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滅亡の胎動 4

夜。月明りだけが燦然と輝く森に5人の冒険者の姿があった。戦士(ウォーリア)魔術師(メイジ)、それに神官(アコライト)など、一部には闇夜の追跡に合わないものもいるが、5人は真剣な様子でその時を待った。暗い森の中、風が奇妙な声を上げて通り抜け、夜目をギラギラと輝かせた小動物たちが、その奇異な客人を出迎えるようにコソコソと周囲を動き回る。

その時だった。明らかに漆黒過ぎる装束をまとった数人の者達が、ほとんどしない足音と共に森の奥へと足早に進んでいく。隊の先頭にいた猫族の青年(ダレン)は、その不穏な様子を嗅ぎ取ると、後ろの仲間たちに手信号で追跡する旨を伝える。そうして5人の冒険者は、良い噂一つ聞かない暗い森の中に足を進めるのだった。


どれほど進んだのだろうか。時間の感覚が薄れ、方角の感覚も薄れ始めた時、黒装束の者達が急に静止した。そこは開けた場所だった。月明りが木々の隙間から漏れ、まだら模様のように地面を照らしている。とその時、5人の眼前から突如として黒装束の男達の姿が消えた。それは高位神官が操る、転移魔法(テレポート)のそれのように黒装束の者達は霧散した。罠であることも考え、用心しながらその空間に出てみるが、やはり一切の気配が消え失せた。文字通り無くなったのだった。

「ここが聴いた石版の場所なのかな、リュネット」

石版という話はセスチナには知らされていなかった。2人には今回の指令について、セスチナの知らない情報を得ているようだった。その事について些細な事のように感じながらも、立場というものについて逡巡せざるを得なかった。しかし今はそんな信頼関係に疑念を抱いている時期ではない。目の前の敵に集中しなければ。セスチナは腰に佩いた自らの剣を見つめながら、自らの意識を改めて研ぎ澄ますのだった。

「これ…かな…」

声を発したダレンの姿は、月光に照らされた不思議な大岩の前にあった。その大岩の表面には見慣れぬ文字が彫り刻まれている。ダレンはその大岩に手をついて、呪文じみた言葉を発する。



闇ノ炎ハ全テヲ欲ス。求メヨ、サラバ与エラレン



何を言ったのか、セスチナには瞬時には理解できなかった。がしかし、ダレンの発した呪文(スペル)は、その彫り込まれた文字を光り輝かせ、そして周囲に地鳴りをひき起す。と時を同じくして、黒装束の者達が消えた場所に忽然と地下への階段が出現したのだった。


その階段、いや回廊は異様な雰囲気だった。狭い道の両脇を埋め尽くす数多の蝋燭が立てられ、獣の骸骨、その頭部がオブジェのように置かれ、その空間の禍々しさを引き立たせている。1歩、そしてまた1歩進むごとに煉獄への道を進んでいるのではと感じられるほど、不気味な石段が続いていた。その後、階段を降りきると、そこは広い空間になっていた。眼前には大仰な門がドカリと腰を下ろし、5人の冒険者を待ち構えるが如く鎮座している。5人はその異様な大門を通り抜け、奥の部屋に進む。と、そこは先の黒装束がひしめく、明らかに異様な祭壇があった。


城の広場ほどの祭壇の中央には、血のようなベトリとした赤い液体で大きな魔法陣が描かれ、その周囲には錫杖を床に打ち付けながら、後ろ暗い祈りを念じる黒装束の魔術師たちが、禁忌の呪詛を詠むが如く低い声で呪文を唱えている。誰が見ても明らかに、何か呼び出してはいけないものを降臨させる儀式の最中であるようだった。

セスチナはその光景に圧倒された。壁際に無数に並べられた蝋燭の火がゆらめき、読経のように呪詛を唱えるその場に胸糞悪い熱気が立ち込め、意識を保っていないと急に戻しそうになる。それほどに異様な場所であった。


急に錫杖のリズムと呪詛の声が止んだ。魔法陣や黒衣の集団からは、まだ多少の距離もあるが、5人の冒険者はそれぞれに身構える。しかし彼らの思惑とは裏腹に、段差をつけた祭壇に佇む暗黒魔術師の、儀式が成った事を宣言する声が部屋にこだまする。

「封印の祭壇に眠りしものよ、我らの祈りに答えよ。この世に再び邪神を甦らせ、新たな暗黒の時代を築き上げるために我らはその礎となるため、そなたの追従する手足となろう」

その言葉を聞いた直後。部屋をまばゆい光が包み込む。誰しもが目を背けざるをえない強力な光。その光が収束すると部屋の中央、魔法陣には、翼を生やした天馬(ペガサス)が姿を現していた。しかしその天馬は漆黒の体色をし、避けがたいほどの負のオーラを感じさせる。黒翼馬(ダース・ペガサス)がその姿を現すと、黒装束の魔術師たちは一斉に平伏するのだった。


「…ったく悪役ってのは、なんでそう毎回毎回、同じような手で演出しちゃうんだろうね?」

黒翼馬(ダース・ペガサス)の出現の後、最初に言葉を発したのは意外にもナルシだった。切れ長の髪を指でクルクルといじりながら、アクビをかみ殺すような仕草で呆けて見せる。その様子に平伏したままの黒装束の魔術師たちが、一斉に顔の見えない視線を向ける。黒翼馬は、悪態をつく正面にいる者に特に興味も示す様子もなく、馬らしい素振りでブルルと小さく嘶いた。

「フハハハハ…我らの後をつけてきた無謀なる冒険者どもが、こんな場所にも迷い込んでいたとはな。よもや正義が勝利する時代は、邪神の守り手である黒翼馬様が出現した今宵をもって終焉したのだ。まずは貴様らを最初に血祭りにあげ、我らが黒翼馬様の血肉としてやろう!」

「ハンッ! ヌかせこの根暗野郎! 女にモテない腹いせに世界をドス黒く染めようったって、そうはこのナルシ様が許さねぇ!」

ナルシは暗黒魔術師の言葉に啖呵を切って返すと、身を翻して敵の陣中に突っ込んでいった。

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