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明日のためのファンタジー  作者: みちかまり
3/3

後編



 10.


 たんぽぽ市での暮らしは穏やかに過ぎていく。

 リサは夏の海へも出かけ、ご近所の花火大会や盆踊りも楽しんだ。


 ラスアラスからの手紙は毎日届く。

 リサは帰宅すると、それを読む。

 内容は他愛もない物語で、彼女の宝物は増えていった。



 11.


 晩秋、ある日のこと。


 ポストに手紙はなく、玄関のドアノブに紙袋が下がっていた。中には手紙と本が一冊。

 ラスアラスの新刊だ。

 手紙には『本が一冊できました。 おわり』と。

 リサは読み終えた手紙を丁寧に封筒へ戻し、専用の箱へ。

 届けられる手紙は総数200通をこえている。

 続けて新刊を読むリサは、夕餉の支度も忘れていた。


 小説の内容は、とある蛍の不思議な旅だった。


 読了した彼女は深いため息をつく。もう真夜中になっていた。

 窓から星を見る。そうして、新刊と手紙の箱へ目を移す。側にはヘイゼルが眠っている。

 自分の手を見つめる。夜明けまで時間はたっぷりある。

 なにかもどかしくなった。リサは本棚の前に立つ。

 『はじめての楽しい手芸』の本を取り出し、ページをめくる。


 自然と笑顔になっていた。



 12.


 リサは編み物をはじめた。昔できなかったことを、やることにした。マフラーやショールを編みあげるうちに、眠れない夜は楽しみの時間へと変わっていった。


 またある日のこと。

 リサは家の庭が殺風景だと感じた。園芸店でチューリップの球根を買い、花壇へ埋めた。

「これは何?」

「わからん。リサに任せておけばおもしろいはずだ」

 スカーレットの質問へのんきに答えるヘイゼル。


 リサはレースを編みながらネズミのポシェットを見つめる。

「こんなに小さなものをどうやって作ったのかしら」

「きっと、わたしのママがリサみたいに編んでくれたのよ」

スカーレットはネズミの言葉でリサへ話し、糸玉へじゃれつく。

「わたしも作りたーい!」

「何かしたいの?」

 ジャンプするネズミにリサは手を叩く。 


「いいことを思いついた」



 13.


 翌日、リサはネズミへ水彩画セットを買ってきた。

「童話のオハラはこうやって、スカーレットという妖精へクリスマスカードを描いたの」

 お手本に色を塗ってみせるリサ。

 ネズミは理解した。

 自らがパレットの中に入り、全身の毛に色とりどりの絵の具をつけ、画用紙の上を踊りだす。

 そのひょうきんな姿にリサが笑うと、気を良くしたオハラは彼女へ飛びついた。

「儂も!」

 大型犬がパレットに前足を置くと絵の具をこそぎ取り、これまたリサへ飛びつく。

「きゃー!」

 慌てふためく主に興奮したカラフルな2匹は、部屋の中を転げ回った。

 猫は呆れてかくれんぼ。

 リサやカーテンに床や壁は、それはそれは彩り豊かになりましたとさ。



14.


『その絵がこれです』

 ラスアラスが出版社から受け取った手紙には、よれた水彩画が1枚同封されていた。

 リサの便りには、新生活で得られた嬉しいことがたくさん。ラスアラスの手紙で変わることができたこと、そのお礼や新刊の感想が丁寧に書かれてあった。


 小説家は、返事を出した。



15.


 リサに届いたのは、少し早いクリスマスカードだった。

 そこには『自分の役目は果たしたと感じる。あなたへの手紙は終わりにしたい』とあった。

 彼女は椅子に座り込み、肩を落とす。

 覚悟はしていた。でも。

 犬と猫とネズミが寄ってきたので、リサはみんなを見つめ返す。

「へこんでちゃ、なんのために元気になったか、わからないよね」


 だから、みんなは笑顔で冬を越した。



16.


 また、春がきた。

 4月、花壇にチューリップが咲いた。

 リサはうれしくてばんざいをした。

 ヘイゼルは庭を駆け回り、ミルマは日向ぼっこに勤しむ。

 スカーレットは編み物を覚え、3歳の誕生日を素敵に過ごした。



17.


 日々は過ぎ、5月。

 蛍祭りの夜。


 リサは去年と同じワンピースを着て、スカーレットを胸ポケットに。ヘイゼルを連れ、祭りの会場へ向かった。

 賑やかな人混みを、すいすい進む。


 焼き鳥屋の前に、あの男がいた。「やあ、こんばんは」

「こんばんは。去年はきちんとお礼を言えなかったので」

「なんでしたっけ」

「この子のことです」

「うん。久しぶりヘイゼル。オハラもね」

「あれで、お祭りやここが好きになれました」

「そっか」

「申し遅れました。私はリサといいます。先日は本当にありがとうございました」

「はい」微笑む彼。

「俺の名前は――」




(了)

拝読くださり、ありがとうございました。

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