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滅亡の胎動 3

かけがえのない仲間を失ったものの、しかし神殿に所属する冒険者である2人は、それに気を留める時間もなく「黒衣の集団」についての情報を探り始める。

ある情報屋からは、陰の森に何やら異様な遺跡があり、夜な夜なその謎の集団がその遺跡から出入りしている、という話を聞いた。しかし炎の巨鳥(フェニックス)についての情報はフェゼント村壊滅の話ばかりで、新たな情報は得られなかった。

そんな中、寡黙な魔術師である「ヲタク」ことアルト・ガルデーニアの知人が、グランフェルデンの書物庫の管理者である事がわかり、3人は書物庫に向かった。

その書物庫には町の情報屋レベルでは知りえない、各国や地方の情報も日々交信していて、あらゆる情報が手に入るとの事だった。一同は早速、炎の巨鳥に関する話を聞く。するとその管理者は「住処と思しき、ルディオン山脈に戻るだろう。もしかしたらその先の、無限の砂漠に何か関係があるかもしれない」と話した。ルディオン山脈と無限の砂漠は、方角的にはグランフェルデンの東。そして陰の森も東にあった。ルディオン山脈の南に位置するのが陰の森である。3人はそれぞれの想いをよそに、陰の森目指し旅立つのであった。


「キミすごくカワイイね。どうだい、ボクのお嫁さんにならないかい?」

目の前に佇む女性は、口で言うほどの美人ではなかった。もう少し具体的に言うならば、村一番の美女ではあるが、町では百位以内に入れるかどうか。そのくらいの雰囲気だった。ナルシの言葉を真に受けるような様子で照れ笑いを浮かべる女性だったが、でも私にはもう主人がいて…と、話をはぐらかすような仕草でその場を小走りに去っていく。

村の明りから少し離れた暗がりで1人残され、ため息を吐き出すナルシ。そんな時、急に横から幼い女性の声で名を呼ばれた。しかしさすがはナルシ様、すぐにそちらの方向を向き直るような事はしない。たっぷり幾ばくかの時間をつかい、もったいぶった面持ちでゆっくりと顔を上げる。オイオイなんだよハニー、そんなカワイイ声で俺様を呼びやがって。ああ、分かっているさ。今夜は誓って熱い夜にする。だってボクとキミは赤い糸で結ばれ……。

顔を上げ呼ばれた声の主を確認したナルシは、それまで作った表情を大きく崩さざるを得なかった。そこにはグランフェルデンで別れた少女と猫男。そしてヲタク呼ばわりされていた冴えないもやし男が立っていたのだから。


リュネットが宿で再会した銀髪の少女は、あの時見た様子のままで、しかしそれでも少し落ち着いたかのような面持ちでいた。セスチナはリュネットやダレン、アルトとの再会を喜びつつも、すぐに自分を追ってきたのではなく、たまたまこの場所で再会したのだと分かった。と言うのもこの村は先のソーンダイクから言われた話、「黒衣の集団」が暗躍する陰の森にほど近い場所であったからだ。セスチナ自身、リュネットらと合流したいという気持ちがなかったと言えば嘘になる。短い間であったとはいえフェゼント村で知り合い、戦闘を共にし、グランフェルデンへの旅路をしたかけがえのない仲間。そんな意識がセスチナの中に生まれていたのだった。

「それでセスチナ、炎の巨鳥(フェニックス)について何か新しい情報は手に入ったのかい?」

尋ねられた話について「フェゼント村を焼き払った巨鳥は東に向かった」という旅の中で聞いた話、ただそれだけを頼りにセスチナはこの村までたどり着いたのだ。が、その後の足取りとなる話は、噂レベルのものも含めて一切確認できないでいた。人懐っこい笑顔のダレンから尋ねられると自分の惨めさ、歯がゆさが余計に悲しくなる。セスチナは隠す事無く落胆したように肩を落として見せた。そんな様子にダレンは小さくウインクして見せる。

「ボクらがここに来たのはセスチナ、またキミと一緒に旅をしたいと思ったからさ。そしてその延長上に、黒衣の集団と炎の巨鳥がいるのだと判明したからなんだ」

その発言にリュネットは思わず飛び上がる。おいおい相棒、そんなデタラメ言って良いのか? 大丈夫か? と。見ると同じ卓上に腰掛けたままのアルトもソワソワした面持ちで、この話の展開を見守っている雰囲気だ。

しかし当事者であるセスチナの心は、そのダレンの言葉に真摯に呼応した。彼女の中で黒衣の集団と炎の巨鳥が強く結ばれ、その2つは関連しているものだと感じワナワナと身体を身震いさせる。そして紅潮した表情でダレンとリュネットを交互に見やり言を発する。自分に都合の良い話で申し訳ないが、また仲間の輪に入れてくれないか。私も黒衣の集団調査に参加させて欲しい、と。

その言葉を受けて、3人はパッと顔を綻ばせる。ああセスチナ、共に行こう。僕らは仲間だ、共に戦おうと。その直後、ダレンとリュネットの間の肩にポンと手を置いて美青年が姿を現した。

「それで、どう出ますかね、ダレン大将?」

ダレンはその美青年の顔は見ずに、しかし場にいる仲間全員に対して伝えた。

「夜半、陰の森に侵入する。黒衣の集団の後をつけて、遺跡内部に突入しよう」

ダレンのその言葉に、場にいる一同はみな、力強く頷くのだった。


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