ふるさとは遠きにありて思ふもの
機械化文明ってどんな都市だったのだろう。最終的に人類が絶滅しちゃったけど、閉鎖空間で大規模農園があったり、進化した自動車や飛行機、エアカーなどもあったかもしれない。ひょっとしたら遺跡で残っているのかも。ナッツとラッチは元々そこで生きていたんだから覚えているかもしてない。
「ねえ、ラッチ、機械都市の遺跡って残ってないの?」
「あー、機械都市ですか。
厳密に言えば機械化された都市なんてなかったんです。
私達が生きていた頃の街は、石造りの家と土がむき出しの道路でしたから。」
「あれ?機械は?」
「その頃にはもう、風化が抑えられる地下に全て取り込まれちゃってましたね。生体人類が居なくなって必要なものがコアだけになりましたから、地下で風化がない場所に施設が合ったほうが何かと都合か良かったですし。」
「ナッツやラッチも地下で生活してたの?」
「そうですね…。
私達が生活していた場所って、人類が生活していた頃を再現したものだったのですよ。石造りの家で道路は土がむき出しで。辛うじて図書館に、本が沢山あって、映画や記録映像が見れる場所は機械がありましたけど。
気付いたら地上の街に居て、そこで生まれて、そこで育ったんです。
なので、当時の機械が残っているとしたら図書館ぐらいかな。」
「神部下です。コンチワー。
呼ばれたようなので来ました。
一応オフレコでお願いしますね。ふふふ。
機械化文明世界の遺産ですが、流石にあれが現代に蘇ると洒落にならないので、凍結次元に世界ごと残してます。
サイボーグ化が進んで人類が居なくなると困るんですよ。神的に。
少しずつ様子を見ながらダンジョンの景品に、簡単なものを出してますけど。
それでもって、当時唯一の知性体だったAIことマザーコアさんには、世界大統合時に、この世界の調停者として現代に連れて来たんです。半生物になってもらい機械の部分は取っ払ってもらいましたが。あと、他に色々と動植物は移植してる。
今は世界樹のずっとずっと地下深くにマザーコアさんはいますよ。そうそう、あれですあれ、ナッツとラッチの母親みたいなものだと自分でも言ってますし、挨拶しに行くといいかもです。是非行ってあげて下さい。
パルサちゃんが気になってる機械化文明の遺跡も世界樹の近くにありますし。世界樹近くの山の上に当時の地表部分だけ、遺跡として残ってますよ。そこにマザーコアのゴーレムも居ますし。入れませんけど、行くなら入れるようにしときますよ。ていうか、どの遺跡にもフリーパスにしときますよ。はい、しときました。」
「怒涛の展開やめて。坂道を転がるように手に負えなくなる感覚、懐かしいけど怖いからやめて。
この感じだと、すでにマザーコアに会いに行く事になってると思うんだが、行ってこようか。」
「そうですね。マザーからも遊びにおいでって言われてます。」
「ねぇ、世界樹って言えば、ひょっとしてエルフいたりしない?」
「いるいる、もやしみたいのいっぱいいる。
蝉の幼虫みたいに世界樹大好き種族いるわよ。
滅ぼす?
