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【四日目】


 いつもはなんだか無理やり起こされている感じなのに、何故か今日は、そんな気分になることもなく、僕は普通に起きた。

 おかしいなと思いながらカーテンを開くと、いつも見る青い空はなくて、代わりに灰色の大きな雲が、そんな空を隠していた。


 なんだか少しだけ、嫌な予感がした。


 不安な思いを首を振ってどこかへやってから、僕は部屋から出て階段を下りた。

 下に行くと、台所からいい匂いがした。

 ちゃぶ台が置いてある部屋を通って台所を扉から覗くと、そこにはおばあちゃんがいて、朝ごはんを作っていた。


 その背中を見つめていると、おばあちゃんが僕が見ているのに気がついたのか、振り向いた。

 そして、にっこり笑って僕に声をかけた。


「おはよう。朝ごはん、もう少ぅしかかるから、先に顔洗って、着替えてきんしゃい」

「はーい」


 僕は返事をすると、洗面所の方へと向かった。

 洗面所につき、蛇口を回して水を出して、流れる水を手ですくってバシャバシャと顔にかける。

 目を閉じたまま、手探りで見つけた蛇口を回して水を止めてから、近くにあったタオルを両手でもって顔を拭いた。


 そうしてから、鏡に映る、タオルを持った僕の両手を見つめた。

 どれだけ見つめても変わらない僕の両手に、僕は安心した。

 それもこれも、全部、ここに来てから見る、変な夢のせいだ。


 周りは枯れた草だらけ。

 ふと何か変な感じがして両手を見ると、僕のおじいちゃんやおばあちゃんと同じように、僕の手がしわくちゃに……いや、それよりももっと酷くて、骨に皮が張り付いて、中身だけがなくなったみたいになってた。

 びっくりして走り出すと、目の前に鏡が突然出てきて、思わず覗き込むと……っていうところで、いつも目が覚める。


 その夢は、夢の中にいるときはとっても怖いんだけど、目が覚めると何も怖くなくなっちゃう、不思議な夢。

 でも、彼女にであって、彼女の“触れるものが干からびて死んじゃう”という不思議な能力のことを知ってからは、なんで僕に届いたのかはしらないけど、これは彼女なりの、助けてっていう思いなのかもしれないと思い始めた。

 だから、彼女のためにも、早く彼女の記憶を思い出させてあげたい。

 ……それになんだか、この夢を長く見てたら、大変なことになる気がするし。


 とりあえずその夢のことを頭を振って追い払い、手に持ったままのタオルを洗濯カゴに入れてから、洗面所を出た。

 二階へ行って着替えてから台所に行くと、まだ朝ごはんはできてなかった。


「おばあちゃん。何か手伝う?」

「んー……じゃあ、お箸とお茶碗と小皿を向こうにもっとってな」

「はーい」


 お箸とお茶碗と小皿を、僕たちがいつも食べている机へ持って行ってと言われたから、お箸入れと食器棚からそれらを取り出して、机の方へ持っていく。

 机の上にそれぞれのお皿を並べていると、おばあちゃんが朝ごはんを作りながら声をかけてきた。


「そーいや、お寺のおっさまんとこの息子さん、知ってるかい?」

「お寺のところの?」


 僕がいつもいくお墓への坂道の、下にある場所だ。

 ……でも、いつも僕が帰るのが遅いのか、向こうが遅いのかはわからないけど、あそこから子供が出てくるのは見たことがないし、もし見てたとしても、誰がその息子さんか僕にはわからない。

 そのことに気がついたのか、おばあちゃんが特徴を教えてくれた。


「いつも大体赤い縞々の服を着とって、ちょっと切れ長の目ぇした、面倒見のいい子やんよ」

「……うーん……見た記憶はないかなぁ……。どうして?」


 僕がこの村の子達に、都会に住んでいるからと嫌われているのは知っているはずだ。

 なのにその子を知っているのかって聞いてくるってことは、その子は僕のことを、嫌わないかもしれない……ってことなのかな?

