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パルサと新村新設新建築

「パルサちゃん、電車が欲しいの。なんとかならない?」

「えっ」


 始まりは突然だった。

 フォークを取り落とし思考の闇へと囚われる。

 なぜ国家事業を今僕に、概念すらない電車をどうして、なんとかって何を、その丸投げはどこへパスすれば、ぐるぐると最適案を探そうにも規模が大きすぎてどうにもならない。パルサは激しい自己矛盾で眼窩が窪み、目はギョロギョロと激しく動くも光が失われ、頬がコケ、唇が乾燥してガサガサになっていく。フォークを落とした手が、無意識に何かを探し掴もうと、震えながら宙を彷徨う、生にしがみつくと言われる亡者の手だ。

 黒ちゃんがパルサの隣で力が抜けたように倒れ込む。


「…、…、パルサちゃん、ぱーるさちゃん」

「…っ、ぁぁ、なぁに、ママ」

「一人で考え込むのはパルサちゃんの悪い癖よ。

 こんなに死人みたいにしわしわになっちゃって。

 その相手と話して、相手がどこまで、最終目的に結果として何をしたいのか、そういった事をすり合わせれば、本当に必要なものが見えてくるはずだわ。

 苦しめようとして言ってきてるなら殺しちゃえば良いんだし。簡単なのよ。」

「結果が、必要な、犠牲、簡単な…。」

「ネガティブに堕ちちゃってるわよ。

 戻ってきて。

 ぱーるーさーちゃーん」


 パルサは渡されたコップの水を飲まさせられ、治療魔術や死霊術や怪しげな術を目がくらむほど浴びせられた。


「お、おかあさん…」

「おかえりパルサちゃん。電車が欲しいの」

「…。電車…。遅延、少し寝れる、ベンチ、探さなきゃ…」

「そう、トラウマなのね」


 頭をカクカクと動かし、空のコップを何度も何度も確認するパルサ。水辺を探す亡者のようにブルブルと、両手の間を行ったり来たりと何かを探し、踏み躙(ふみにじ)られたようなうめきを漏らす。

 パルサママは、痛々しい我が子を悲痛な顔で見つめる。


「電車、電車欲しいの」

「う、、あ、、、電車」


 追い打ちするパルサママ、パルサの耳元で何度も電車と呟き、壊れる我が子を眺める。


「ぁぁぁぁぁ」


 パルサは、床に落ち頭を抱え声にならない呻きを上げる。


「あの、お母さん、弱点弱化魔術かけてます?」

「あら、気付いたの?

 偉いわラッチ。

 抵抗力を外して、相手が苦手だったり苦痛に感じてる事を増大させ弱らせる魔術なの。

 すごいのよ。

 魔術抵抗が高い高いパルサちゃんでも、ほらこの通り。

 ボロボロよ」

「えっと、何してるんですか?」

「弱ってるパルサちゃんが可愛いのもあるわ。

 あなた達、看病するとポイントアップのイチコロポーンかも。

 もうちょっとやるわね。

 記憶をちょっと飛ばすから後遺症もないわよ。」


「えーい」

ティリングタッチ、ウィークケン、テンプピドタッチ、ブロッケンセンシズ、フィアーカーズ・・・

バーストマインド


「…、ぁぁ、ぁぁ、ぁぁ」


 パルサは吐瀉失禁しピクピクする。


クリーンアップ

クリーンルーム


「あ、あの、お母さん?

 やりすぎじゃ。」

「出るもの出ちゃったし、まだ大丈夫じゃない?

