最後の宝石へ
クロードは目を細め、まじまじとそれを見つめる。
「……生き物じゃねーな。 神輿か?」
「神輿? あれは竜神じゃないのか?」
水面に浮かぶものの正体を確かめるため、クロードは石を拾い上げ、投げつけた。
石が命中すると、カアン、という乾いた音を立てた。
「……やっぱり、アレは竜神じゃねーよ。 竜の頭を形づくった、神輿だ」
その言葉を聞き、ブラックは納得したように拳を手のひらに乗せた。
「そうか! 竜神の話は、サハギンが都から人を遠ざける為に作ったデタラメだったって事か」
神輿は恐らく、火の宝石で出力を上げた魔法によって破壊されたのではないか? そうクロードは推測した。
(その影響で、湖が沸騰した。 その後は……)
クロードは、辺りを見渡した。
ぬかるんだ地面を見やると、20マイリーを引き上げた際の痕跡が残っていた。
「ブルースフィアを回収して、馬車で街に戻ったのか?」
引きずった後は、森の中へと続いている。
(……もし来た道を引き返すとしたら、またゴブリン荒野を抜けなきゃいけなくなる。 囮もなしにできるのか?)
痕跡を追いかけながら、そんなことを思ったクロードであったが、すぐにその疑問は解決した。
「……!」
森の中に、20マイリーと馬車がうち捨てられていた。
「……そういうことか」
荷物になる馬車と20マイリーを捨て、ブルースフィアだけ持って森の道を引き返した。
馬は2匹。
片方に2人乗れば、問題なく帰ることができる。
少し遅れて、ブラックが駆けつけた。
「どういう状況だ?」
「……ブルースフィアは取られて、キャットの行方も知れずだ」
2人は街に引き返し、到着した頃には夜もかなり更けていた。
「……これからどーすんだ?」
「キャットに遅れは取れない。 奴より先にイエローサファイアの情報を手に入れる」
ブラックが向かおうとしていた先は、冒険者居酒屋であった。
「……聞き込みか?」
「いや、情報に懸賞金をかける」
ブラックは背負っていたリュックから、羊皮紙と万年筆を取り出した。
「こいつに、イエローサファイアの情報求む、有力な情報には金貨100枚、と書いて、居酒屋の掲示板に貼り出す」
説明を終えると、ブラックは紙をリュックにしまった。
(いちいち取り出さなくてもいいだろ……)
「……顔洗ってくっから、ちょっと待っててくれねーか?」
「……」
残された宝石は、イエローサファイアのみ。
自分に埋め込まれたブラックダイヤモンドを取り出して、店に展示するわけにはいかない。
クロードは、ブラックと同行することに決めた。
「顔洗ったら、俺も居酒屋に行く」




