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未知なる世界の歩み方  作者: 月見幻
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関門

 この前の台風で結構濡れてしまった。

 次第に門が迫ってくる。実際には俺が向かっているのだが、出来れば行きたくないという気持ちからそう錯覚してしまう。

 出入口付近に立っているのは守衛だろうか。鎧を身に纏い、腰には剣のような武器を差しているように見える。


 仮に襲われる様な事があれば逃げるつもりだが、それ以外であれば大人しく従う予定だ。下手に怪しい行動をして中に入れないことになれば、何も知らない世界でいきなりサバイバル生活をしなければならない。食料や水もない今の状況で、流石にそれは――待てよ?


 中に入れたとして、食料や水はどう確保するんだ?


 あ~……俺としたことが重要な事を忘れていた。そうだよ。生きていくのに必要な衣食住。特に重要で俺たちに足りない食をどうしたらいい? 手にいれる方法として可能性が一番高いと思うのは買うことだが、お金はどうする? 俺の財布に入った日本円で大丈夫なのか? 日本円がだめなら盗むか? いやいや、絶対それは駄目だろ。そんな事したら捕まるし、俺の性格的に――。


「タクヤ。二人こっちに来るわ」

「うん?」


 サクラの忠告で意識が現実へと戻る。

 考え事をしていたせいか、いつの間にか大分進んでいたようだ。気付けば数人いた守衛のうち、二人がこちらへと歩いてきていた。

 取り敢えずは、この状況をどう乗り越えるかだな。

 人間は第一印象が肝心。普通に受け答えすれば大丈夫なはず。


「ようこそ。妖精を連れている何て珍しいですね」

「ここに来るまでに出会ってなつかれたみたいで。田舎者でそういった事に詳しくないのですが、珍しいんですか?」


 守衛はどちらも三十代ぐらいだろうか。気さくに話しかけて来てくれて、思っていた様な恐さは微塵も感じられない。

 警戒心を少し解きつつ、珍しいと言われたサクラについて聞いてみる。そこで田舎者と言うのも忘れない。東京に初めて住むことになったときも、よく道に迷ったりして使った単語だ。勝手に向こうが、田舎者なら知らなくても仕方がないと解釈してくれれば良いのだが。


「そうですね。妖精は魔力が綺麗な心優しい人にしかなつきませんから。それに相性もあるらしく、大抵の人は出会えないんですよ」

「幸運の象徴とも言われていますし、見られただけでも嬉しいです」

「まぁこの街を拠点にしている一人に、妖精を連れている人がいるんですけどね」

「そうなんですか」


 嬉しそうに解説してくれる守衛の人を見ながら、俺も笑顔で答えるが内心困惑していた。

 マリョク? もしかして魔力か? つまりは魔法があると? それとも何か別の意味が?


「おっと、今は仕事中でした。妖精を連れているし大丈夫だとは思いますが、こちらの水晶に触れてください」


 だが考えている時間は無さそうだ。

 守衛の人は顔を引き締め仕事の顔に戻ると、片手で包める大きさの水晶玉を差し出してきた。これに触れと言うことだろう。先程の魔力が何なのか引っ掛かるが一旦考えるのをやめ、動じること無く当然のように触れる。

 すると、これまで感じたことのない、体から何かが抜ける感覚がした。今まで気付かなかったが意識してみると、僅かに体の奥底で何かが流れていると分かる。もしやこれが魔力か?


「青色なので大丈夫ですね」


 見ると、先程まで透明だった水晶が今は青く光っている。次第に光は弱まっていき、元の透明な水晶へと戻った。

 大丈夫と言うことは、俺とサクラは問題ないということか。これで一先ず安心――。


「後は身分証明になるものはありますか?」

「身分証明ですか?」


 ――身分証明? 俺はまだ免許を持ってないし、学生証も家に……って、この世界でそんなものが通用するとは思えない。


「はい。この街の住民であったり、拠点にしていると証明できるものがあれば」

「え~と、持ってないですね」

「それならば、街に入るのに銅貨一枚を徴収させてもらいます」

「え?」


 銅貨?


「そう言えば田舎から出てこられたんでしたね。この様な大きな街の場合、入場料として貨幣を徴収する事があります。まぁ大した額は要求されないので……って、もしかして」


 なるべくポーカーフェイスを貫いていたが、流石に動揺が顔に出ただろうか。いや、今まで街に入る何人もの人を見てきた守衛の目利きもあっただろう。というかサクラ。全然喋らないから気付かなかったが、お前が一番動揺して顔に出ているじゃないか……。


「え~とですね……」


 落ち着け俺。今この状況、相手から俺はどんな人間に見える?

 ショルダーバッグを肩にかけ、武器も防具も身に付けていない軽装備。銅貨一枚すら払えず身分も分からない田舎者。けれど珍しい妖精を連れている。

 なるほど。この身分も分からない目立ったやつは一体、お金も持たず街に何をしに来たんだ?


「……ちょっとこっちに来てもらおうか」


 あ、終わったかもしれない。

 少し恐ろしさを感じる笑顔で、俺は守衛の人に腕を捕まれた。


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