とある老人
「イエローサファイアは、この国の最も標高の高い山に隠されている、と思う」
(……と思う、じゃねーよ)
クロードはあくびをかみ殺した。
2人はあの後、冒険者居酒屋でイエローサファイアの情報を集めるため、貼り紙を出した。
ところが、金貨目当てでガセネタを持ち出すものが後を絶たなくなってしまった。
「この作戦、失敗じゃねーか?」
「……」
既に5人の話を聞いたが、みんながみんな違うことを口にする。
そして、6人目の情報提供者が現れた。
「イエローサファイアの情報がある」
「……どうぞ」
椅子を引き、男が席に着く。
男の顔には深いシワが刻まれており、髪は白髪。
かなりの高齢と思われた。
「……この話は、絶対に他の者に聞かれてはならん」
(そういう前置きいらねーから)
片肘をつき、クロードは一応、話に耳をかたむけた。
「イエローサファイアは、この国の地下にある」
「……噂とはずいぶん違う話ですね」
口を挟んだのはブラック。
そもそも、イエローサファイアは空に浮かぶ城にあるとの話だ。
「地下には魔族のコミュニティがある。 魔族がまた権威を取り戻すためには、石の力が必要不可欠。 空飛ぶ城の話は、石を隠すためのカムフラージュという訳じゃ」
突然、突拍子もない話を始めたかと思うと、老人は髪をかきあげた。
「……!」
額には、角を削り取ったような痕が2つ、残っていた。
それを見た2人は、お互いの目を見合わせた。
「……あなたは、魔族の生き残りなんですか?」
「いかにも」
確かに、数十年前に魔族と人間は大きな戦いをした歴史があった。
その戦いで魔族は淘汰されたハズだっが、今でも生き残った魔族が角を落としてこの国に紛れ込んでいる、というのが真相であった。
「……あんた、金目当てで仲間を売るのか?」
「違う。 目的は賢者の石じゃ」
魔族の老人は語り始めた。
賢者の石には、人を幸せにする力があるとされている。
その石を売りさばき、大金を得ることで、新たに魔族の国を作るのが彼らの目的であった。
(キャットと同じ、賢者の石が目当てか。 でも、人を幸せにする石って、一体……)
「どこぞの盗賊が、5つの宝石の内、既に3つを手に入れていると聞いておる」
「……」
魔族は魔物と通じている。
森のコロボックル、湖のサハギンから、キャットの情報は知れ渡っていた。
「若いの、お前は一時期盗賊の女と行動をともにしていたな。 女の持ち物があれば、ミノタウロスの鼻で居場所を特定することができる」
魔族の老人は、全てを知っていた。