 育ってるから大丈夫、たぶん。」

「ひょっとして、精神耐性育ててるのです?」

「そうそう、今までなかなか隙きがなくて。

 やれる時にやっちゃわないとね。」

「なるほどー。

 そうですね、戦闘中だと死んじゃいますもんね。」

「そうそう、ステータスって魔術があって育つのを見るの。

 楽しいわよ。

 教えるからお茶しましょ。」

「はーい」


 ピクピクするパルサを温かい目で見つめる家族。

 楚々とお茶とお茶菓子が用意され、賑やかな女子会が始まる。


「さっきの弱化魔術も教えてほしいですー」

「良いわよ。

 でも、まずステータスからね、魔法陣がこれで、暗記の魔術ってのがあってその魔法陣が…、こうして…」

「こうやって覚えて、あ、楽ちんです。

 パル坊は魔術覚えなくていいの?」

「この子はねー、何でかわかんないけど、魔術を受けてると覚えちゃって使えるようになっちゃうのね。

 あっという間に覚えちゃうのよ。ちょっとずるいって思っちゃうわね。」

「いいなー」


ティリングタッチ

ピクピク


「できたできた。ナッツも黒も覚えちゃいなさい」

「はーい」


 和気あいあいと魔術講座が行われる。被術者パルサは意識を喪失したまま、次々と魔術がかけらていた。



 気付くとベットで眠っていた。昼寝かな。

 ひどく苦しい夢を見ていたようだ。

 前世での、地位を買った色ボケ上司と無能な働き者と愚痴ばかりのサボり魔達に囲まれて死にかけた夢や、ペットが死んだときや、恋人に裏切られて酒浸りになった日々や、忘れたと思ってた苦悩の日々が、何度も何度も繰り返し体験させられ、心が千切れ擦り切れるかと思った。

 寝てる間に大泣きでもしたのか、とてもスッキリして晴れやかな気分だ。窓から入る風が心地よい、風に色を感じるみたいだ。良い日だ。


「みんな起こしに来てくれたの?」

「うん。ごはん食べてたら、パルサが倒れちゃって心配した」

「すごく苦しそうに泣いてたけど、もう辛くない?」

「心配した。すごく。死んじゃうかと思った」

「そうだったんだ。ありがとう。

 昔の嫌な夢を見てたみたい。

 とてもすっきりして良い気分なんだ。」


 ナッツとラッチだけじゃなく、あまり喋らない黒ちゃんまで心配してくれたみたいだ。


「母さんが、心配してまってる。行こう」

「うん」


 ラッチに手を引かれキッチンへ向かう。


「あれ?いい香り、お香の香り?」

「パルサちゃん、おはよ。もう平気?」

「うん、なんだかゴメンね。スッキリした良い気分だよ」

「そう、良かった。

 今日はちょっと甘い香りを楽しみたかったの。

 ふふ」


 パルサママは、香りを気に入ったパルサに、優しく笑いかけた。

 パルサは椅子に座り大きく息を吐いた。


「前世の夢を見てさ。辛いことばっかり思い出しちゃってしんどかった。

 今は、それも悪くなかったなって思うけどね。」

「そうだったの。お母さんが見ててあげるから心配しなくても大丈夫よ。

 コーヒーはどう?

 飲むでしょ?」

「うん、飲む。ありがとう」

「いいのよ」


 パルサの後から来た彼女達は、引きつった顔を隠すように大きく息を吐き椅子に座った。


「どうぞ〜」

「ありがと」

「でね、ぱるさちゃん。電車欲しいの」

「ぅっ、電車?電車ってなんで?」

「うふ。

 隣の街あるでしょ?あっちの国の城塞都市の方。

 あそこで盗賊団潰して来たんだけど、村の半分が盗賊に支配されちゃってて、それで殲滅したんだけど、残った人達が可哀想だから連れてこようと思ったの。」

「なんでまたそんな事に…。

 それで、大人数が乗れる移動手段が欲しいわけね」

「そうそう、なる早で欲しいの」

「じゃあ、箱だけ作ってバギーで引っ張るってのは?」

「山道を通れれば大丈夫だと思う。それならできそう?」

「うん、まかせてー」

「やったわ、パルサちゃん。お願いね。困ったら言うのよ」

「うん」


 パルサママはパルサの成長を喜んでニコニコしている。他の家族も優しい目で見ていたが、ちょっとだけ可哀想に思っていた。



 パルサは大人数移動手段を考えていた。

 何も思いつかないので、現行馬車をベースに大きな箱馬車にすることにした。長さは1.5倍に伸ばしシート数を確保、幅はそのままで横置き4列シートにする。引いた方へバンクする前輪を箱前部に食い込むよう設置。後部は両側二輪の四輪とする。乗り心地は考えてない。

 ポチッとボタンを押し、ロボットアームがワサワサ作業するのを見守る。


「じゃーん、極楽懸架長箱馬車!名付けて極楽快速!

 どうでしょうか!

