ナッツとラッチの武器屋さん
街の朝は早く、多くの人が道を歩き、馴染みの店や街角で世間話に興じる人々で活気に満ちている。中央広場からは、屋台の呼び込みや、焼けた油の香りが漂ってくる。微かに混じる甘い香りは、最近売り出しのたい焼きの香りだろうか。中央広場に向かう人々は、塩が効いたスープや肉の串焼きソーセージなどで朝食を食べ、仕事へと向かうのだろう。
パルサ達三人も同じ方向へ向かい歩いている。食欲につられている事は無いのだろうが、楽しげな雰囲気に足早になるのも仕方ないだろう。
姉弟にも見える三人が歩く。上品さが見える服と整った顔、楽しげに笑い弾むように歩く姿に目が行ってしまうのは仕方ない。そんな彼女達は、この街と付近一帯を治める地方領主の子供達である。気付いたらパルサと連れ立って歩くようになった彼女達姉妹は、事情があって遅れたパルサのお姉ちゃん達である。そう、街の人達に認知されている。姉妹が4人いきなり増えても「あぁ、お貴族様的なあれね」で誰もが納得してしまうのが、パルサには異世界ワンダーランドだ。貴族家当主の父がどう思われているのかお察しである。
少年はパルサ、現在進行系で神に過保護に構われている元異世界人だ。肉体年齢に引き摺られ6才相当の精神年齢になってしまっている、神と過ごした期間も含めると数百年間を生きた記憶を持つ、立ち枯れた化石のような人間だ。神のギフト的なものでハプニング・サプライズ・パラダイスに愛さる。
少年と歩く彼女達姉妹は元機械化人。神がずさんな管理で凍結保管されていた彼女達は、パルサの引きの強さに偶然発掘され、卵から孵ったばかりの雛が親を擦り込むようにパルサに懐いてしまった。彼女達については、前世においても今生についても大体において神が悪い、どこからどう見ても神の被害者である。
そんな彼や彼女達も、今では街の人気者であり、皆から親心のような気持ちで心配される子供達となった。不憫な親からの愛が足りない可哀想な子ポジである。そこに至る理由は色々あるのだが割愛する。
ただ、ご領主夫婦は人柄も良く、街も良くしてくれるんだけど、少し子育てに無茶がすぎると思われているだけで、虐待でも何でも無く、街の人々は純粋に、子供達が不憫で心配なだけなのだ。元気そうな子供達の顔を見るのが楽しみなだけで他意はない。
今日は、ナッツとラッチへのプレゼントで、王都へお買い物に行くのだ。
ナッツ、ラッチの姉、元気娘。革鎧代わりのジャケット、袖が肩口で千切れワイルドさを演出している。生成りのシャツとパンツはどちらも白の七分丈で、緩いシャツから見えるオレンジ色のインナーが大きな胸を強調している。シャツもパンツもナッツお手製だ。腰の大きな革ベルトの左右に黒い短根をぶら下げ、膝当てにコツンコツンと歩くたびに楽しげな音を鳴している。革のキャプテンハットにショートブーツがピコピコと土を蹴り、幼い感じが愛らしい。
ラッチ、ナッツの妹、大人系お姉さん。背中に大きく赤い刺繍で成仏と入った紺色のローブを着こなす。ローブの上からでもわかる大きな胸を強調する長く伸びる白い十字は、裾から伸びる金の茨模様が繊細に絡んでいる。ナッツとおそろいの革ベルトで腰を締めている。麦わら帽子にショートブーツで、長い真っ直ぐな杖を手に、パルサの後にテクテクとついて行く。
横に水筒がぶら下がる大きなリュックを背負う姿が愛らしい。
パルサ、六歳。前世をすっかり忘れ幼児化している。
世紀末暴走子供用アーマーを着用する。有名映画に衝撃を受けたパルスママ、ナッツ、ラッチ、の合作である。
ジーンズ生地に黒なめし革でショルダーガードをイメージし、肩に可愛いトゲを付けている。紺色半ズボンに薄茶色の革パッチ。
炎渦巻くペイントされた半キャップはラッチのリュックにぶら下がっている。
背伸びした武装と、大きな歩幅で歩く姿は、幼児である。
