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ワーキングマザーは田舎でどう戦ったか。
ガツン、という音とともに、ヒールの先が折れた。
同時に心も折れた。
住んでいた都心からは、たったの1時間。
なのに、この駅はなんだ?
ホームは、ヒールが折れるほどがたがた、そもそも、人が、いない。
「おばーちゃーん!」
傍らの娘と息子が叫ぶ。
ホームから駅前の道路が丸見えってなにごとだ?
でも、かろうじて、母の、この駅前にはまるでそぐわない美しい姿と、母のボルボに平常心を取り戻す。
数年の間にすっかり忘れていたが、ここは、私の故郷の駅だ。
この、閑散とした駅前。スーパーが一つ、変な商店が一つ、不動産やが一つ、の駅前からゆるやかに丘をのぼったところにある実家。電車で来ることなんてあまりなかったから、駅を使うのなんて結婚する前までの数十年前だ。
その頃から、変わらない駅・・・。
しかし、今日からは、ここで生活しなければならないのだ。




