く。衝撃波が地中を伝い、衝撃の道をなぞり空中へと地面が爆ぜ、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつと衝撃波がバラ撒かれる、爆ぜる土が降り注ぎうねとなり、ずらりずらりと綺麗に並ぶ。


 鍬の風斬り音がシュララララと鳴る速度で、握る腕すら認識できない。

 独特なステップと回転に、体の向きすら不明なままで、狂った刃物が地表をえぐる、通り過ぎる跡はうねが並ぶ。パルサさえよくわからない状態に、結果が現象を呼び起こす異世界ワールド。もはや誰も意味がわからぬまま、農作業が行われる。高度過ぎる農作業は魔術を超えた。


 えんやっと、えんやこらっと、1時間近く地表を破壊し続けた。

 バンザイ終了。筋肉スーツがバラバラと解除された。


「ミッションコンプリート!」

「はい。パルサおめでとう。農作業超級のトレーニング実演でした。

 流石にこれは無理なので、みなさんは農作業初級からやってもらいます。

 ですが、やり続ければここまで出来ると言うことです!

 良いですか。出来るんですよ!?

 はーい、パルサありがとう。

 みなさん拍手、拍手してくださーい。

 あと、特別に自警団剣術モデルも用意しました。

 これで鍛錬すれば、森で魔獣相手に腕試しも楽勝です。

 さぁ、順番にやって行きましょう!」


 こそこそとパルサ一家でお話しする。


「パル坊、あれ、よく、クリアー出来たね?」

「だって、飽きるほどやってるしコツも掴んだからね。

 試作機の実験台だったり、デモストレーションだったり。

 スキルレベルもすげー上がってるし。

 そうそう、あれ、肉体強化しないとクリアー出来ないからね。

 途中で手から衝撃波を打つポーズもあったし、それ系武術も必要かも。」


「うっそー。何であれ、農作業なの?」

「さー?オーガや狼と肉弾戦出来るぐらいじゃないと、クリアー無理っぽいよ。」

「なにそれウケルー」

「下手うつと、筋肉千切れるからね。ハハッ

 あ、そうそう、あれ、あのままで、薙刀持ったら、めちゃめちゃスキルあがりそうだよ。」

「やべー、なにそれ。槍でやってみようかな。」


 パルサと娘達がキャッキャしていた。その向こうでは、筋肉スーツによる村民拷問ショーが始まった。

 成人用10体と子供用6体の拷問スーツがフル稼働を始めている。悲鳴が響き渡り、ぶっ倒れる拷問スーツ。倒れたスーツが、中の人など無視して強引に立ち上がり農作業を開始する。時々骨が折れる嫌な音がなる。パターン毎に治癒魔術が発動するから耐えて欲しい。ダイナミックな転び方をする筋肉スーツには、拍手を送りたくなる不思議。


 パルサパパはずっと「気合」しか言っていない。間違いではない。諦めて気合を入れるしか逃げる道はないのだ。


 悲鳴が止まない。順番待ちの住民からもパニックの悲鳴が聞こえる。慣れれば大丈夫。はやく諦める事を覚えて欲しい。

 パルサはあちらを見ないように、心の目をギュッと反らした。


「パル坊の時と違って、血反吐が吹き出したり、血溜まりが出来ないって凄いよね。」

「うん。試作機は酷かったー。」

「あー、あれは見てるだけも酷かった。」


「そんな事より、バーベキューしましょー。パルサちゃんも手伝って。」

「はーい」


 死力を尽くす住民さんが喜んでもらえるよう、肉をスライスし塩コショウで下ごしらえする。

 バーベキューコンロをサクッと岩を盛々して作成、炭をガッっと入れ焼き網を乗せる。待っててもあれだし火を入れちゃおう。早く終わらせようって気持ちにもなるっしょ。


「にっくにっくにっくー。ネームドモンスもにっくにくー。」

「良い感じ。もういいか?」

「いいよー」


 ナッツが食べだした。僕はワインっぽいものを肉を焼きながら飲んでいた。

 照りつける太陽!うまい肉!うまいワイン!最高だね。


「パルサー、こっち、手伝ってー。」

「はーい。

 終わった人から、ステータスチェックね。

 任せてー。」

「お母さんはこっちでするからね。」

「はーい。」


 ステータスの伸びがいいな。バランス良く良い感じで伸びてる。農作業スキルもクリアしてるし、格闘も剣術も良い感じ。もう素手で熊ぐらいなら行けちゃうな。カルテ書き書き。

 オッケー。


疲労回復魔術ドーン


「もう大丈夫ですよー。

 山の熊魔獣と素手で殴り合って勝てるようになりましたよ。

 トレーニングが終わった人と格闘組手や剣術模擬戦してみるとわかりますよ。あと、鍬と鎌の扱いがうまくなってます。知力と魔力も上がったので魔術も覚えられますよー。生活魔法は冊子を読んで使ってみて下さい。自然系魔術も覚えると農作業楽ちんです。

 以上です。お疲れ様でした。肉食べて回復してくださいね。」


「ねぇ母さん、たぶんみんな同じぐらい伸びると思うんだ。

 毎回説明するの面倒なんだけど。

 父さんにまとめて説明してもらうってどう?」

「そうね。トレーニングで同じ結果出てるし問題なさそうね。

 父さんに説明してもらいましょ。」


「さ、みんなバーベキュー食べに行くよー!」


 うんうん。トレーニング後の皆さんいい笑顔だ。過去を吹っ切りれたようで良かったよかった。

 お食べお食べ、たーんとお食べ。


 パルサはその後もトレーニング後にカルタを記録し、ヘロヘロになった人に疲労回復を、欠損があったり目が見えなかったりする人には死霊術で肉体改造、次々に治療しちゃう。これまでの、無意味な努力や頑張りを忘れられるように、新しい生活に希望が持てるように、パルサはにこにこと住民を眺めるのでした。

 犬はモリモリと焼肉食べてた。



「ねぇ母さん。この姉弟、ゴーレム術覚えてるんだけど。」

「あら、ほんと。調べとくね。」


 住民の伸び結果を見ながら、次作筋肉スーツの構想を練るパルサ親子なのであった。

 肉とワインと筋肉スーツは、良い天気の日に合うね。


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