手を振り歩くパルサが、ラッチとナッツは可愛くしてしかたない。
コソコソと話をしている彼女達から「メルメル」と微かに聞こえてくる。視線はパルサのお尻に向いている。お尻部分には、やや厚めの革が当てられているが、どんな模様が良いか、一番可愛らしさをアピールできるのは何かと相談しているようだ。二人の意見が固まり、羊の尻尾になった。近いうちに羊尻になることだろう。
街を抜け歩くことしばし、自警団演習場に到着した。
教練中の自警団員に手を振り、自警団の待機所へ向かう。車庫にはバギーや各種装備、得体の知れない人形が並んでいる。建物の前まで来たので、父の部屋の窓へ向かい石を投げ、仕事中の父を呼ぶ。特に用事は無かったので、みんなで手を振っておいた。
街の外で、ナッツはバギーにのり、ラッチとパルスは牽引する極楽荷車へ乗り込む。
しばらく街道を進み、バギーを自動運転に任せたナッツも荷台に移ってきた。みんなで荷台から陽気な農村部を楽しむ。畑仕事や道を歩く村民に手を振り長閑な景色を楽しんでいると、畑の向こうからバギーに乗った村長が追いかけてくる。バギーで並走する村長に、自分達だけで王都へお使いに行ってくる自慢と、村で困った事が無いかなど状況を確認しながら、街道を王都へ進む。
この村長も、村が発展する前は渋い顔ばかりしていた。だが、トラクター等作業機械の導入や村民教育により農業収益も右肩上がりとなり、上下水道整備、共同浴場設置、単身者住宅建築と補助、レース用バギーの購入など、村は領地で最も近代化したモデル農村となり、村は金銭的な余裕ができ、村民も時間的な余裕が持てるようになった。そして今では、渋ちん村長も随分と若返り、見るたび別人のように変身し、ウクレレを陽気に掻き鳴らし見境なくナンパして歩いてる人のようなイメージになっている。自ら率先して農村周辺をバギーで走り回り、魔物刈りや不審者殲滅を行う、バイオレンス村長でもある。
「ぼっちゃん、皆によろしくお伝え下さい!よーそろー。」
「よーそろー。」
村長が道を外れ、ドリフト土煙をあげ走り去るのを見送る。
北へ北へ、王都へ続くトラクター街道をバギーは進む。街道は各領が共同で整備したもので、低コストの魔物由来の舗装材を使い、走りやすく補修も簡単である。この街道が王都までの所要時間を1/2に縮め、農作物などの物流を発展させ、辺境を豊かな領地へとしてくれた。この街道付近一帯の治安を守るのも領主達だ、各領主のバキー隊が好き勝手に行軍訓練を行って魔物も犯罪者も絶対数が減らす事に成功した、のんびり安心旅が出来る自慢の街道なのだ。
林道に入りスピードを上げる。
バギーが林の中をガスガスとタイヤを鳴らし、木々の流れを後ろに置いてゆく。
木漏れ日と空気の暖かさに頭も脳も暖められ、毛布に三人がくるまり、うとうとと空を見上げる。ほんの少しの揺れと日差しと毛布の暖かさに、日常生活全てを忘れ眠ってしまいそうだ。
「今度、山を散策しましょう?」
「うん。美味しい山菜色々見つけて美味しいごはん飯食べよう。」
「そだね、季節の旬の食べ物って、やっぱり美味しいからね。
料理頑張っちゃうね。」
「聞いて聞いて、私も色々料理出来るようになったんだよ。」
「そうそう、お菓子も私達でいつも作ってるんだよ。」
「へー、いいね。今度、一緒に作ろうね。」
少女達もパルサも、人とのコミュケーションが苦手であり、三人共が共同認識でそれを自覚している。そんな自分達が、普通っぽく話せただけで幸せを感じていた。家では、話を聞かない脳筋ばかりが喋っているので、精神的に疲れるし、どうしても話題が偏ってしまう。パルサは、ナッツとラッチがうちに来てくれて良かったと、風を受けて楽しそうな二人を見て思う。
安らぐ日差しと暖かなお互いの体温に、ふわふわと夢見心地のまま山道を超えてゆく。誰も前を見てないどころか居眠りしだした三人は、飲み明かせた早朝に山手線で家へ帰るつもりが乗り過ごしている仲良し三人組のように幸せそうだ。
