一日の終わり
グサリ、とナイフが刺さる。
しかし、傷ついたのは皮膚の表面のみであった。
(今ので決まる流れだったよな!?)
あまりにも非力なクロード。
闘牛も半ば呆れ、仕方なしに暴れる。
その時、斧を杖代わりにして、父親がやって来た。
「クロード、首より柔らかい所を狙え!」
(首より柔らかいとこって、どこだよ!?)
闘牛の首にしがみつきながら、クロードは考えを巡らせた。
そして、あることを思い出した。
(……そうだっ)
それは、数日前、キャットと一晩を共にした時のことであった。
2人はベッドの中で、こんなやり取りをしていた。
「プニプニ」
「やめてっ、くすぐった…… あははっ」
クロードは、キャットのわき腹を執拗につまんだ。
「ここが好きなんだろう?」
「何言ってん…… やめてーーーっ、ぎゃははははっ」
こうして、2人は一晩中、お互いのわき腹をつまみ合っていた。
(脇腹だっ!)
クロードは、首から離れ、闘牛の腹の下に潜り込んだ。
そして、わき腹をくすぐり始めた。
「ブ、ブオオン!?」
予想外の攻撃に、筋肉が弛緩する。
そこに、待ってましたとナイフを突き立て、それを繰り返した。
「うらああああああああああああっ」
わき腹をめった刺しにし、ようやく、闘牛は崩れ落ちた。
「お、おもでえっ……」
闘牛の腹に押しつぶされたが、圧迫死する手前でどうにか体を引きずり出すことができた。
「はあっ、はあっ……」
息を整えていると、突然、闘牛の体が小さくなり、元の老人へと戻った。
すると、うつ伏せに倒れている老人の口から、何かが吐き出された。
「……」
拾い上げ、空にかざす。
明け方の太陽に照らされ、6つの頂点を持つ光を放っている。
「イエローサファイアじゃねえか」
そう言ったのは、クロードの父親であった。
「こいつが、イエローサファイアだって?」
(この石の作用で、こいつは魔物へと変身したのか?)
老人の方を見やると、一瞬、体が動いた。
そして、最後にこうつぶやいた。
「……ベル、坊ちゃま…… 申し訳…… ござ……」
言い切らない内に、老人はグタリと崩れ、息絶えた。
「……ベル坊ちゃまか。 魔族の親玉だとしたら、一度会いに行かなきゃかもな」
客寄せでイエローサファイアを展示すれば、たちまち魔族の目に着くことになる。
加えて、キャットもこの石を狙っている。
(せっかく手に入れたはいいが、厄介な石だぜ)
こうして、クロードは一旦家路についた。




