初めてのダンジョンアタック
パルサが、友達と遊べてが楽しかったと、王都での偶然の出会いを息を弾ませ語ってくるのだ。
いつもと違う目の輝き、手を振り手を握る隠しきれない興奮、よほど楽しかったのだろう。
この子は、きっと、新しい何かを見つけたのだ。自分で見つけた出会いかもしれない、偶然拾ったのサスペンスかもしれない、未知のダンジョンへの憧憬、もしかして、もしかして悪い遊び?、まさか違う、まさか、これは。
パルサママは思った。これはいけない、今のこの子は満足してない。もっと、新しい未来を教えなければ。キラキラした目で女の子にも見えるパルサも男の子なんだわ。財宝、冒険、かけがいない仲間、秘密の隠れ場所。可能性を伸ばさなければ。
くすくす笑うパルサ。朝日に映えるパルサ。沢山の子供達に囲まれるパルサ。ゴブリンに一人立ち向かうパルサ。
いい、良いわ。パルサに必要なのは冒険だ。領主の子供だもの友達沢山、領民全てから愛されなければ。よっと色んなパルサを見たい。そうね、ゴリ押しすれば何とかなる。子供には刺激ある環境が必要だと言っていた、誰かが。
よし、やりましょう。
子供は集めればいい。最悪買っても良いけど召使じゃダメ。荒っぽい子が良いのかも。集めてから考えましょう。うんうん。
隣の領地に放置して溢れたダンジョンがあったはず。迷惑料としてパクっても良いわ。このタイミングで都合がいい、これは天啓だ。人と物が揃った。やろう、新しいミッション。未来への挑戦、燃えてきた!
パルサママはパルサの目を見つめ力を送り込む、あなたはやり遂げる!。ぐっと手を握り思考をスケジュールとタイミングに走らせ作戦を立てる。神がパルサにダンジョンへ行けと言うのだ。否応もなし。
王都の子供達と合ってこよう。
パルサはのん気に土産話でわくわくしてくれる母さんかわいい。と思っていた。
半月ほどたったある日。パルサは朝食時に伝えられる。
「パルサ。来週ダンジョンアタックだから。
お友達沢山作りなさい。」
「えっと、今日はさらに意味がわからないよ母さん。
お友達って何?」
「領民の子供達と王都の子供達を集めたから。」
「何してるの母さん。
王都の子供達ってあのドイツ君も入ってる?」
「そう、ドイツ君!装備一式で釣ってきたわ!」
「えぇぇぇ。」
「よし。良いわね。」
「えぇぇぇ。」
決まってしまえば早いもので、翌週ある日、隣領に全員集合していた。
ダンジョンは山裾に盛り上がる丘に開いた洞穴であった。
洞穴の前に警備する自警団員。見慣れたみなさんは領地の自警団さん達だ。彼らは交代で半月間ダンジョン掃討と詳細な調査を行ってくれた。「暗闇を飛ばすのは最高だったぜ!」お前らが最高だよ!
子供達は総勢36名。ドイツ君王都組は内12名だ。全員、僕の世紀末ヒャッハースタイルとお揃い。背中に名前とナンバリングが入っている。
ドイツ君やみんなへ挨拶と怒っていないかを確認してまわる。好意的に受けてくれているようだ。良かった。
「みんな集まってくれてありがとう。
今日は僕の友だちを作るためって呼ばれたと思うけど、仲良くしてね。」
「ダンジョンは自警団さん達が掃除済みですが抜かないように。」
和やかな雰囲気の中、ダンジョンについての説明とパーティー分けを行う。
王都組と相談し、指導してもらう王都組を主福リーダーとする六人編成。
リーダーと副リーダーの指示は絶対従う、魔物が多いので先を争って進まないこと、地下二階に降りないこと、合図が来たら戻ること、けが人が出たら途中にいるお姉さんに治してもらうこと。などなど。安心安全を第一を必ず守るよう通達する。
サポートお姉さんは、黒ちゃん、ナッツ、ラッチの手厚い布陣。パルサママ作成の大規模緊急連絡用ランプスイッチも副リーダーの背中に取り付けられる。
本作戦の目標は、スキル習得と実戦経験を積むことである。
ドイツ君パーティーを先頭に、順番にダンジョンへ進んでゆく。
道幅はかなり広く馬車二台がすれ違う広さだ。壁や天上が光る幻想的な景色はダンジョンゲームのようだ。
誰かが蹴った小石の音が、湿気った空気に溶け込む中、リーダーは静かに速やかに移動していく。
ピリリとした空気の中、マップによる指示を頼りに、各々の持ち場へ、静かにパーティーは散開する。
慎重に進むリーダーが、右手を上げ、先に見えてきた曲がり角の死角をうかがう。
戻るリーダーに集まる僕達、足音に気を付ける。
「ゴブ3。1匹にそれぞれ1人であたる、後フォローよろしく。ついてきて。」
機を窺うリーダーと副リーダー、ハンドサインの後、静かに駆け曲がり角に消える。追う僕達。
