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滅亡の胎動 6

一同の姿はグランフェルデンの大神殿にあった。いや、正確に言えばその場所にいるのは3人だけだった。ソーンダイクからの依頼を受けたリュネット、ダレン、アルトである。

「おおキミ達、よくぞ戻った。それで調査の方はどうだったかな」

3人は調査報告代わりに今回の冒険のあらましを語った。暗黒魔術師の最期の言葉は、ソーンダイクの顔色を悪くさせるのに十分な内容だった。気分を悪くしたソーンダイクだったが、調査を無事に完了させた冒険者への労いの言葉と報酬は忘れない。受付にて報酬を受け取るように話す。そして今回の調査を踏まえ後日、また改めて黒衣の集団についての新たなる指令を伝えると言った。

「それで、ソーンダイクさん」

受付に足を進めようとする2人を置いて、ダレンはソーンダイクに話す。

「実はここにはいない協力者が2人いてね。俺らの分を差し引いても構わないから、その2人にも報酬をわけられるようにしてくれないか」

「あい分かった。フェゼント村の少女とエルダナーンの青年の事だな。受付にその旨伝えてくれたまえ。ソーンダイクからの了解を得ていると言えばその分の報酬は出せるだろう」

ニコリと笑顔を見せたソーンダイクは、そう言うと踵を返し、奥の居室に向かって行ったのだった。


グランフェルデンの朝焼けの空はいつしかの夕焼けの空に似て、乳白色を帯びた雲が積乱雲のように幾重にも連なり、世界を覆い尽くしている。風はあの時のような乾いた空気ではなく、西のトワド内海からの海風が吹き、この地域特有の湿気をはらんでいた。

「悪かったわね、何か騙すような事になってしまって」

リュネットはセスチナを慮ってか、声を掛けた。しかしその言葉に首を振って答える。

「ううん…良いの。それよりあなた方に協力はしたけれど、依頼を直接受けた訳ではないので、この報酬は受け取れないわ」

「…うん。それで、これからどうするつもりなの?」

「そうね、行方が分からなくなってしまったけれど、わたしはわたし自身のために、自らの手で炎の巨鳥(フェニックス)を倒す、その旅に出るわ」

炎の巨鳥を倒す。その言葉を発した直後に銀髪の少女(セスチナ)の表情がこわばる。戦士としての顔がそこにはあった。

「オイオイそんな怖い顔したら綺麗な顔が台無しだぞ。ウホン…ま、これも何かの縁だセスチナ。キミの炎の巨鳥(フェニックス)退治、このナルシ様もお手伝いしよう!」

「…ありがとう、ナルシ…」

「それで…だ、ダレン。キミが持っている今回の報酬については、俺たちの必要経費、路銀としてありがたく頂戴しておこう」

ソーンダイクから受け取った2人分の報酬袋を、ナルシはヒョイとかすめる様に取って見せる。その様子に一同から小さな笑い声が漏れた。

かすめ取られた事に特に怒る素振りもなく、ダレンはセスチナに向き直る。

「俺たちはソーンダイクの指示の下、先の黒衣の集団の新たなる影を調査する事になるようだ。アルトも俺たちに追従する事を約束してくれたしな」

口数の少ない「ヲタク」魔術師は、ダレンの言葉に小さく頷いてみせる。

「そんな訳でセスチナ、また縁があったら、その時はまた一緒に冒険しましょ」

「ええ、ありがとうリュネット。その時は一緒に…」

空を覆う乳白色は刻一刻と薄くなっていき、新しい朝の到来を窺わせた。時折流れる風が、セスチナの右肩に付けられた数枚の(キジ)の羽根飾りをパタパタと突き動かし、その時が来た事を皆に告げているようにも見えた。

「その羽根、どうしたの?」

不思議に思ったリュネットは最後にこの事を聞く事にした。右肩に付けられた羽根飾りは暗黒魔術師退治の後、グランフェルデンへの帰路の途中にセスチナが自ら付けたものだった。動物の毛や皮を鎧に付けるのはそれほど珍しい事ではなかったが、雉の羽根というのはあまり見たことがなかった。

「フェゼントって名前の由来、あれって(キジ)の事なの。私が村に来るずっとずっと前、あの近くは雉が沢山いたんだって。それで村から旅に出る時や、婚姻で村から離れる時など、村人はその人に雉の羽根を渡したの。今回はそれに倣ってみたの…」

セスチナは喋りながら涙している自分に気が付いた。けれど今は涙している時ではない。下を向いている時ではない。立ち止まっている時ではない。そう思いながら前を向くと、そこには笑顔で立つ仲間がいた。


銀髪の少女は皆に手を振りながら、小さくお辞儀をしながら、朝焼けが広がる町から旅立った。その後を小走りに駆けて行く妖精族(エルダナーン)の美青年と共に。

雉の翼は今まさに大空に向かって羽ばたかんとしている。

それは新たな門出であり、出立の時だった。


彼らの冒険は、これから始まるのだ。



第1話 滅亡の胎動 ~終~

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