幾度目か山を超え、林を抜けると視界が光で埋まる。山の下には、せり上がりそびえ立つ城と、丘陵に張り付くように並ぶ家々、大きく市街地を囲う城壁、巨大な王都が見える。平野にずっと続く酪農地帯に浮かぶ島のようだ。
目指す王都はもうすぐそこにある。
☆
トコトコと極楽荷車は進む。
王都に着いた。門の通りは沢山の露店や屋台が並び、あちらこちらから良い香りが漂う。お祭り心に足を引かれ寄り道するパルサ達。これまで見たことが無い栗蒸し羊羹と、香料でフレーバーを加えた香料紅茶、おみやげ定番焼きまんじゅうを購入。お土産を選ぶのって楽しいよね。
入門のため改札に並ぶ人々を横目に、にこやかに手招きをする門兵に従い車両受付へと向かう。
紋章のチェックとステータス鑑定が終わり、王都に入る。
パルサ達は武器屋街のほぼ中央にあるという広場へ向かった。この通りは、がらくた市のように雑多に立ち並び、のんびり通りを歩く人も多い。ナッツが先導し、目ぼしい武器やパルサ用の可愛い武器を探し店を覗いてゆく。
キョロキョロ落ち着かないパルサは、ラッチに手を引かれて付いて行く。おもちゃのようにキラキラした並んだ剣、壁にかかる盾、金属製の棒が沢山、それからそれから、興味が尽きないパルサを見守るラッチは、ゆるゆるに緩んだ顔で眺めている。
パルサは、自分に刺さる視線に居心地悪さを感じ、次第に心と気持ちをささくれさせて行く。妄想シャドーボクシングで耐えていたが限界を感じ、誰の目にも留まらぬ場所がないか、キョロキョロヨロヨロと、胃痛を我慢しベンチを探すサラリーマンのように聖域を探す。無関心が日常だった現代日本が恨めしい。
人混みにぽっかり空いた空間を見つけた。シュッシュ、シュッシュ、近づくと大きくなる異音、細い骨が見て分かるほど痩せた腕、骨に沿うようにして盛り上がる太いチューブのような筋肉、古く変色し盛り上がる傷跡だらけの裸の上半身、鼻下の真っ白な控えめなヒゲ、骨ばった顔、くぼんだ目から光る眼光。短く刈り込まれた白髪。見たまんまヤク中みたいな爺ちゃんが店先で刃物を研いでた。あの爺ちゃんなら見ただけで斬り掛かって来る、不躾な視線も物理的に跳ね返しそうだ、失礼なことを考え、ヤクじいちゃんの横に避難した。
シュッシュッシュと刃物を研ぐじいちゃんの手元をじっと見つめるパルサ。誰からの視線もなくなり、しくしく傷んでいた胃も柔らかく癒やさる。あぁぁ、癒されるぅ、ぼんやりと、ヤク爺の手元を見続けていると、じいちゃんのどら声が響く。
「落ぢ着いたがぁ、坊主。」
「悪意なぐ見られるんば考えもんじゃぁ。」
「ナイフ買わんが?ええ武器もっでぇど自慢ぐぁじでるみだいでおぢづぐど。」
「どば?ええやがぁ?」
「抜いて見ていいの?」
「んが」
「わー、綺麗…。」
凄い訛っている、だが、日本僻地の方言のるつぼで育ち鍛えられたパルサには、フィーリングだけで会話が可能なのだった。
パルサが受け取ったナイフは、ヤク爺に似合わない繊細で美しいプレス文様の鞘に収まっていた。柄まで伸びる鞘の縁は太く黄色い革紐で大胆に綴じられ、表面の文様も薄く繊細に儚げな花が彩られている。ナイフの背まで美しい曲線を描き伸びる柄も、角から切り出され、表面には見るからに手間が懸かかる浮かし彫りがされている。幾つかの金属が層となり刃先まで美しい、刃の峰は鋸歯が綺麗に乱杭で並んでいる、打刃物だ。
このナイフって、娘か孫用に用意してた物なんだろう。手が込んでいるなんてものじゃないし。取り出す時もすぐ手元にあったし。いいのかな。。。ラッチも頷いているので買ってもらった。小さく「お礼言いなさい」と言われたので、本来なら買えるような値段じゃなかったのだろう。
「ありがとう、じいちゃん。これ大丈夫なの?大事なんじゃないの?」
「んがっ!んがっ!んがっ!