先行するリーダーが、振り向こうとしたゴブ側頭部を打ち下ろしの野球スイング。後ろのゴブを巻き込み倒れる。
副リーダーは、伸ばすゴブ右手を右に躱し、バックスイングからのすくい上げでゴブ鼻を強撃。ゴブが膝から崩れる。
僕は、もつれ倒れたゴブを、押しのけ立ち上がろうとするゴブ首を狙い、パルサ右足キック。骨を踏みくじく。
次の一人は、膝立ちのゴブへ正面から、棍棒の打ち下ろしを頭頂部に当てた。
最後の一人は、棍棒を構えたまま待機する。
構えを解かぬまま、耳をすませ倒したゴブの生死と、周囲のモンスターを索敵する。
耳を済ませたまま、リーダーが辺りを伺い、こちらへ手のひらを向けて呟く。
「クリアー。フリー。敵死亡も確認。」
うなずく×4。
手招きするリーダーへ集まる。
「良かったよ。この調子で行こう。」
「やばい時は隣がフォローする。
緊張を継続する、索敵し気付いたら手をあげる。
耳をすませ、感覚を広げ、少しずつ進むぞ、空気が変われば敵だ。
少し先の床も注意だ。罠察知が覚えられる。
行くぞ。」
慎重に、しかし素早く、リーダーは進み、先の小部屋へ近づく。
手を上げたリーダーへ近づく。
「オーバーゴブ3。タイマン。あとフォロー。」
カウントサインを切ったリーダーが中へ踏み込み駆ける。続くメンバー。
部屋中央で構えるリーダー、副リーダーは手前壁際からゴブへ突っ込む。
ゴブ5。
リーダーの後ろを通り奥へと走る。
副リーダーがゴブと激突。
リーダーへ向かう最奥ゴブ顔面へと棍棒を振り抜き吹っ飛ばす。
リーダーはゴブを躱しながらゴブ太ももへ棍棒を振り下ろす。
後ろ二人は正面から額に向けて棍棒を振り下ろす。
2手3手とゴブの叫びと撲殺音がなり、静けさが戻る。
「クリアー。各自、死亡を確認せよ。」
「「「OK」」」
「フリー。怪我はないか?」
うなずく×4。
副リーダーが発言「壁へ詰めすぎて殴った後に踏み潰して転がってしまった。」
「正面から蹴飛ばした方がよかったかもな。」
「うむ」
「上出来だ。よかったぞ。
もし、ゴブが多い、もしくは、罠がある時は入り口で消耗戦を行う。
突っ込めば良いけじゃない。良いな。」
うなずく×4。
同じようにもう一部屋戦い地上へ帰還する。
眩しさと鳥のさえずり、人の出す音に、顔を見合わせ溜め息をつき笑い合う。
棍棒を洗い、先に戻った子供達と合流して感想をおしゃべりする。
技能の効率良い覚え方、ハンドサインの由来、魔法は怖い、宝箱の話題。
尽きない話題に混ざるパルスは、あ、これ前世の社会見学だわ、とややずれた感想に満足していた。
昼食を食べ、準備が出来た子供達から迷宮へ戻っていった。
そして、一日二日とダンジョン攻略は何事もなく終わり、星空の下で少年少女の声はいつまでも止まることがなかった。
パルサ一家は、子供達に囲まれ楽しそうなパルサを眺める、思惑以上にはしゃいでいるパルサを満喫していた。
パルサママは微笑み、思った以上に本職の子供達をまとめて領内に引き込むための計画を練っていた。
自警団のみんなは、元気な子供達は何よりの財産と目を細め、ここを子供達の楽園にしたいと話し合うのであった。
☆
子供達がそれぞれの家へ出発した、その後のダンジョンでは。
子供に見られる心配が無くなった大人達、自警団の面々が悪そうな装備に着替え始める。
硬化樹脂に金属を貼り付けたパーツが、背骨、肩甲骨、肩当て、胸当て、黒い革ジャンに貼られベルトで補強されている、分厚い布ズボンに貼り付けられた革のズボンバー、真っ白のドクロペイントメットを被り、気分は世紀末だ。
排土板のようなアニマルガードならぬゴブリンガードを付けたバギーは、排気管の代わりに投槍が何本も並び立ち、投斧が狂ったように搭載されボディの一部となっている。
「お宝を奪え!」
「奪え!奪え!奪え!奪え!」
「ゴブは資源だ!資源を奪え!」
「奪え!奪え!奪え!奪え!」
「狩りの時間だー!借りつくせ−!」
「ヒャーハー!」
炎を投げつけ、燃え上がる通路を踏み越えていく悪ノリ団員達。
松明代わりとあちこちで燃え上がる炎に巻かれ逃げ惑うゴブリンを蹂躙してゆく。
悪ノリにブーストされた筋肉が謎パワーを予備、一気に階段を駆け下りるバギー。
宝箱も通り抜けざま斧の一撃で吹き飛ばす。
瞬く間に各階層を制圧し、冷静になった団員達が、ゴブリンと殴り飛ばされた宝物を回収する。
1時間もかからず掃除が終わり、ダンジョン前に再び集合する事になった。
その後、世紀末団員達は各隊に別れ、街道のあちこちを暴走しパトロールを行い、領地へ帰るのだった。