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エピソードFINAL

 エピソードFINAL 新たな旅立ち


 僕たちは天空都市の広場に浮いているスカイ・シップの甲板にいた。

 ゼラムナートを倒し、サンクナートが天空都市の支配者の座に返り咲いたことで、天空都市での危険はなくなったのだ。

 だからこそ、スカイ・シップも堂々と、広場に下りることができた。

 そんなスカイ・シップの周りにはたくさんの天空都市に住む人たちがいた。みんな僕たちを見て、友好的な笑みを浮かべている。

 口にこそ出さないが、彼らもゼラムナートの支配には不満を持っていたのかもしれない。だからこそ、帰ってきたサンクナートを、諸手を挙げて歓迎した。

 そして、そんな群衆の頭上には、体長が十メートルはある六枚の羽が生えた蛇が、優美に浮かんでいる。

 そのゼラムナートと瓜二つの黄金色の蛇は紛れもなく、真の姿を見せることにしたサンクナートだった。

 こうやって見ると、サンクナートもやっぱり偉大な存在だったんだなと思う。その神々しさに平伏しているような人たちもいるからな。

 僕はスカイ・シップの傍にいたルーミィと別れの言葉を交わす。


「もう、行っちゃうんだね、お兄ちゃん」


 ルーミィは今にも泣きそうな顔をしていた。


「うん。でも、また必ず会いに来るよ。このスカイ・シップさえあればいつでも天空都市に来ることができるし」


 僕は甲板から身を乗り出して、ルーミィの頭を優しく撫でた。すると、ルーミィもくすぐったそうな顔をする。

 ま、ゼラムナートがいなくなった今なら、いつ天空都市に来ても問題はないはずだ。


「そうだね。なら、今度、お兄ちゃんが来た時はもっと美味しい料理をご馳走してあげるから、楽しみにしてて」


 ルーミィは本当に可愛らしく笑うと、付け加えるように言葉を続ける。


「あと、お母さんにも私が元気に暮らしていることをちゃんと伝えてね。できれば、お父さんにも」


 僕も今なら、父さんに家に帰ってきて欲しいと思える。


「分かったよ」


 僕がどこか郷愁を感じさせるように笑うと、今度はサンクナートが大きな口を開く。


「おいらも、いずれは地上と天空都市を自由に行き来できるようにするつもりだ。時間は掛かるだろうが、交流が始まれば自然と融和は図れるはずだからな」


 サンクナートは神としての威厳を確かに備えた声で言葉を続ける。


「どのみちこのままでは、リバイン人も天空都市の中だけでは生きていけなくなるし、そうなれば、地上の人間にも世話になることだろう」


 サンクナートが四つの目を太陽に向けると、その口が弧を描く。


「今なら、共存もできると信じている」


 それは何とも力強い言葉だったし、僕もサンクナートの掲げる理想が実現する日を楽しみにしている。

 それから、レイナードが群衆の中から一歩、前に出て僕に声をかける。


「私も大賢人として天空都市でやらなければならないことを見つける。与えられた永遠にも等しい時間はここに住む人々のために使いたいからな」


 レイナードは別れの時だというのに無表情で言った。


「それで、もし、君たちが私の力を必要とするようなことがあったら、いつでも言ってくれ。大賢人の称号にかけて、全力で力になろう」


 そう言って、レイナードはやっと人間味のある表情を浮かべた。


「ありがとうございます。どれだけの時が経とうと、僕もあなたのことは、ずっと仲間だと思い続けますよ」


 僕がそう言うと、レイナードは「ありがとう」と言って穏やかに笑った。それから、バード博士が舵を握りながら声を上げる。


「風も強くなってきたし、そろそろ行くぞ。なーに、そんな悲しそうな顔をせんでも、この私さえいれば天空都市にはいつでも来れる」


 スカイ・シップはバード博士のものだからな。この船に乗っている時は船長にも等しい博士の言葉に従わないと。


「さようなら、みんな」


 僕がそう言うと、船がゆっくりと浮上し始めた。僕たちを見送っていた広場にいた人たちも手を振っている。