あの人種、どこからか湧いてきたのよね。
気持ち悪くて生理的に無理なのよ、あの人種。
蝉の幼虫みたいに世界樹ぼろぼろにするし、穴開けて何かしようとしてたから全部消しちゃったわ。マザーコアからヘルプコールが来て何事かと慌てたてたわよ。せっかく動き始めた世界を壊そうとするなんて絶滅すればよかったのに。」
「神みたいな事言っちゃだめだし。穏便に行けるかな。」
「大事なこと忘れてたわ。これあげる、持って行きなさい。」
ん、メダリオン…。
「これは?」
「世界樹の結界装置。前にこれ使って世界樹を傷付けたエルフを絶滅させたから見せるとビビると思う。
握って死ねって思うとそいつら消えるから、パルサも使えるから、どんどん使って。土に還すから世界樹の栄養にもなるからね。
名前は…、えーっと、ユグドラシルの断罪って付けた。それっぽいでしょ。」
「あ、うん。」
「スーパーとか、ラストオブとか付ける方?付けたら喜ぶ系だったり?」
「何も付けなくていいから。」
「それじゃ、宝探しも兼ねて行こっか。
金属探知機作って行かなきゃね。」
「金属探知機ですか。魔術を使えば行けそうな気がするんですけど。」
「んー、それもそうだけど、ロマンってあるじゃない。星空を見ながら君のほうが綺麗だよ。とか。」
「サブイボ立ちますけど。」
「だよねー。じゃなくてさ、ロマンって今度何か調べよう。」
「そうですね。」
☆
地球産の金属探知機で遊んでいるパルサ。魔法が浸透した金属が探知できずに悩んでいる。
「面白そうなおもちゃね。さっきからピーピーガーガー言ってるけど金属反応の魔術に似てるわね。」
「母さん、その魔術知ってる?」
「使えるわよー、ほら。」
「おぉ。金属探知機爆発したわ。」
「あらあら、ごめんねー。」
「どっちにしてもこのままじゃ使えないから良いよ。
基本周波数で地面を通して帰ってきた値で場所を探すのか。
これ受信側ってなんとなくしかわかんなかったりする?」
「そうねぇ、地竜が使ってるのをパクっただけだから、なんとなくかも。地竜にはわかるかもだけど。」
「…指向性を持たせて進行方向に3Dのワイヤーフレームで返却周波をフィルタしてイメージ化…。」
「うふふ、がんばってね。」
☆
「じゃーん、パルスガン兼金属探知機出来たでござる!」
「やったわね、どんなのになったの?」
「こうやってラッパを向けてボタンを押すと、前方に基本周波数を持った魔術が透過して飛んでいく。で、電波で帰ってくるとこんな感じに表示版に形が映る。建物や人間もうっすら表示するから位置も置いやすい。」
「良い出来ね。
なんとなく感じてたのがこんな感じになるわね。
魔物の索敵に近いわ。弱かったら魔物が寄ってくるけど、そこまで強ければ離れてくから大丈夫そう。」
「作ってて、魔術でイイじゃんって思いながら作ってた。」
「そんな事ないから大丈夫。今度鉱石探す時に魔術使えなくても探せるから便利になると思う。」
ママンのお墨付きも貰えたし世界樹に行くか。
「チーム、断罪のユグドラシル、出発しまーす。」
「ナッツ、ラッチ、遺跡に着いたら、お母さんも迎えに来てね。」
「はーい。」×2
「あの…。
場所どこ?」
「遠いわよ?」
「どうしよう。」×3
「母様、空を飛ぶ魔道具無いでしょうか?」
「魔術で飛んで行きなさいって言う所だけど。みんなで行くからねぇ。
んー、そうねぇ。
方舟ってのが戦争中に見た事あったわね。堕ちたけど。
ちょっと待ってなさい。」
・・・
「これこれ、どう?」
「しょっぱい。」
「小さい。」
「ぼろい。」
「これ乗っていくの?」
「無いわね。寒そうだし、壊れて落ちそうだし。狭いし。」
「お風呂とベットは欲しいのに、天井すら無いなんてむーりー。」
「無いわ。」
「コレは無いって事で、改造してちゃんとしたもの作るね。
そんな訳で、またしても延期になっちゃうけどゴメンね。」
「いいのよ。パルサちゃんが楽しそうに何かしてるのを見てるの、お母さん嬉しいから。」
無理すれば6人ほど乗れる四角い風呂桶じゃないですか。みんなが言うとおりコレに乗って楽しく旅行は無理っぽい。ここは気合を入れて移動要塞作っちゃうぞ。目指せ豪華な部屋!
