ナス湖
「……まあ、命を助けてくれたことには感謝するよ」
「……」
それでも、この男のために宝石探しを手伝うつもりは、クロードにはなかった。
(俺は、あくまで自分の店のために宝石探しを続ける)
意志が固まった所で、クロードは立ち上がった。
「ナス湖に向かうぞ、ブラック」
馬に跨がり2人はナス湖を目指した。
ゴブリン荒野を避けて、森の道を使う。
「ここら辺はグリズリーの縄張りだから、ゴブリンは立ち入ってこない。 奴らにもルールがあるってわけだ」
(……そんなことより、何が悲しくてこんなおっさんと相乗りしなきゃいけねーんだ)
心の中で毒づいていると、辺りに霧のようなものが立ちこめてきた。
「何だ?」
「……とにかく、進んでみよう」
立ちこめた霧で視界は悪く、この状況で外敵に襲われたら一溜まりもない。
思わず、ブラックに掴まる手に力がこもる。
「……おい、あんまり抱きつくな」
「だっ、抱きついてねーよ!」
慌てて手を振りほどくと、馬が大きく前足を上げ、クロードは振り落とされた。
「ヒヒーン!」
「ぐあっ」
地面に打ち付けられ、泥を食らう。
「大丈夫か? それより、着いたぞ」
「……!」
クロードの眼前に、巨大な湖が現れた。
湖に近づき、顔を洗うため水をすくおうとした瞬間、思わず手を引いた。
「これ、お湯じゃねーか!」
「何?」
ブラックも湖に手を触れる。
水温は、沸騰したお湯のように熱かった。
「……この立ちこめた霧の正体は、蒸気か。 ここで一体、何が起きたんだ」
(……キャットの持っていた火の宝石。 あれを使ったのか?)
「そういえば、湖の竜神は?」
クロードが湖を眺めていると、水面から妙な物が顔を出していた。
「竜の、頭!?」