ああ、気ぃすんぐぁ、大丈夫だ。
どぐぁ、づけだっでやが。こっじでいがっか?」
金具の付いたベルトを作ってもらい、ナイフを腰に下げてもらう。今はお遊びだからこれでいいが、使う時は、しっかり何かに固定して身につける、カバンに縛れって教えてもらう。
じいちゃんは、んがんが言って、ナイフの手入れ用に、小さい缶に入った練油と、使い古しだと言って大きな砥石をくれた。
じいちゃんと手を振ってわかれる時には、パルサのくしゃくしゃした気持ちもスッキリと回復していた。
「頭ヤバイじいちゃんかと思ったけど、良い方のヤバさだったな。」
「ほんとね、200年ぐらい生きてるみたいだったね。」
「うん。良いじいちゃんだったね。また遊びに来ないとね。」
そぞろ歩く冒険者のお姉さんがパルサをガン見してきた、ちょっと眉が寄ってしまう。パルサの顔が曇ったのを見て、小さく手を振るお姉さん。不躾な視線で心がギスギスしてたパルサは、お姉さんが手を振ってくれた事が嬉しく、つい、体全身で手を振り返す。パルサに手を振られたお姉さんは、しょんぼりしてた子が、いきなりとんでもなく元気に手を振り返され、嬉しさと恥ずかしさからか、険しい顔でプルプル小刻みに震え何度も頷き頬を赤らめている。パルサは、頬を赤らめる冒険者のお姉さんを不思議そうに眺めていたが、喜んでるし何だか勝ったようで気持ちが良くなった気分になり嬉しそうに微笑んだ。
ナッツとラッチは、お姉さんキラーとなったパルサを見て、「私達もこんな感じだったなぁ。」と顔を見合わせるのだった。
パルサに手を振ったお姉さんには、神から祝福が与えられ良い人生を送れるでしょう。
さて、ナッツが辿り着いたのは子供用専門店。
彼女達は剣をパルサに持たせポーズをお願いする。ナッツ良し。ラッチ良し。パルサは求められるがまま、斧や両手剣や槍やムチと武器を構えてポーズを決める。パルサは素直なので気分も乗ってきて、言われるがままに、「やー」「たー」と掛け声も勇ましく振りを付け、キリッと決め顔ポーズでお姉さんたちを伺う。
パルサは内心では、いつ終わるのかな、でも、いつもより喜んでくれるナッツとラッチも愛らしい。遊ばれているのを理解しながらも満更でもなく、みんなが喜ぶ顔を見て喜んび、過剰なサービスに励んでいた。
パルサは子供用武器専門店で、お姉さん達に過剰なサービスをしてしまった。良い仕事をしたと思っているパルサは気付かないが、そんなサービスに飢えている女性達が、さらなるサービスを求めるあまり多少強引になってしまうのは仕方ないのだ。
いつもより三倍ノリの良いパルサに気を良くした店内一行は、姉妹店の子供用防具専門店へと向かう。
撫ぜられすぎたジャイアントラビットのようにぐったりするパルサだったが、武器屋を閉めた店のお姉さんに抱っこされ、まだ明るい町中をぼんやりと連れて行かれるのだった。
一行は通り2つ過ぎた先の防具子供用専門店へやってきた。
連絡を受けてた店は閉められ貸切状態に、少しでも心地よい環境になるようにと、ジュースとおやつが用意され、パルサもその気持に答えようと、ここで殺らねばいつ殺るのだと気を引き締める。
広くスペースが作られた店内で、姉さんたちは思い思いにリラックスして寛ぎ、パルサは姉さんたちの前に横にとぐるっとまわって一度休憩、姉さんたちが協議する間に着替えさせてもらう。パルササファリパークは夕方薄暗くなるまで続けられた。
きぐるみタイプのローブはそれぞれ良かったが、あざとさが感じられて見送られる。
蛮族アーマーの、ふさふさ感と巨大な斧との意外性は良かったが、全身きぐるみにも及ばないと落とされた。
ゴーレム装備の、ゴツい甲手にグリープと白Tシャツ白短パンは、違う何かが目覚めそうなので保留。
中級魔術師ローブ、良く似合い、コミカルで、街での連れて歩くペット的な意味で最高と、日常生活と冒険の非現実が子供らしさを損なうことかく可愛らしい。
古代ローマ軽装兵、筋肉モチーフに固めた胸腹当てと背筋当て、腰の鎧誰が、大きく豪華な甲、少し無理をすれば戦えそうと、無理して背伸びしているけどギリギリ戦えそうな感じが可愛い。
