衛兵
「うちの親父、元冒険者だからよ。 もしかしたら、裏の倉庫にあるかも知れねーわ」
「……なるほど。 それなら、かぎ爪ロープとランタンは任せた」
クロードは、一旦家に引き返し、物置から頼まれた道具を探した。
(確か、あった気がするんだよな……)
昨夜、斧を探した際に、一通り倉庫に置いてあるものは確認していた。
案の定、隅においやられた物の中から、埃まみれのロープとランタンを見つけた。
(汚ねーけど、これで大丈夫だろ)
井戸の前でクロキと合流。
かぎ爪ロープの爪を、井戸の縁に引っかける。
「……っし、これで下に降りれるぜ」
クロードが先に降りようとした時だった。
通りの向こうから、甲冑を身にまとった男が声を張り上げた。
「まてまてまてーい!」
「……あん?」
ガシャガシャと鎧を揺らしながら、男が走ってくる。
「お前ら、誰の許可を得て井戸の中に入ろうとしているっ!」
「許可なんているのかよ。 お前、知ってたか?」
クロキも、さぁ、と首を傾げる。
「それより、いつからそんな馴れ馴れしくなった?」
(こいつのこと、何て呼んでたっけな? 誰かさんが全然更新しねーから……)
それはさておき、この衛兵、治安維持を目的として国から派遣されていたが、普段は突っ立っているだけで、街の人間からも厄介者として認知されていた。
「なあ、こんな奴無視して、とっとと降りようぜ」
「何だとっ…… 井戸に降りるなら、全ての荷物を改めさせて貰うぞ!」
突然、クロードの懐に手を伸ばしてきた衛兵に、クロキが即座に反応した。
ナイフを取り出すと、衛兵の首筋にそれを突きつける。
「……!」
「動くな。 何で荷物を改めなきゃならない? 俺たちが井戸に毒を流そうとしてる風に見えたか?」
「……そのナイフをどけろ、貴様らを城まで連行する」
クロキは、素早く相手の腕を取り、背面に回した。
そして、足の関節を蹴りつけ、地面に這わせる。
「クロード、こいつの顔をはげ。 こいつは、衛兵じゃない」
「……何だって!」
クロードが衛兵の顔に爪を立てると、表面の皮膚を剥がそうとした。
「いででででっ、や、やめろっ」
「正体を見せろ、キャット!」
クロキが声を荒げ、その名を口にした。
(こいつが、キャットなのか!?)
しかし、どれだけ爪を立てても衛兵の顔は剥がれない。
いたずらに爪の後が残るだけであった。
衛兵の顔が血まみれになり、ようやくクロードは納得した。
「……クロキ、こいつ、ただの衛兵だ」
「……え」