 サンクナートも大きな顔になったというのに、まるで子猫のようにあどけなく笑っていた。

 僕はこれが今生の別れでもないというのに目に涙を浮かべながら、小さくなっていく天空都市を見詰める。

 そして、船が完全に天空都市を離れて、青空に出ると僕は放心したような顔をした。


「さてと、俺も地上に戻ったら国に帰るかな。名声なんてなくても、今の俺の顔を見たら、親父も俺が国にいることを許してくれるだろう」


 ロッシュはボリボリと頭の後ろを掻きながら言った。


「あたしはやっぱり騎士を目指すわ。今のところ、これと言った目標はないし」


 セレスは凛とした顔をすると、言葉を続ける。


「それに天空都市との交流が始まるようなら王都も騒がしくなるだろうし、やっぱり王都の平和はこの手で守りたいじゃない」


 セレスならそれができると僕も信じている。


「私は王宮に戻って、お父様としっかりと話し合います。その上で、自分の進むべき道を決めたいですし」


 ミリィも自分の立場から逃げるつもりはないようだな。


「まあ、教師なんて私にはピッタリの職業じゃないかなと思ってるんですけど」


 僕もミリィが教師になるのは賛成だ。


「それで、フィルはどうするんだ?その気になれば、お前は世界を救った英雄として祭り上げられるぞ」


 ロッシュはニヤニヤしながら僕の肩を叩いた。


「それは、嫌かな。自分の功績をひけらかすつもりはないし、僕も肩身の狭い思いはせずに冒険者を続けたいから」


 しがらみがついて回る名声なんて、進んで求めるもんじゃないと思いながら言った。


「そっか。それはまた欲のないことを言ってくれるな。ま、そういうところも、お前らしいが」


 そう言って、ロッシュはやれやれと肩を竦めた。


「何にせよ、迷宮だって完全に制覇したいし、それをやり遂げたら世界中を旅して回りたいとも思ってるから、当分は退屈するようなこともなさそうだよ」


 僕も新しい夢は大きく持ちたいと思っていた。そして、それとは別に、ルーミィのためにも、父さんは必ず探し出すと決めている。

 それに最後に現れたあの蛇の言ったことも気になる。

 確かに大洪水は起こらずにすんだが、いつの日かそれに代わる危機的な何かが起こるような予感がするのだ。

 なので、もし叶うなら、リバインニウムと繋がったという異世界にも行ってみたいと考えていた。

 そうすれば世界の真実にまた一歩、近づけるかもしれない。


「でも、地上に下りれば俺たちはいなくなるんだぞ。しかも、簡単には会えなくなるし、一人でやっていけるのか?」


 ロッシュは慮るように言った。


「だったら、また新しい仲間を探すさ」


 ロッシュたちに負けない仲間を見つけて、今度はもっと凄い冒険をしてやる。


「そうね。でも、あたしたちはパーティーを解散してもずっと友達よ。それだけは忘れないでよね」


 セレスはウインクしながら言った。


「ええ。私もフィルのことは決して忘れませんし、生きてさえいれば、また会えるような機会も巡ってくることでしょう」


 ミリィの言う通りなら、次に会う時は冒険者として逞しくなった自分を見せたいな。


「その日が来ることを私も楽しみにしています」


 ミリィは眩しく見えるような表情を浮かべた。


「それはあたしも同じよ。今回の冒険で得た経験を無駄にしないためにも、次に会う時はお互いに立派に成長した姿を見せたいわね」


 セレスもいつになく良い顔をして笑った。


「そういうことなら、俺の国にも必ず来てくれよな、フィル。その時は、国を挙げた盛大な歓迎会をしてやるから」


 そう言って、ロッシュも朗々と笑いながら、おどけたようなポーズを取る。


「うん」


 僕はこそばゆいものを感じながら返事をする。それから、不意に見上げた空は、どこまでも高く澄み渡っていた。

 太陽も、まるで僕たちの未来を祝福するように輝いていたし。

 とにかく、こうして世界を救った僕たちは、今度はそれぞれの夢を叶えるべく、自分の人生を歩き始めたのだった。



 (FIN)


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