罠
ガンガンと裏口の扉を叩く音がする。
「クロード、いるかっ」
「やかましいんだよっ」
扉を開けると、クロキが部屋に入ってきた。
「すぐに準備を始めるぞ。 今から、キャットを出し抜く罠を張るんだ」
クロキは、手に一斗缶を持っており、それをどうするのか? とクロードは聞いた。
「こいつは糊だ。 順序立てて話してやるから、今度はちゃんと聞け」
「……分かった」
クロキは、まず始めにイエローサファイアをクロードが手に入れたと情報を流し、店に展示することも話すと言った。
これを聞きつけたキャットが店に現れることを考え、展示している台座とイエローサファイアを糊で繋ぎ止めてしまう。
店の中で客に扮したクロキが、イエローサファイアを手にして苦戦しているキャットを羽交い締めにし、捕らえてしまう。
これがクロキの作戦の概要であった。
「……という内容だ。 何か質問は?」
「……」
口の中で欠伸を噛み殺すクロードであったが、耐えきれず、大きく顔を歪めた。
「ふあぁああああああああ~」
「貴様っ」
クロキが店に置いてあるトゲトゲの石を掴む。
「おまっ、そんな凶器みたいな石、投げるんじゃねぇ!」
「だったら話を聞け!」
「き、聞いてたっての! えーと、あれだ。 糊を入口に塗ってキャットを捕まえんだろ?」
グサリ、とクロードの顔面にクロキの放った石が命中した。
クロキが街に情報を流しに向かっている最中、クロードは店のレイアウトを変えていた。
中央に、メインのイエローサファイアを展示する台を用意する。
「マジで投げるとか、ねーわ」
ぶつくさと言いながら、柔らかい座布団のようなものに、一斗缶の中味をハケで塗りつけていく。
それを台座に乗せて固定し、表面にも同じように糊を塗ると、今度はイエローサファイアを乗せる。
「っし、これでいーだろ」
あとは、店内にキャットが現れるのを待つだけであった。
翌日から、コールドストーンの店内は、人で溢れていた。
老若男女、様々な者がイエローサファイアを一目見ようとやって来た。
「これがイエローサファイア? 何か、1シルバー均一にでも置いてそうだわね」
「本物だって証拠はあるのかい?」
近所のおばちゃん連中に、クロードが説明をする。
「六つの頂点の光が見えんだろ。 これがサファイアだって証拠だよ。 あと、こいつには人を魔物に変える力がある」
へぇー、と声が上がる。
「若いのに良く知ってるわねぇ~」
そんなやり取りをしている最中だった。
顔をフードで隠した客が、イエローサファイアに手を伸ばした。




