ハチミツの罠
「気を付けるのじゃ。 この辺りに、見張りのゴブリンがおるかも知れん」
その言葉を聞き、クロードは腰を落とす。
「ま、マジか……」
音を立てないようにし、耳をそばだてる。
草木の擦れる音以外はしない。
「……大丈夫っぽいな」
「この縄を潜った先の木に、ハチミツを塗りつけるぞ」
鈴を鳴らさないよう、慎重に縄をくぐり、リュックからハチミツのビンを取り出すと、蓋を開けた。
転がっている枝を片手に取り、それを瓶に突っ込んで、木に塗りつけていく。
「これくらいでいいか?」
振り返ると、老婆は腕で輪を描いた。
「……っし、戻るか」
同じ要領で、木にハチミツを塗りつけていく。
もしグリズリーが匂いを嗅ぎつけて、罠にかかれば、後は自動的に縄に引っ掛かる仕組みが出来上がった。
日が暮れ始めた。
クロードたちは、前にここを訪れた冒険者が残したたき火の後を使い、火を起こすことにした。
火打ち石をリュックから取り出し、火の粉を飛ばしてみるものの、中々火がつかない。
「ぬしは、それでも冒険者かい」
「やったことねーんだよ……」
「もうええわい、火はワシが起こすから、この鍋に水を汲んでこい」
渋々川から水を汲み、戻ってくると、パチパチとオレンジの炎が上がっていた。
「……婆さん、すげーな」
山で取れた山菜を鍋に入れ、塩で味付けした後、木の器にもそり、それをかき込む。
お世辞にも美味いとは言えないが、文句は言えなかった。
「ところでさ、こんな所で火を起こして、大丈夫なのか?」
「ゴブリン共も、人間と同じで夜は休んでおるわい。 だが、グリズリーはこれから餌を狩りに行く」
獣は火を怖がる。
火を起こしたのは、グリズリーを寄せ付けない意味合いもあった。
どれくらいの時が経ったか。
クロードがあぐらをかいてウトウトしていると、鈴の音が辺りを包み込んだ。
「……! ば、婆さん!」
「もう少し待ってから、滝つぼに向かうぞ」