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未知なる世界の歩み方  作者: 月見幻
2/6

未知なる世界

 初めの数話ぐらいは早めに投稿するスタイル。

「ふぁーあ。よく寝た」


 思ったより疲れていたのか、大分グッスリ寝てしまった。でも運転士さんには起こされなかったな。

 半目のまま記憶を頼りにズボンのポケットを探ると、スマートフォンを取り出す。電源ボタンを押して現在の時刻を確かめようとするが。


「何だこれ?」


 そこに表示されたのは記号の羅列。目を擦ってからもう一度確認するが、やはり意味不明な記号が並んで文字化けしている。

 あれ? そう言えば、揺れないし音が聞こえないけど、電車が動いていない?

 寝る前まで射し込んでいた日差しや電車の揺れが無くなっていることに気付き、窓から外の景色を確認しようとしたが――。


「は?」


 ――暗い。いや、暗いで済むのだろうか。

 電車の中は電気がつき、明るく照らされているにも関わらず外の景色は一切見えない。それは最早、暗いと言うより闇と言った方が正しいだろう。

 膝に乗せていたショルダーバッグを肩にかけ、慌てて運転士さんがいる運転席まで行くが、そこには誰もいない。俺以外の乗客もおらず、完全に一人だ。


「どうなっているんだ……」


 現状が分からず立ち尽くしていると、突然すぐ横のドアが開いた。

 その事に少し驚きつつ、恐る恐る外を見てみる。

 外は変わらず闇が広がっていて、足を踏み出そうにも地面が見えない。本当に足場など無く、一度落ちたら永遠に落ちるのではと思うほどに。


「外に出るべきか出ないべきか……。いや、足だけを伸ばして地面があるか確認するか?」


 外にでなければ何も分からないが、その外が本当にあるのかすら分からない。ここは慎重に行動しなければ――。

 と、思っていた。思っていたのだが、いきなり背中を押された。それも開いたドア、闇の方へ。正確に言えば、肩にかけていたショルダーバッグが引っ張られたのだが、そんな違いなどこの時はどうでもよかった。

 もう地面があると信じて足を踏み出すしかない。


 ――ポチャン。


 固い地面を踏むのは思ったよりも早かった。

 だが踏んだ瞬間、水滴が水に落ちるような音がし、そこから闇だった場所に緑色の波紋が幾重にも広がる。

 足が着いたことに安心し、暫くその波紋の様子を見ていると突然。


 ――サアアアァァァ!


 強い風が吹き、草や葉が擦れ合う様な音と緑の独特な香りがした。そして風と共に、俺の立つ場所を中心として闇が色づけられていく。

 まるで真っ黒に塗りたくられたキャンバスに、繊細で色鮮やかな世界が描かれるようにして。草の生い茂った地面が、青く白い雲が浮かんだ大空が広がっていく。

 そして遂に闇がなくなったとき、俺は見知らぬ緑豊かな平地の上に立っていることを認識した。

 ふと後ろを見ると、電車のドアから出たのにも関わらず、あるのは大木。しかも根元から折れて倒れており、幹には大きな穴が開いていた。


「タクヤ?」


 その何とも言えない神秘的な雰囲気を感じていると、突然名前を呼ばれて反射的に振り向く。

 女の子の様なその声の発生源を見て、俺は言葉を失った。

 そこにはおとぎ話で見たことがあるような、二対の羽が生えた可愛らしい妖精が飛んでいたからだ。大きさは大体手のひら程。髪には何処か見覚えのある、青い花の髪飾りを着けている。


「……確かに俺は拓哉だが」

「本当にタクヤだ!」


 よっぽど会えて嬉しいのか、満面の笑みになった妖精はクルクルと俺の周りを回り出す。

 当然のことだが、俺はこの妖精を見るのは初めてだ。


「初対面のはずだよね? 何で俺の事を知っているの?」

「そう言えば、タクヤはこの姿の私を知らないか」


 その妖精は俺の前で止まると、口元に手を当てながら考える仕草をしながらそう言う。

 この姿の私? そう言えばあの髪飾り、俺のバッグに着いているのとそっくりだな。そんな事を考えていると、その妖精は自己紹介を始めた。


「私の名前はサクラ。タクヤのバッグに宿った妖精よ」

「俺のバッグに?」

「ええ。私みたいな妖精は、大切にされて心優しい人の物に宿るの。だから私はバッグの妖精みたいな感じかしら」


 エッヘンと胸を張るサクラ。

 そんなに自慢気言われても……いや、それより。


「取り敢えずサクラの事は分かった。それで、ここは何処なんだ? サクラが俺をここに連れてきたのか?」


 つい数分前の電車内にいた事を思い出す。

 あの時は他の乗客もおらず、俺一人だった。それでもバッグが引っ張られ、この場所に来てサクラが現れたなら、連れてこられたとしか考えられない。


「それは……私にも詳しいことは分からないの。一つ確かなのは地球じゃないってことぐらいかな。地球にタクヤがいる時に、私はバッグに宿ったわ。でもタクヤに気付いて貰えないし、会話も出来ないし。何とかならないかって思っていたら、今回のことが起きたの」

「そっか」

「でも、私は会えて嬉しいけど、タクヤはこんなよく分からない事ばかりで嬉しくないよね。それに原因は絶対私にあるだろうし……。あっ、お願いだから私を捨てないで! タクヤのためなら何でもするから!」


 サクラの表情は先程までの笑顔から一変し、落ち込んでしまった。更に捨てられると思ったのか、今度は泣き顔になり必死に訴えてくる。


「捨てたりなんかしないよ。確かに信じられない出来事が続いているけど、サクラが原因とは限らないだろ? 取り敢えずここが何処か分かる街でも探そう。それで地球に帰る方法があるかどうかもね」


 丘から見える、街道の様な整備された道を見ながら俺は言った。

 街道があるならば、少なくとも知性がある生き物がいるということだろう。それが果たして人間かは分からない。サクラがこの世界では存在できるように、今まで見たことがない生物も沢山いるかも知れないのだ。

 だが、考えていても始まらない。今は現状を受け止め、行動するのみ。


「ありがとうタクヤ。大好き」


 サクラは俺の肩に乗ると、小さな唇で頬にキスをしてきた。けれど、特に何かを感じることはない。サクラが妖精だからというのもあるが、一番の理由は俺自身、心の何処かで混乱しているからだろう。


「取り敢えず、あの街道まで行こうか」

「そうね」


 少し頬を染めたサクラは、それをごまかすようにして街道へと先に飛び立つ。俺も追いかけるようにして歩き始めた。


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