散歩犬
ここはどこだ。
何も見えない、体も動かない、…だけど、お日様と柔らかな羽毛に包まれている気がする。ふわふわーしている。
ぼんやりと遠くから声がする。
何か聞こえる。気のせいと思ったけど、やっぱり聞こえてくる。子犬が甘えるような、子猫が親を呼んでいるような。なんだろう、どうしたんだろう?寂しいのかな?大丈夫なのかな?
じゅわっと溶けたみたいに明るくなってきた、白い、全部ぜんぶ白い霧に染み込んでゆくような明かり。
聞こえていた音がじゅじゅっと白い霧に広がって行く、世界が私がふわふわじゅわじゅわと白い霧に広がっていく。
あぁ、そうか、死んじゃったのか。
楽しそうな笑い声が聞こえる。これがお迎えの声か。
日向ぼっこしているように心地よい。
眠るように、あの世に行くのか。
長かった、長い夢を見ていた。
あぁ、あ?
死んじゃった?
え、神どこよ?
あら?
うー?体が動かないけど、なんか音が近いぞ?
おーい、誰かいませんかねー?
おーい。
「あ、起きたみたいよ。」
「パル坊、おはよう?」
「はぅ?」
「ふんがぁー!」
なんだここ、空があって、ナッツとラッチがいて。
ワサワサ…。毟りっ。
「わぅぅ。」
毛、犬だ。
「おはよう?ナッツとラッチと犬?」
「やぁ!」
「ばぅ!」
「ここどこだい?」
「はらっぱ?」
「うーん。僕はどこにいるの?」
「犬の上。」
うん?
「家で寝てなかったっけ?」
「うん。昨日、また、バトルゾーンのソファで寝てたみたいよ。」
「そうなんだ。で、ここはバトルゾーン?」
「いえ。普通の外ですよ?」
「うん、そう。うん?」
目が覚めたら原っぱで走る犬の上で寝てました。
そういう事だよね。うん。
ここは、あー、街道の先を王都からずーっと来た所ね。なるほどなるほど。
とりあえず死んではない。
「昨日から順番に状況を教えてくれる?」
「走りながらでいい?散歩の途中なので。」
「うん。いいよ。」
「昨日、ソファで寝てたパルサちゃんを犬が・・・」
夜、僕が居なくて寂しくて眠れない犬が探しに来たそうだ。ソファで僕を見付けて背中に乗せてベットまで運んでくれた。朝、日課の散歩に行こうと思ったけど、僕が起きないので、ナッツとラッチにお願いした。でも、犬が僕と離れるのが嫌だと言ったので連れてきた。犬の背中に乗せると聞かなかったと。そういう事ね。
「なんで、ビタッと下半身が犬に固定されちゃってるの?」
「さぁ?」
「わぅわぁぅ」
「スキル?へー犬のスキルか。騎乗スキルなのね。
だから、起きてたのに微塵も体が動かなかったわけー。なるほどー。
超安定してるんだけど。めっちゃスピード出てるよね。」
「早いですよー。バギーで普通に早い目に走ってますもん。」
「散歩でなんでここなの?めっちゃ遠くない?」
「犬、魔物も食べてみたいんだって。毒林から来たから、まだそんなに走ってないよ。」
「わぅわぅわぅ」
「犬、魔物食べた事ないんだ。人も食べてみたいのね。うーん、ばっちい人は食べない方が良いよ。」
「わふん」
犬の乗り心地いいわぁ。滑るように進むし、騎乗スキルっぽいので固定されてるからお尻もガンガンこないし、風も微風だし。ふわっふわの毛が気持ちいいわー。ごろごろしちゃっても平気だし。あれ?
「ねぇ、犬、毛ってこんな長かったっけ?伸びたの?」
「わぅわぅ」
「伸びたんだー。
進化して高級犬になったから最高級ペルシャ絨毯真っ青の触り心地?
羊毛の毛織物なんだけど、そんなんでいいの?ていうか、ペルシャ絨毯何で知ってんの?」
「わふぅ」
「進化したから何でもありってお前。。。お前も脳筋か。」
「わふ」
「元々柴犬は賢いのね。そうね。」
「わふわふ」
「あの林にちょっと行ってくるのね。いいよ行っておいで、ここで応援してるから。」
ラッチの後ろに乗り、矢のように走っていく犬を見送る。
「なぁ、あいつ、空中蹴ってない?」
「大きな犬になると、だいたい空飛ぶから。」
「そうなんだー。」
「パルサちゃん朝ごはんありますよ、食べましょ。」
レジャーシートを敷いて、上にテーブルと椅子を出してごはんを並べるナッツとラッチ。うん、細かいことは良いんだよ。
ぼーっと朝ごはんを食べる。林から魔獣の雄叫びが聞こえる。
「普通の犬で良かったんだけど。」
「パル坊、本人の前で言うなよ。強くなれて家族守れるって、あいつ張り切ってたから。」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。そうだね、寂しがり屋っぽいのに頑張ってるもんね。」
「そうよパルサちゃん。強くないと守れないんだよ。」
「うん。」
「犬さ、あいつの考えてること伝わるんだけど?ナッツとかも聞こえたりする?」
「大きな犬だと、たまにいるね。頭が良い魔獣は喋るんだよ。」
「そうそう、犬も進化すると喋るかも。今も言ってること分かるけど。」
「犬、超進化しちゃってるけど。良かったのかな。」
「喜んでるわよ。たぶん。うれしそうに、マザーコアを乗せて散歩もしてたし。」
「あいつ、アグレッシブだな。」
「筋肉盛々だからねぇ。犬なのに。」
・・・
「あいつさ、散歩の定義なんなんだろうね。さっきなんて、むしろ僕が散歩させられてたじゃない?」
「歩いて楽しい事を散歩って言うんでしょ?」
「そっか、一緒に歩いて楽しいって思うのも散歩だよね。」
「うん。そうだよ。」
「あ、林からこっちに魔物追い込んできた。」
「見てほしいのね。」
「うっわ、魔法使ってるー。前見た冒険者より、魔法の威力でかい。」
「あの大きさであの筋肉だから、あと才能もあるみたいね。」
「手を振ってあげて、こっち見てるわよ。」
振り振り
「喜んでる喜んでる。」
「また林に戻った。」
「今日も良い天気ですね。」
「そうね。
ナッツもラッチも付き合ってくれてありがとうね。」
「良いのよ。楽しいから。」
「そうそう。」
犬は魔石を食べているようだ。あと肉が美味しいのは肉も食べてた。こんど美味しい肉を狩って来てくれるそうだ。
散歩中の肉はおやつで、家で食べるのがごはんなんだって。
朝の散歩は、ママンか僕と一緒が良いって言ってた。ナッツとラッチは友達なんだって。黒ちゃんは好きって。
「いぬー!そろそろ帰るよー!」
シュン!
「移転魔術!犬ちゃんすごーい!」
「わふん」
「コレがそうなんだ。すごいな犬!」
「おぉ!?」
シュン!
「おおお?家だわ。。。」
「犬すげー。」
「これで、いつでも散歩行けるって、うん、そうよね。」
「また気合なのか。」
「ただいまー。」
少し遅いおはようの後、犬が移転魔術使った話題で盛り上がった。さっそくママンは犬に魔術を習いに行ってしまった。
今日は何をしようかなー。