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インターホンが鳴ったのは、朝食を食べてゆっくり本を読んでいた時だった。
「おはようございます。complete宅配の八日囿と申します。先日インターネットで資料請求をして頂きありがとうございます。本日は資料請求と一緒に無料お試しセットをお渡ししています。よろしければお受け取りください」
いつもなら必要な時以外は居留守を決め込んでいるのだが、無料お試しセットという誘惑に負けてしまい、ドアを開けてしまった。
昨日請求して、今日来るのはかなり早かったから少し嬉しくなってしまった。
「はい」
同じくらいの年齢の女性だった。
髪は肩ぐらいまで伸ばしていて、茶色に染まっていた。
「先日はありがとうございます。八日囿と申します。こちらが資料とお試しセットになります」
それなりに大きい袋には、資料と食材の卵、牛乳、豚肉、豆腐、野菜等が数種類入っていた。
「ありがとうございます」
「美味しいので今日のお昼にでもお召し上がり下さい。宅配のシステムについてなにか気になることはありますか?」
昨日色々と調べていたから、聞きたいことは考えてあった。
「配達は週に何回ですか?」
「こちらのマンションでは、週に2回お伺いしています。1回の配達でも大丈夫ですが、冷蔵庫の大きさによっては、まとめてお届けしてしまうと、入りきらなくなる可能性もあるので、お客様の都合の良い回数にするのが良いと思います」
週に2回来てくれるのは、正直とても助かるものだった。
外食がほとんどだったから、冷蔵庫は小さい物を買っていたからだ。
まとめて注文することになると、冷蔵庫に入らないだろう。
「商品はお届けの2日前までに、インターネットのサイトで注文する形になります。食材をあまり使わなかった時は、お休みするということも出来るので、余らせて食材を無駄にすることを防ぐことが出来ます」
「お休みする時はどうすればいいですか?」
「インターネットの注文をしなければそのままお休みなります」
「代金の支払いはどうすればいいですか?」
「毎月お届けの最終日にまとめてお支払いするような形になります。直接お渡しされても、銀行引き落としのどちらでも構いません」
「もしいなかった時、商品の受け渡しはどうなるんですか?」
「ご不在の場合は、玄関前に保冷剤と一緒に商品を置いておくようになります」
少し盗難の心配もあるが、ここのマンションに住んでいる人達でも利用している人がいるから、きっと大丈夫だろう。
「もし良かったらやってみませんか?」
少し悩んだがやらない理由が特に見つからなかったから、やることにした。
「はい、やってみます」
そう答えると、八日囿さんはすごく笑顔になった。
「ありがとうございます!今日契約してくれた方には追加のサービス品をお渡ししてるので、少し待ってくれませんか?車に取りに行きますので。こちらが契約書になりますので、分かる範囲で書いておいてください」
そう言って契約書とボールペンを渡して、車に走っていった。
契約書を書き終えた時に、八日囿さんは息を切らせながら戻ってきた。
「お待たせしました。こちらがサービス品です。」
袋の中には、ビールの6本セットが入っていた。
ちょうどお酒を切らしそうだったから丁度良かった。
「すみません。お酒って飲めますか?」
心配そうに聞いてきた。
「好きなので大丈夫です」
「そうですか。それなら良かったです。私もお酒好きなんですよ」
お酒を飲みそうな顔には見えなかったから、少し驚いた。
「契約書は書けました?」
「書ける場所は書きました」
「ありがとうございます」
手渡すと八日囿さんは、真面目な顔つきで契約書をしばらく見た。
「はい、大丈夫そうです。お支払いはどうしますか?」
「現金でお願いします」
銀行の引き落としは別の用紙を書かないといけないから面倒だった。
「分かりました。いつから配達開始しますか?」
「なるべく早くがいいです」
「それなら、3日後の配達からでいいですか?」
「はい」
「分かりました。事務所に戻ったらすぐに手続きしますね。注文方法は資料にも書いてありますが説明したほうがいいですか?」
「説明は大丈夫です」
「それでは、3日後の配達の時にまたよろしくお願いします。配達の時間は大体10時頃になりますが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「分かりました。配達の担当は私になりますので、これからよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。」
そう言って、笑顔で八日囿さんは立ち去って行った。
昼食は貰ったお試しセットを使って、キムチ鍋を作った。
貰ったビールも一緒に飲みながら食べた。
豚肉と豆腐は普段スーパーで買って食べている、安い物より美味しかった。
価格はそれなりにするが、美味しい物を食べると元気になれる。
美味しい食事は生きるために必要な活力と喜びを与えてくれるって誰かが言っていたけど、この豚肉と豆腐を食べて本当にそう思った。
ただ、お腹を満たすだけなら安い食材を買って安く仕上げることは可能だけど、食べる物には妥協しない方がいいのかなって心から思えた。
使いすぎて舌が肥えたらあまりよくないけど、少しくらいは贅沢するのは全然良いことだと思う。
人によって価値観は違うけど、大半の人はきっと食べることが大好きだ。
食費は高すぎてもよくないけど、切り詰めて体調を崩したり、将来病気になってしまう可能性を上げてしまうのは本末転倒だ。
多少お金を掛けてでも、栄養のある物をしっかり摂るべきだ。
お酒を飲んで少し酔いながら頭の中でそんなことを考える。
complete宅配について調べてみると、かなり便利なサービスだと分かった。
注文出来る物は生鮮食品の他にも日用品、消耗品の類も取り扱っていることが分かった。
お酒も品揃えがあって、ここで頼んでいれば生活は問題無いくらいかもしれない。
なにを注文するか色々と悩んでいると、あっという間1日が過ぎてしまった。




