失態
鉄格子の向こうから、灯りが近づいてくる。
(やべっ)
咄嗟に身を隠そうとしたが、既に遅かった。
クロードの姿は、ランタンの灯りによって照らし出された。
「……井戸から音がしたかと思ってきてみれば、貴様か」
「……!」
お互いの姿が露わになると、クロードは自分がしくじったことに気が付いた。
やって来たのは、魔族の老人であった。
(一番見つかっちゃいけないやつに、見つかっちまった!)
「貴様らの魂胆は読めたぞ。 ワシらがブラックダイヤモンドを探している隙に、イエローサファイアを手に入れるつもりじゃったな?」
「そ、そんな訳ねーだろ! 井戸に腰掛けて考え事してたら、落ちちまっただけだ!」
「そんな嘘が、通じると思うかっ」
クロードが井戸に落ちた下りは真実であったが、狙いは見透かされてしまった。
更に、老人は怪訝な顔で胸の辺りを凝視している。
「……む!」
「何だよ……」
光に照らされ、反射したそれを確認すると、老人は声を張り上げた。
「貴様っ、その胸の宝石、ブラックダイヤモンドか!?」
「ばっ、ちげーよ!」
両者の怒鳴り合う声が、井戸にこだまする。
「そこを動くなっ!」
老人は、再び暗闇へと戻って行った。
(くそ、あいつ、南京錠の鍵を持ってくるつもりだ…… こっから脱出しねーと)
クロードは慌てて来た道を引き返し、垂れ下がっているロープを掴んだ。
しかし、よじ登ろうとしても、ロープが下りてきてしまう。
(……焦るな、下がってきちまうのは滑車を通してあるからだ。 二本下がっているロープに釣り合うように力をかけりゃいいだけだ)
クロードは、二本下がっているロープを一つにまとめ、よじ登り始めた。
手と足を使い、どうにか這い上がる。
中間辺りまで登ると、下から叫び声がした。
「無駄じゃ! 夜が明ける前に、必ず胸のダイヤは頂く!」
外はまだ闇夜に包まれている。
それが明けるまでは、街に人は現れない。
どうにか井戸からよじ登ると、クロードは自宅へと走り出した。
(確か、家の裏に薪を割る斧があったハズだ!)