 大きくなったからスピード出ないけど良いよね。」

「あら、変わった形ね。倒れたりしない?」

「倒れない。たぶん」

「うんうん、ありがとうパルサちゃん。

 じゃあ、行こうかな。パルサちゃんも行く?」

「うん、行く」


 飛行機の貨物リフトに極楽快速3台とバギーを乗せ出発する。


「父さんも行くんだ」

「そうよー、新しく村を作る事になるからね。領主として安心させなきゃね」

「他に自警団さん達もいるの?」

「向こうで警備と準備の手伝いをしてるよ」

「へー、楽しみ」


 南東に山脈を超え、30分もしないうちに村へ到着した。

 村は村跡だった。

 煌々と燃える大きな焚き火が中央にあり、土台だけになった家が半数以上あった。服とは言えないボロを着た人々が、広場で毛布にくるまり焚き火を見つめている。


「どう?

 酷いでしょ?

 服も無くて、畑を必死に世話しても全部取り上げられて。

 他の村へ盗みに行かされたり。

 盗賊が横を通るたびに殴られたそうよ。」

「そっか、…これからなんだね」

「そうね」


 パパンの号令で、極楽快速に村民が乗り込む。村民は30人と少し。家財道具も何もなく、ボロボロの鍬と鎌しか持っていなかった。

 残った建物に火を付ける。魔獣が住んだり、盗賊が村を作るので、完全に破壊するそうだ。

 ママンが呪文を詠唱し、村全体に巨大な火炎が立ち上った。残った瓦礫も庭木も何もかも燃えあがる。村が轟々と熱波を撒き散らすのを、村民全員が荷車から降り、燃える村を見て泣いていた。


 燃える村を後に、パパンと自警団に守られ、極楽快速が新村に向かい出発した。

 飛行機から燃える村を見る。


「やってちょうだい」

「イエスマム。

 雷砲らいほう範囲を村跡むらあとに設定。雷砲チャージ。マーカーを周囲に配置、風隙(ふうかん)開始。雷砲想定出力まで10」


 村を空間が囲み、風が送られ炎が荒れ狂う。燃える瓦礫がれきが燃焼温度を超え赤く輝き出す。


風隙(ふうかん)隔離を確認。雷砲フェーズ開始。」


 村の外周から稲光が弾け、電撃が地表を埋め尽くそうと走りまわる。空中へと何本もの光の槍が突き上がり、光の槍で空間を埋め尽くす。ギャリギャリと音を立て青白い雷光が地から天へと登り、青空が白く染まった。

 村上空を中心に、真っ白い雲が渦を巻き広がっていく。ぽつりぽつりと雨が降り出す。雲の渦は中心から黒く濁り、雲の広さが影を引きずり外へ外へと伸びていく。

 全てが消え、地面から白く煙を立てる村に、強い雨が降りそそいだ。


「全処理終了。問題ありません。」

「ありがとう、フェイ。

 頑張っちゃった焼き畑農業みたいね。」

「種を撒いきますか?」

「あ、良いわね。

 竹を植えちゃおうかな。

 タケノコも取れるし、うちの領だと竹は嫌なのね。」

「竹で良いでしょうか?」

「えぇ、竹で行きましょう」

「バイオプラントポットに竹を200作成。

場所を移動後、射出します。

全ポット射出用意。

射出

射出…20

射出…20

射出…20

植樹、および、土着処理を完了しました。

10日間の促進後、自生に切り替えます。」

「うふふ、楽しみだわ。

 さ、帰りましょう」


 この業火と雷光は遠く離れた王都(パルサの隣国)でも見え、パルサママが盗賊村を殲滅したと、噂を知る住民達の妄想を掻き立たせた。その後に行われた王都と城塞都市の合同調査では、村の場所が青々とした竹で埋め尽くされていたため、『立派な竹が沢山あった』としかわからなかった。

 盗賊退治の報酬で村を取得したパルサママが、村を発展してくれる、そう思っていた王と側近達は、恐怖に震えた。

 パルサ家領地のように商業都市として発展させ、友好関係が築けると、そして、優れた技術や商品をもたらしてくれると、何の根拠もなく思い込んでいた。それがなぜ竹林なんだと、竹林に何があったのかと、竹林に変わった意味がわからずにいた。これは怒りを表したのか、報酬が不満だったのか、生き残りの村人もろとも竹に変えた?、我らに対する見せしめなのか、喧喧囂囂けんけんごうごうと無駄な議論が行われ、関係者一同を悩ませていた。

 深い意味も理由もない、会話の流れとその場のノリだ。



 新しい村は国堺近くの山麓やまふもとに作られた。領都から歩いて一日程の土地で、山も近く肥沃な平野の良い場所だ。長く連なる山々は豊かな自然に覆われ、木々はもちろん動物達も数限りなく生息している。魔物もそれなりにいるが、ちょっとしたスナック代わりである。山からの川の水量も豊富で、十分な魚も捕ることが出来る。

