魔族
「金貨はいらん、盗賊の女の居場所、もしくは私物を寄越せ」
クロードは、キャットからナイフを預かっていた。
自分ははめられた。
あの女がどうなろうと、知ったことでは無い。
しかし、相手は魔族であり、ナイフを渡せばキャットの命の保証はない。
(……そんなことより)
老人の射るような眼差しが、自分の秘密を暴いてしまうのではないか? クロードはそう思った。
(もしダイヤのことがばれちまったら……)
クロードの表情の強ばりが伝わったか、老人が口を開きかけた、その時。
「……困りましたね。 我々も宝石を集めている。 この場なら、他の冒険者の協力も得られるし、あなたを葬ることもできます」
ブラックの思わぬ発言に、凍り付いたのはクロードの方だった。
老人は穏やかに話し始めた。
「……ここで争う気はない」
老人も魔族と言えど、この場にいる冒険者全てを相手取ることはできない。
「……ワシらの目当ては、あくまで賢者の石。 それを精製した後は、貴様らにくれてやる」
宝石は賢者の石を作るための資料で、それを作ってしまえば用済み、とのことだ。
その話を聞き、ブラックが一瞬口角を上げたように、クロードには見えた。
「……ならば、協力しませんか? 2人が一つの物を奪い合うより、手分けして宝石を探した方が効率がいい。 我々は泥棒猫を探すので、あなたにはブラックダイヤモンドを追って欲しい」
「……アテはあるのか?」
ブラックが何を口にするのか、クロードにも検討がつかない。
(ここで裏切る気じゃねーだろーな……)
「ブラックダイヤモンドは、災いをもたらす石として、持ち主を転々としています。 今は、スライム石鹸で一山当てた、ヤマシタという男が所有者とのことです」
「……何だと?」
老人とクロードは、同時に声を発した。
(災いをもたらすとか、聞いてねーぞ!)
「そのヤマシタという者は、どこにいる?」
ブラックは、ヤマシタの経営する農場の場所を説明し、手分けして宝石を集める約束をした。
別れ際、クロードがブラックに問い詰める。
「あの話、本当なのかよ?」
「……それより、お前は泥棒猫を見つけろ。 俺は魔族の住処を探って、イエローサファイアを手に入れる」
災い云々が気になるクロードであったが、今は老人に嘘がバレる前に、キャットの居場所を突き止めなければならない。
「……分かったよ。 おまえんち、ここら辺なのか?」
「俺の家はそこだ」
ブラックが指差した先には、クロキクリニック、という看板の掲げられた家があった。
(……てか、すげー近所じゃねーか!)
しかも、本名はクロキ、というらしい。
クロキだからブラック。
あまりにもダサい。
「何か進展があったら、連絡くれ」
「……」
ブラックを見送り、クロードは井戸の方へと歩き出した。




