ゴブリン荒野
着替えが済むと、キャットが口を開いた。
「なら私ら、今日からチームってことでいい?」
「チーム?」
「そう、私ら片っぽが死ぬまで、絶対にお互いを裏切らないこと」
キャットは、サックに入っていたナイフを抜き、親指を切りつけた。
「な、何してんだよ?」
「盗賊の儀式で、お互いの血と血を交わすことで、正式な仲間と認め合うのよ」
ナイフの刃を自分に向け、クロードに渡す。
(マジでやんのかよ……)
正直、自分で自分の指を切りつけるなど、気がすすまないクロードであったが、ためらえばまたキャットに笑われてしまう。
思い切って、ナイフで親指の表面を切った。
(……つっ)
指から血が流れる。
キャットとクロードは、親指と親指を合わせ、契りを交わした。
(……俺を油断させるのが目的か?)
クロードは、利用されるのを覚悟の上で、キャットと一晩を共にしていた。
それでも、利用されても構わない、という感情も芽生えつつあった。
「ナイフ、返すよ」
「それは、持っときなさい」
「何で?」
すると、キャットは素早く動き、クロードの首を捕まえた。
「……うぐっ」
「こういう風に敵と組み合ったら、剣じゃ対応できないでしょ?」
「なるほど…… 了解」
2人が港に向かうと、既に船長がスタンバっていた。
傍らには、何枚かの歯車で出来た機械がある。
「こいつで20マイリーを引き上げる」
船長は、手にしていた網を海に向かって投げた。
その網が20マイリーに絡みつくのを確認すると、歯車の軸にロープを絡ませ、こう言った。
「これは、火力を使って歯車を回し、重たいものを持ち上げる装置じゃ。 キャット君!」
キャットは、手荷物から赤い石を取り出し、歯車の中心に仕込まれている受容体と呼ばれる物質に炎を打ち込んだ。
すると、歯車が回転し、20マイリーを海から引き上げ始めた。
「おおお……」
水面から20マイリーを引き上げると、転がして馬車の後ろに乗せる。
「さあ、出発じゃ!」
クロードたちは、港を南下し、森を避けて荒野へと向かった。
馬車を操るのは船長。
その中に、火の扱いに長けた老魔法使いが一人。
前をキャット、後ろをクロードが馬に乗って移動する。
馬車の速度に合わせ、ゆったり道を進むと、水牛が数匹、丘の上からこちらを見下ろしている。
背には、ゴブリンがいた。
「クロード、来るよ!」
キャットが叫んだ。




