VSゴブリンズ
キャットは恐らく、自分の馬に矢を打ち込んだに違いなかった。
(あの…… あの約束は何だったんだよ!)
今度は体が熱くなる。
手が震え、クロードは正常な判断を失った。
「わああああーっ」
叫びながら相手に突進し、右手に持った剣を振り回した。
しかし、それはいとも容易くかわされ、あげく、笑われた。
「ゲッゲッゲッ」
周りのゴブリンも指を差し、クロードのことをバカにする。
(くそがっ)
クロードは、完全に頭に血が上った。
視界は狭まり、目の前のゴブリンしか見えなくなった。
声を張り上げ、剣をブンブン振り回す。
「おぶっ」
シールドバッシュ。
ゴブリンが盾でクロードの顔面を強打した。
鼻から血が溢れ、片膝をつく。
「ごぶっ……」
ゴブリンが、手の甲をこちらに向け、人差し指を立てた。
そこから指を折り、かかってこいよ、と挑発する。
ゴブリンが一斉に向かってくる気配はなく、目の前の相手は剣さえ抜いていない。
(遊ばれてんのか……?)
血が抜け、冷静さを取り戻すと、クロードは初めて現状を理解した。
ガチガチと体が震え、呼吸が浅くなる。
(な、なぶり殺しにされる……)
死にたくない。
クロードは、ゴブリンとゴブリンの隙間を探し、走り出した。
「がはっ」
しかし、盾で中心に押し返される。
「だずげでっ、だずげでぐだざいっ」
クロードが涙声で懇願する様を見て、ゴブリンたち罵声を浴びせた。
「ウガアッ、グラアッ」
戦いに応じないクロードを取り囲むと、ゴブリンたちは一斉に袋叩きにした。
「……!」
腫れ上がった目で最後に見たのは、ゴブリンが抜きはなった剣の刀身であった。
心臓に刃が突き立てたられ、クロードの命は絶たれた。
薄暗い森の中で、クロードは目を覚ました。
「……!」
がば、と起き上がり、体を弄る。
体は打撲だらけで、確かにゴブリンにやられた後が残っていた。
「目が覚めたか?」
たき火を挟み、見たこともない男が胡座をかいている。
ひげ面の30代前後の男。
身なりは貴族のように上等だった。
「お前は死んだ。 俺がいなきゃ、二度と目は覚まさなかっただろう」
「……あんたは?」
「俺は、自分の宝石を取り返すために泥棒猫を追っている。 名はブラック。 ヤブ医者さ」
(泥棒猫って、キャットのことだよな…… キャットの持っていた赤い宝石は、こいつの持ち物だったのか?)
クロードが考えを巡らせていると、ブラックのさっきの言葉を思い出した。
「……あんた、俺をどうやって助けたんだ?」
「自分の胸を見てみな」
クロードは、恐る恐る自分の胸を見てみた。
すると、そこには心臓の代わりにある物が埋められていた。
「……黒い宝石?」
「死者に命を与える宝石、ブラックダイヤモンドだ」