派手ギリシアコロシアム残念装備、半裸短パンに、長さが足りない短赤茶色のマント、鎧に見えるが腰に巻いただけの黄色い布、粗雑な紐組みサンダル、ギリシア彫刻からパックって来たような鉄色兜、全部再利用で揃えました感がマッチしてとにかく可愛い。残念Tシャツに組み合わせるのも良い。大穴評価。
みなさんが満足してくれた所で、良いと思った沢山の装備を一式でお買上げとなりました。ローブ各種は普段着になるそうで、手作りの参考用と普段着用に各種購入しています。
結局、最初に着ていた革鎧もどきがフォーマルらしい。パルサママが聞いたら喜びそうだ。
お店から極楽荷車に乗りトコトコと王都のお家へ帰る。
荷車から振り返り見る景色、高所から見下ろす夕暮れの王都は、軒先のカンテラや外かまどの火が壁を色付けて夕日と混じり合い、情熱的で少し色褪せた寂しさを感じる風景だ。早く家に帰って母さんに抱きつこうとパルサはラッチに抱きつくのだった。
王都のおうちを管理してくれている、お爺ちゃんお婆ちゃんに挨拶して自室へ。設置されたドアから研究所を経由し、領地のお家へ帰りました。
※ 異次元にある研究所にはあちこちに繋がるドアがある
お使いは一時中断。
楽しそうに話すパルサとナッツとラッチ、パルサママは嬉しそうに話を聞いている。
今度はパルサママも、時間を作ってお買い物へ行くそうです。
☆
王都二日目。
王都のおうちの管理人お爺ちゃんお婆ちゃんに、お土産のマッサージチェアを渡し、王都観光へ。
朝が早かったので、極楽荷車でゆっくりと王都を散策する。
ほとんどの道路は石畳で均され、緑と水路が適度に配置された計画的に構築された都市だ。技能者の数により区画を定めてあり、区画同士が効率よく運用できるように考えられている。
前に見えてきたのは、学術研究機関の区域、学問区である。朝のこの時間は学問区へ向かう馬車がほとんどである。歩いて向かう生徒も多い、ローブを着た生徒達が話しながら歩くのを見て、過ぎ去りし日へのジェラシーを感じていた。
「パル坊、学校行きたいんか?」
「いや、今さら何を学ぶのかって気もするし。子供の相手は面倒くさそうだからいいや。」
「ふふっ、パルちゃんは私達の子供なんだから、好きにしていいのよ。」
「うん。今みたい、みんな一緒にのんびりしたい。」
道行く彼彼女らより年下やったわ、忘れてた。現実にもう一度子供達に混じって何かしたいかと考えると違うんだよな。たぶん。あれは、自分を理解してくれる誰かに出会えなかった後悔だったんだろうね。しんみり。
ちなみに、この姉妹は見た目通りの年齢でなく、永遠に等しい年月を生きていた。今でこそ生身の人間だけど。時間の中に、何もかも置き忘れ、楽しさも悲しさも擦り切れるほど生きてたんだろう。そして、新たに生を受け、やっと三年。やっと三年の人間らしい生活しか経験していないのだ。
僕にとっても、理解してくれるんじゃなくて、一緒に生きてくれる事だけでうれしいのだ。
「んふふふ。パル坊は臭いセリフ時々吐くな。」
「パルサちゃーん!」
ナッツもラッチもいい子なんだよね。
いちゃいちゃしてると聖堂前広場に着いた、のんびり歩く事にする。
装備は昨日と同じだ。僕は世紀末暴走子供用アーマー、ナッツは軽業格闘家、ラッチは成仏神父ローブ。今日も姉弟でドラクエコスセットである。
屋台で焼肉とパンとスープを買い、広場の端っこで朝食を食べる。朝の済んだ空気の中、赤ワインもちびちび飲んでのご飯は心地よい。
「なぁ、なんで家でごはん食べんのん?」
「ママさん忙しそうだったから。
お片付けとかで気を使わせて邪魔しちゃ悪いし。
たぶん、ママさんもお菓子と紅茶で済ませてるんじゃないかしら?」
「そっかー、手頃につまめる軽食作り置きしよっか。」
「サンドイッチとか良いかもね、パル坊御飯作るあれ改造してくれないかな。」
「んー、うちしか使わないものって、改造するより発電機付ける方が簡単そうだね。」
「昔の機械で使えるものあるかも、調べて見つけたら言うからよろしくな。」
ナッツもラッチの会話を、ぼんやりしたまま聞き流す。
そしてまた、ぼんやりと王都を巡る。
