冒険者居酒屋
夜、クロードが向かったのは、大通り沿いにある、「冒険者居酒屋」と呼ばれる場所である。
ここでは、色々な冒険者が、仲間を集ったり、情報の交換をしたりと、冒険を有利に進めるための交渉が行われている。
店内に入り、カウンターでグラスを磨いている、30代くらいの男の店員に声をかけた。
「迷いの森について知りてーんだけど……」
「……迷いの森ですか。 ここから南下した所にありますが、まさか、お一人で?」
コク、と頷くと、店員はやめた方がいい、と言った。
「コロボックルの宝石を求めて、足を踏み入れる冒険者は後を絶ちませんが、必ずケガを負って戻ってきます。 あそこは、ゴブリンの縄張りですので」
「ゴブリン?」
「話では、徒党を組んだゴブリンが、コロボックルの里から人を遠ざけている、との事です」
一匹ずつなら大したことないが、パーティーを組んだゴブリンは厄介との事だ。
「マジかよ……」
一旦席を外し、店の角で腕を組む。
「素人が一人そんな所に行ったって、結果は目に見えてるじゃねーか……」
強力なパーティーを組んで、ゴブリンを一掃する方法もあるが、宝石は一つ。
戦利品を山分けすることは出来ない。
「どーすりゃいいんだよっ」
地団駄を踏んでいると、何者かがこちらに近づいてきた。
(……腰の曲がった、婆さん?)
「あんた、森に行きたいのかいっ」
「あ、ああ」
「じゃあ、こっちに来なっ」
婆さんは、杖をつきながら前を歩き、席に着いた。
「生2つ!」
ビールを2杯注文し、あてにアヒージョを頼む。
「なあ、婆さん、独り身で寂しいのか知らねーけど、付き合ってる暇ねーんだよ」
「ワシも森に用がある」
「……!」
まさか、この老婆も宝石を? しかし、目的はもっと別なものであった。
「マツタケ、じゃよ。 コロボックルが栽培していて、それで炊き込みご飯を作りたいのじゃ」
「……でもよ、俺ら2人じゃ、ゴブリンは倒せねーだろ」
「先に生2つ~」
ビールが運ばれてくると、老婆は声を落とした。
「作戦がある。 あの森にはゴブリンの他にも、ユニークと呼ばれる懸賞金付きの凶暴なモンスターがいるのじゃ。 そのモンスターとゴブリンを……」
運ばれて来たビールを手に持ち、カチン、と乾杯した。
「かち合わせる!」