井戸
クロードは、井戸の上に腰掛け、上半身裸で考え事をしていた。
(このまま帰ったら、ゴブリンにやられたアザのことを聞かれる)
いっそ、アザが治るまでクロキの所に居候し、何食わぬ顔をして帰った方がいいのではないか? そんな考えもよぎった。
(……でも、いつかはバレちまう。 本当のことを話すしかねーか)
考えが固まった所で、クロードは立ち上がり、水の入った桶を、頭上に掲げた。
「汚れは落として帰らねーとな」
バシャ、と頭から水をかぶった、その時。
「……!」
体が硬直。
急に冷たい水を浴び、クロードの心肺は一時停止した。
体は後ろ向きに倒れ、井戸の闇へと吸い込まれた。
「……」
目を覚ますと、クロードは水に浮かんでいた。
視線の先には、井戸の入り口と思しき、小さな穴が見える。
(嘘だろ……)
この胸のダイヤのことを、災いを呼ぶ宝石、とクロキは呼んでいた。
もし本当に石の仕業であれば、この先ろくな目にあわないのではないか。
(宝石を探してから、踏んだり蹴ったりじゃねーか……)
しかし、泣き声を言っても始まらない。
水深は足が着く程度であり、滑車のロープを伝えば地上に戻れる。
腕の骨にも異常はなく、クロードはロープを握った。
(……ん?)
ふと、井戸の底がどこに通じているのか、疑問がよぎった。
(道が続いている?)
周りを見渡すと、先は暗闇で見えないが、人が潜れる位のトンネルがある。
クロードは、老人の言葉を思い出した。
(確か、地下に自分らのコミュニティがあるっつってたよな)
このまま進むのは危険か。
しかし、クロキにそのまま説明すれば、なぜ先を見てこなかったのか? と聞かれる可能性もある。
何より、自分たち以外に頼れる人間はいない。
(……クロキに全部任せる訳にもいかねーよな)
仕方なく、トンネルの先を見てくることにした。
腰を落として、手探りで前に進んでいく。
(こええ…… こういうの誰か前にいねーとダメなんだよ)
10メーターを進むのに数分を要し、ようやく広い空間に到着した。
(……檻?)
目の前に現れたのは、不気味な鉄格子。
その出入り口には、南京錠が取り付けられていた。