☆
北門の先のダンジョン見学へ。
門の外には、フリーバザーのような光景が広がっていた。
布の屋根の下にポーションを並べる錬金術師、ダンジョンで出土したガラクタ、ダンジョンで拾った武器防具、わりにちゃんとした冒険道具が揃う個人商人、色とりどりの布を並べた洋服屋、必死に生きている人達が、必死に生命を繋ごうとしているお店が並ぶ。まさしく異世界の街っぽい。
子供が布に並べた雑多なガラクタに、刀身だけの短刀が目に付いた。黒くべったりと汚れているが錆びた感じがない。何の金属かわからないけど錆びない金属って、凄いな、気になるなぁ、結局買うことにした。パン1つ分の値段だったので、酒場で食べる夕食ぐらいのお金を払って、僕も彼もホクホク。
お土産が出来て嬉しかったので、全部まとめて銀貨5枚買いをし、彼にノミ市場を案内してもらう事にした。彼が珍しいと思うお店や、ダンジョンから自分達で拾っ来たお宝など紹介してもらう。本のお店、少年の先輩がうるガラクタ屋さん、遠くから来ている商人のお店、など、案内してもらい沢山買い込んた。
いっぱい買い物するって楽しいよね。
「少年、君はダンジョンに一人で入っているの?」
「年下に少年て言われたよ…。き、貴族様なの?」
「うむ。苦しゅうない、普通に話すが良い。」
「何ふざけてるのパル坊。」
スッパーン。ナッツにはたかれた。
同じ年頃の子とのコミュニケーションなんてやったこと無いもん。うちの街の子じゃないんだもん。
どうしたら良い?って、ナッツを見る。
「大丈夫よ。この子はパルサ。
普段通りに話してあげて。人見知りしてるだけだから」
「そ、そうなんだ。パルサよろしく。おれドイツ。」
「ドイツ君よろしく。ごめんね、何を言えばいいかわかんなくて。」
「さっきまで普通に話してたと思うけど…。」
「き、急に緊張して。」
「ちょうど向こうにたまり場あるから座ろっか。」
「お、おう。」
食事物の屋台と屋台の間を抜けると荷車を置いてあるスペースがあり、丸太を椅子に座って話す。
「ごめんな、通りで話してるとクソ冒険者に絡まれることあるからさ。」
「やっぱり変なのいるんだ。」
「いるいる。よその街から流れてきた冒険者とかな。
売り物を盗んでいくとかバカだよな、そのうち門で捕まるのに。」
「あー、直ぐには捕まらないんだ。」
「金払わないぐらいだと何度かやらないと無理みたい。人さらいや強盗すると一発犯罪者だけど。」
集まって来た死霊さんもウンウンしている。
そうなんだー。魂に犯罪歴貼っていくんだ。
「で、ダンジョンだっけ。
俺たちは小遣い稼ぎにダンジョンに入ってるんだよ。
1階で技能を出来るだけ付けて、たぶん冒険者になるんだ。」
「どんな技能が付くの?」
「…。
俺達の秘密なんだけど。
みんなからもいっぱい買ってくれたし、いいや。
暗くても歩けるようになるとか、宝箱の安全な開け方がわかるようになるとか、罠を見つけるとか。」
「おぉ、すごい!
宝箱ってどうやって開けるの?」
「後ろから蹴る。」
「え?」
「後ろから蹴る。」
「蹴るんだ…。」
「うん。宝箱の開け方がなんとなくわかるんだよ。
後ろから蹴ると開くような気がするってなるから蹴る。
浅い場所の宝箱なんてほとんどゴミだし、みんな蹴ってる。」
「魔物集まってこないの?」
「魔物ほとんどいないから。むしろ来て欲しい。」
「そ、そうなんだ、もしかして罠も蹴るの?」
「蹴らない。魔物の肉を取ろうとすると腐っているのがわかる。」
「そうなんだー。」
「バカにするけど、凄いんだぞ。
屋台でも見るだけで、お腹を壊しそうなのもわかるしな。」
「おぉ、便利。」
「だろ?」
ドイツ君には案内料を払って、また今度会う時に仲良くしてもらう事にした。
大体いつも朝から昼すぎまでの数時間、ダンジョンに入って特訓しているみたいだ。
パルサは黒塗りの刀身が6本手に入れ。ドイツ君と友だちになった。
ナッツとラッチは、ずっと楽しそうに二人を眺めていた。
楽しかったねーって話しながら王都のおうちに帰った。
おうちが一番楽しいよね。
バギーと極楽荷車がコトコトと家路へ進む。