 でも、自分の村を悪く言った子と、同じ場所から来た子を、そう簡単に好きになってくれるのかな……。


「その子わな。前に来た都会の子の面倒を見てた子なんよ。それに、家の都合で何回も都会に行ったことはあるし、理解はあると思うで」

「そう……かな。じゃあ、それっぽい人見たら、声かけてみるね」

「ああ。そうしぃ。……あ、ご飯できたから、裏庭にいるおじいちゃん、呼んできてくれん?」

「あ、うん!わかった!」


 おばあちゃんに言われた通り、裏庭の方へと向かった。

 空は、なんだか暗かった。


***


「「ごちそうさまでした!!」」


 二人で手を合わせて挨拶をする。

 お弁当箱と箸を片付けてから、バッグの中から今日の遊び道具……折り紙を取り出した。


「……何、それ?」

「折り紙。いろんな形に折って遊ぶ紙だよ!……ちょっと見ててね」


 そういって、近くの小さな岩の上で折り紙を折っていく。

 不器用ながらに頑張って折ったそれの角を直しながら、彼女の手のひらの上に乗せる。


「うわぁっ……!可愛い!」

「折り鶴って言うんだよ。君も、やり方さえ覚えればできると思うよ」

「ほんとに!?教えてくれる?」

「うん」


 そういって、とっても嬉しそうに笑う彼女から、目が離せなかった。

 不思議そうに僕を見つめてくる彼女を見て、僕はようやく目が離せた。

 目が離せなかった理由は、よく、わからなかった。


「……どうしたの?」

「っう、ううん。なんでもない。じゃあまずは、一番簡単な紙飛行機から教えてあげる!」


 そういってから僕が彼女に折り方を教えると、彼女は綺麗な指で、器用に、僕よりも丁寧に折り始めた。

 横に折り方の載っている本をおくと、お礼を言ったあと、すぐにまた夢中になって折り始めた。


 僕はそんなに上手に折れないから、そうそうに折るのをやめて、彼女の折る姿を見てた。

 本を読んでいた時もそうだったけど、初めて折るにしては、器用っていうだけじゃ素直に頷けない感じの上手さがあった。

 やっぱり、記憶はなくなっても、なんとなく覚えてるのかも……と考えていると、彼女が小さく声をあげた。


「できた……!」


 そういって彼女は、初めてできた紙飛行機を僕に見せてきた。

 嬉しそうな彼女を見て、僕は、ものすごく早く紙飛行機を折ると、彼女に声をかけた。


「よし、じゃ、投げてみよ!」

「え、投げるの?」

「そう!紙の飛行機だから、上手く折れてると凄い遠くまで飛ぶんだよ」


 見ていてと彼女に言ってから、僕は崖の方へ近づき、紙飛行機を遠くの方めがけて投げた。

 紙飛行機は、風に乗ってぐんぐん遠くへと飛んでいく。

 その光景を、いつのまにか隣に来ていた彼女が、目を丸くしながら見ていた。


「やる?」

「……うんっ!」


 嬉しそうに頷いた彼女は、遠くまで飛ぶように、少し紙を綺麗にしてから、風に乗せて紙飛行機を飛ばした。

 その紙飛行機は、僕のやつと同じように遠くに飛んでいった。


 彼女は、その紙飛行機を、ずっと見つめていた。

 なんだか、溶けて消えていきそうだった。


 そんな彼女に手を伸ばしかけて……途中でやめた。

 そして、彼女に触れなかった手を下ろして、もう一つ、今度はゆっくり紙飛行機を折った。

 できた紙飛行機を見つめてから、僕はもう一度、空に飛ばした。


 ふと彼女を見ると、僕の飛ばした紙飛行機を、そのまま見つめていた。

 すると、彼女が右手を、飛んでいった紙飛行機を追いかけるように伸ばした。

 そしてそのまま、彼女は前のめりに――――



「――あぶないっ!!」



 落ちそうになった彼女の左手を掴み、僕の方へと勢いよく引っ張る。

 僕に引っ張られた彼女は、バランスを崩して僕の方へ倒れ込んできた。

 彼女が落なくてよかったと、安心しながら、彼女へ向けて声をかけた。


「あー……よかった。もう、危ないよ?ちゃんと下を見―――」


 その時、僕が、彼女の手を握った手のひらに違和感を感じたのは、本当に偶然だった。

 なんだか変だと感じて見た、僕の手のひらは……。


 夢の中と同じように、なっていた。


 夢から覚めたときには感じなかった怖さが、こんな手なのに痛くないことの恐ろしさが、……そしてなにより、これが現実だっていうことが、怖かった。

 震える手から目を離して彼女を見ると、目を見開いて、青ざめた顔で僕の手のひらを見つめていた。

 彼女が、ゆっくりと手のひらから視線を外して……僕を、見た。


「ばっ……!!」


 何故か口から出てきた心無い言葉を、彼女に聞かせない為に両手で口を塞ぐ。

 ポツポツと雨が降ってきて、その雫は、彼女の頬にくっついた。

 まるで、泣いているみたいに見えた。


 僕が言おうとしていたその言葉は、彼女を傷つける言葉だ。

 彼女への怖い思いよりも、何よりも、彼女を傷つけないために。



 僕は、ここにいちゃダメだ。



 元に戻った手のひらで、近くにあったバッグを掴んでから、僕は駆け出した。

 後ろから、声は聞こえなかった。


 お墓の隙間を避けるようにして走り、急な坂道を降りていく。

 その間も、雨は強くなって、傘のない僕を濡らしていく。

 そして僕は、坂の一番下にあるお寺についた。


「じゃーねー!」

「さようなら!兄ちゃん」

「ああ。気をつけて帰れよ」

「「はーい!」」


 傘をさした僕よりも小さな子供が、お寺から出てきた。

 それを見送るように、僕よりも大きい男の子が、お寺の屋根の下から子供たちに手を振っていた。

 ふと気が付くと、小さな子供達が、僕の方を見て声をあげた。


「都会の人だ!」

「上の方でいつも一人で喋ってる子だ」

「おい、早く帰れよ」

「「はーい」」


 やっぱり、他の人に彼女の姿は見えないんだ。

 そのことに、僕は目を下に落とした。

 横を、パシャパシャと通っていく足音が、聞こえた。



 下に顔を向けていたら、唐突に、雨が当たらなくなった。

 顔を上げると、さっき手を振っていた男の子が、僕に傘をさしていた。

 そして、言った。



「お前は、彼女が見えるのか」




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