バキバキとガワを破壊して分解していく。目を付けてた底をバラすと魔法陣が刻まれた真鍮?っぽい謎の板が何枚か出てきた。板の魔術式で見える範囲を読んでいく。何だこれ、夜空の星に牽引され…、んんん、嘘だろ。てかなんだこれ。
☆
研究所のバトルゾーンに持ち込んで、ロボットアームに持たせ起動して式を解析していく。
おぉぅ、本気で夜空の天体から引力を引いてる。凄い。増幅しまくっている。空想力で強引に架空の天体を作り、架空の、星の引力を発生させ引力と釣り合わせてる。すっげぇ、動くんだこれ。超天才と気合が出会って不可能を可能にしてる。複数あるのはパワー不足を補うのとバランサーと推進用か。これが集結コアで、魔力を束ねて空中伝播で魔力送ってるのか、ロス無いのか?故障予防対策かなぁ。テスト機作らなきゃ。
研究所のメンバー達とパルサは分担して謎板の解析を進める。超文明と言われてもおかしくないぐらいの謎技術だ。空想と妄想を無理やり現実界に収め、足りない分は魔術で強引に存在するものと定義しパーツとして魔術回路に組み込んでいる。謎集結コアの謎ロジックや空中伝播と受信回路魔法陣の構成の美しさは完成された芸術のようで…。あれ?
「ねぇ、これって、遺跡からの発掘品、ロストテクノロジーじゃないの?」
「お、どれどれ、見せてごらん。」
「この謎な集結コアと、謎板の集積回路なんて手作業で作れると思えないんだけど。」
「んむむ、そうじゃのぉ。」
驚いたことに、コアや謎板など主要部品は遺跡の発掘物だった。見た目がボロい風呂桶だったので、ぎりぎり飛べば御の字と気楽に解析に入ったら、出るわ出るわ、主要部品以外を急造した試作品をそのまま使った物らしい。
コア全体がブラックボックス化していて、内部はブロック毎に微細な矩形魔法陣で高密度に集積化。謎板は謎板で表面はただのダミー魔法陣で板の内部は微細な矩形魔法陣がみっしりだ。これを刻むための機械もなきゃおかしいレベルで細かく、工業化された魔法陣文化がないと作れない代物であった。
「そう言えばそうさの、坊っちゃんには教えてなかったの。
この世にある殆どのコアと魔法陣は遺跡の発掘品じゃ。
読んで意味がわかる以前に、読める奴などおらんわの。
ワシは読めるし作れるけどな。」
「うそーん、酷い嘘を教えられてた、普通に技術者なら簡単なもんだとか、みんな使ってたし初歩の初歩とか言ってたし。」
「まだまだ発展途上の世界じゃからの、コアみたいにあるものをそのまま使うか、頑張って複製するぐらいじゃ。
魔法陣もハンコで、きっちり丸写ししてるだけじゃしな。
と言うか、嘘なんぞ言っとらんわ。わしらみんな使えるし、ゴーレムバトルで遊んでおるじゃないか。」
「えぇぇ、だって。そんな、読める奴いないって。」
「わしら、旧世界の技術者じゃもん。技術者の中でも偉かったんじゃぞ。」
「まじか、また神か。」
「そうじゃ、神がやったんじゃ。」
研究所バトルゾーンのエンジニア達と、行き違いがあったようだ。ただの爺ちゃんと騒がしいおっちゃん達だと思っていたが、旧世界のエンジニア集団だったらしい。ずっと入り浸ってておかしいと思っていただ、専任研究者として神に連れてこられ、ここで、働いていたつもりらしい。だいたいいつも酔っ払ってるから、働いてるなんて知らんがな。
そんなお気楽エンジニア集団の協力の元、コア内部や謎板の回路魔法陣を、展開と分解、分類し、センターコアライブラリに登録。新たな技術形態を持つ魔法陣に対して、積層ブロックへの集積化や矩形魔法陣技術による技術革新が行われた。重力への応用や短距離無線化技術も、機械化文明の技術と融合し新たに組み上げられた。これにより、対重力斥力加速装置いわゆる反重力装置が出来上がった。