 これほどの恵まれた土地が使われていなかったのは、その昔、隣国からの侵攻があったためで、この場所にこだわりのない住民達は、更に南の平野部か王都に近い北部の山麓やまふもとへと住居を移す。今回、新しく住人となる人達は隣国出身であり、隣国に近い方が安心するだろう、それとなく隣国訛(りんごくなまり)もあるので隣国に近い方が違和感がなかろう、ぶっちゃけると、あれ?ここは?って見た場所が、彼らに都合が良かったのだ。戦争に怯えて暮らす住民より、いつでも隣国に帰れる場所で安心する住民の方が働いてくれそうだし。最悪気合で何とかなるだろう。


 新村住民は、昼過ぎに新村予定地に到着、広場に全員が集められた。

 パルサパパが、新村について説明と役割など説明するのだが、土地が裂ける重低音が下腹に響き、強烈な閃光が地を走り目を晦ませ、重量物が地に突き刺さる連続音に震える。自分たちは、いったいどこに迷い込んだのだと、不安を顔に浮かべ、パルサパパの言うがまま頷くだけであった。おそらく誰も聞いてない。


 おもちゃが組み上がるように家がドンドコ建てられ、銀光をきらめかす飛行機がバスバスと轟雷を鳴らし重機関銃で大麦とホップとトウモロコシを畑へ撃ち込み、トラクターに引かれる巨大な舗装装置がゴウンゴウン−グワングワンと騒音を撒き散らし蒸気を吹き赤く熱を放つ道路を伸しす、真下に強力な熱線を照射し井戸を掘る魔術師、負けじと雷撃を迸らせながら畑に水を撒くパルサ。

 仕事のないバギーやトラクターが無意味に走り回り仕事を探し、自警団特攻チームが奇声を(ほとば)しらせ魔物狩りに山へと向かう。

 あちこちで、バリバリ、ドカンドカンと、魔術や打撃音が鳴り響き、住民たちは目を奪われ、説明を聞きたくても聞けない状態であった。激しいのは故意だ。注目を集めたものが一等賞と指令が出ていたのだ。刺激を与え心機一転を実感してもらう為に自警団が計画した事だった。パルサパパの説明に契約条項が含まれ、うやむやに済ませる意図も多少はあった。


 うやむやのうちに住民との契約が終わり、村民は倉庫で物質を渡される。普段着を入れた袋を持たされた村民は、共同浴場で男女それぞれの自警団が風呂の使い方を説明し風呂に入れさせられた。風呂を出た村民が連れてこられたのは最初に集まった広場である。


 広場では野外調理場と宴会場が用意され、新村建設に関わった人々が好き勝手に飲んで食べて騒いでいる。

 パルサパパの新村歓迎会開会開始の号令に、ステージ上の村民は流れ作業でお客様席に置いていかれ、料理とお酒が振る舞われる。そのしばらくの後、村民がごちそうを食べ雰囲気が落ち着くのを待っていた領民達は、ゆっくりと彼らに混ざり、領地での暮らしぶりやこれまでの苦労、これからの事を話し合うのであった。

 たっぷり食べて飲んだ村民は各家に配置され、井戸や上下水設備等の基本的なものしかなかい簡易住宅ではあったが、村民たちは泣いて喜ぶことになった。備え付けのベットとふかふか布団はパルサからのプレゼントである。


 こうして始まった新村はビール造りの村であり、村民全てがビール工場の従業員として領主に雇用される事となった。

 倉庫に山と積まれる領民達から集められた家具や服や日用品等は、希望する村民へと過不足無く配られ喜ばれた。パルサが作って放置していた色々な物も沢山あり、使い方に悩む場面も多かったが好評だったようだ。



「大変だったね」

「そうね。パルサちゃんもお手伝いいっぱいありがとうね。

 明日、筋肉スーツで全員の治療とステータスアップするけど明日もお願いできる?」

「え、うっ、筋肉スーツ。

 う、うん、オーケーオーケー。」

「うふふ。楽しみだわ」

「うん」


 村民さん、明日が最初の試練です。元気になるけど、死ぬ思いするけど、強く生きて下さい。

 パルサは新しい村と住人の幸せを願って祈り、眠りにつくのであった。


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