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明日のためのファンタジー  作者: みちかまり
1/3

前編

明日のために。

  1.


「おなかすいたなぁ」

 小ネズミのスカーレットは、赤いポシェットから取り出した最後のクラッカーをかじる。

 彼女は明日で2才の誕生日を迎える。

 巣立ちした他の12匹のきょうだいたちとは別れ、みんなはそれぞれに好きな場所で生きている。

 もちろん、スカーレットも。


 しかし棲む家の人間が、消えてしまったのだ。

 古い木造家屋内はしんとし、床には埃がうっすら。


 ネズミのおなかがくぅ、と鳴る。


 食べ物がない。かといって、庭ではカラスの鳴き声がする。外は恐ろしい。

 スカーレットはひっそりと眠った。




  2.


 翌日、春の陽気が心地よい中。

 幌付きトラックが1台、スカーレットの家にやってきた。


「ヘイゼル、着いたわよ」

 そう言われ荷台から降りた一頭のレトリーバーが、庭の草木を嗅ぎまわる。年老いた白い尾が揺れる。

 物音に気がついたスカーレットは新しい住人を偵察しようとし、毛を逆立てた。

 玄関に猫がいる!人間の女性が抱いている。

 しかも、そのペルシャ猫は既にスカーレットを見つけていた。

 小ネズミは震え上がる。

「父っつぁん!」

「どうした、ミルマ?」

 呼び声に、とんで来た犬。

 猫は既に、人間の腕を離れスカーレットを咥え込んでいた。小ネズミは気絶している。

「いいものさ」

 ミルマはにっこりした。


 バスケットの中で、スカーレットは気がついた。

「おはよう、ネズミちゃん」

「猫。わ。わたしを、食べ」縮み上がるスカーレット。

「食って欲しいのかい?」ミルマが笑う。

「まあまあ」

 ヘイゼルが2匹の間に入る。

「ネズ子ちゃんよ。ここら辺に詳しいかの?」

 人間には動物たちの会話はわかっていない。女性は不思議そうに3匹を眺めている。

「少しなら」

「そうかい。じゃあ、いいね。ミルマ」

 猫が言う。「ネズミ。お前はリサのともだちになれ」

「ともだち?」

「そ。リサはこの町でともだちをたくさん作るとアタシに言った。だから、なれ」

「ともだちになるかは、わたしにも決める権利があるわ」

「お前が餌になるかを決める権利はアタシにあるんだよ」

「ミルマ、あなたとはともだちになれないわね」

 スカーレットが猫を睨み返す。ヘイゼルが吹きだしたので、ミルマはフン!鼻を鳴らす。

「儂はヘイゼル。よろしくお嬢ちゃん。この子はリサ、儂等の主だ」

 犬はネズミを頭上に置き、女性へ向いた。


「なるほど。ネズミちゃんは仲間なのね?」

 犬は〈正解〉と尾を振った。



  3.


 ラスアラスという小説家が一通の手紙を受け取ったのは、まだ初雪が降る季節だった。


「私は毎日、物語をひとつ読まないと死んでしまうんです」

 リサという、見知らぬ者の打ち明け話。

 よくある内容だと、彼は思った。そうして、窓から曇り空を眺める。

 さて。

 どこから来たのか、青い蝶が1匹ひらひらと舞っている。彼の周りを、ひらひらと。

 さて。


 ラスアラスはリサへ、返事を書いた。




  4.


 小説家へ手紙を出した後、新しい生活を始めた4月。

 リサは1匹のネズミに出会った。


 ネズミの名前はすぐに決まる。

「オハラよ」

 彼女は『ラスアラスのおとぼけ童話集』を開く。

「おはなし『13月のネズミ』の子がね、赤いポシェットをしているの」

 ネズミは彼女からもらったヒマワリの種をかじる。


〈オハラ〉という名も、いいかもね。

 スカーレットはリサの指にキスをした。




  (つづく)


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