コントロールゴーレムコアを中心に、各種コアや謎板を含むパーツを作成した。全てのユニットが組み込まれた翼を付けたバスタブで、姿勢制御や通常操舵、高機動のための急制動・緊急回避、欠落動作など、ゴーレムが学習中である。
実機の作成も平行して作業している。
ハリアーみたいな短距離/垂直離着陸(S/VTOL)って男の子の夢だよね、なので回転式の姿勢制御サブ反重力装置もガッツリ組み込んだ。急制動の性能低下に対応するため翼全面に反重力装置を隠蔽して搭載するマッシブ構成となってしまい、回転式制御装置は合ったもなくても構わない、飾りのようなものになってしまった。
「じっちゃん達ありがとー!ボディはこれマンタウロス、手伝って。」
「エイだな。」
「オニイトマキエイだ。」
「オニイトマキエイだな。」
「・・・フライングイエイに名前変える。」
「それでいい。」
「それでいい。」
やや厚ぼったくなったけどオニイトマキエイの家。略してイエイ。
年月の皺に脳の皺を上書きされたボケ気味の死霊達が、神原理で物が取り出せる知識の扉から「これ、参考に出来るよ!」と、実機を持ってくる毎に、何度も何度も技術更新が行われる事になる。天界からも、暇を持て余していた飛行機エンジニアや、面白がった神が輪廻から経験者をブッコ抜いて来てしまい、地上、死霊、天界を巻き込んだ一大プロジェクトになってしまった
った。時間単位で勝手にずんどこ改修されて行く飛行機、バトルゾーン上空でドッグファイトを繰り広げ撃墜してゆくミニチュア、無節操に広がり工場と化した施設、勝手に作られ増えていく格納庫。
無限の材量と神スペックの工作機械、休むことを知らない死霊ボディ、止めどきを見失ったエンジニア達の狂宴は15日過ぎた今も続いている。紅白戦は別世界で行われ、管制室では機体データの収集を行うぐらいに落ち着いている。肝心の機体は、飛行空母管制機、早期警戒機、偵察機、戦闘機、小型無人突撃機、空中補給気と、用途別にフィックスされバラエティーに富む。パルサのオニイトマキエイは欠片も感じさせない洗練した機体達である。ちょっと聞いたら、今は超高々度飛行で時間辺りの続航行距離を伸ばし物理で空間を超えるチャレンジ中らしい。
パルサは工房で、大体の外見と室内環境を指定して、”全ておまかせ”ボタンを押した。わさわさと伸びるロボットアームが動き機体を組み上げている。重力を無視してくるくる回る機体にロボットアームが群がり飛行機を作り上げていく。虫の足のように機体から足が伸び着陸しタラップが伸びた、作業用ロボットが中に入り内装の仕上げと家具を設置していく。コンソールがリーンと鳴り、飛行機が1時間ほどで出来上がる。
飛行機を次元の倉庫に移す。
パルサは、休憩室にいるおっちゃん達に飛行機を作った事を伝え家に帰った。
☆
「イエイ出来たよー。空飛ぶお家だよー。」
「ありがとう。お疲れ様でした。」
「ありがとね。」
「乗車会するよー」
パルサ一家は少しばかりの空の旅へ出発する。
はしゃぎ疲れ、ふと気付くと、静かな、それでいて淋しげなパルサに気付く。
静かな室内、パルサが遠い目をして壁を見ていた。
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ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食かたゐとなるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
---- 引用 抒情小曲集 そのニ 室生犀星
壁に一枚の歌が掛かっていた。
ナッツとラッチの過去にあわせて自分の過去へも思いを馳せたのだろう。
だって、パルサが、かつて東京で暮らしている時、帰る場所なんか無いと笑いながらも好きだった歌だから。
パルサママは、そんな息子を静かに見つめるだけだった。