表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

【二日目】

 太陽の光がまぶしくて、家で起きるよりも早起きをした僕は、寝ぼけ眼のまま窓の外を覗いた。

 そこには、作物が沢山なってる畑と、それをとっているおばあちゃん。

 パジャマから服に着替えてから、階段を下りて庭のところからおばあちゃんがいる畑へと向かう。


「おばあちゃーん!おはよう。何してるの?」

「あんれまぁ、ヒロちゃん。早起きできて偉いなぁ……。今は、夏野菜を収穫してるんよ」


 家ではこんなに早く起きることなんてないんだけどな……と、ちょっと心が痛みながらも、おばあちゃんが見せてくれた夏野菜を見つめる。

 籠の中に入っている沢山の野菜は、どれも太陽の光りに当たってキラキラ輝いている。

 それを見つめていると、ふと、あることを考えついて、僕はおばあちゃんに声をかけた。


「ねぇおばあちゃん!」

「ん?なんだい?」

「あのね、僕、友達ができたんだ。その子と今日遊ぶ約束してるんだけど、このキラキラした野菜をその子にも食べさせてあげたいから、お昼ご飯用に何個か貰っていい?もちろん、とるの、お手伝いするよ!」

「これまぁ……嬉しいご提案だねぇ……。もちろん、手伝ったあとは好きなだけもっていきんしゃい。毎年とる量が多すぎて、うちじゃ食べきれないかんなぁ……」

「やった!じゃあ僕、帽子と手につけるやつ持ってくるね!」


 そういって僕は、ボールみたいに跳ねる気持ちを抑えながら、家の中へ再び入っていった。


***


 沢山荷物の入ったバッグを肩にかけながら、僕は昨日も上った坂を歩いていく。

 疲れるけど、この坂を上った先には彼女がいるのだ。

 彼女のため、そしてなにより、僕のために、ここは頑張らなくちゃいけない。


 やっとの思いで上りきり、少し息を整えてから昨日も通った道を辿っていく。

 お墓の間をすり抜けていき、少し開けた空間に出ると、そこには、昨日と同じように白いワンピースを来た彼女が、枯れた草の上に座っていた。

 舌を向いて何か考えているようだった彼女は、僕が来たのに気がついたのか、顔を上げて笑顔で手を振った。


「ごめんね。遅くなっちゃって」

「ううん。来てくれるだけでも凄い嬉しいし。……ところで、肩にかけてるそのバッグは……?」


 不思議そうに僕のバッグを見つめる彼女に笑顔を返してから、彼女の触れない程度の距離に座り、バッグを下ろして中を見る。

 その中には、今朝畑で採れた野菜を使ったお昼ご飯と、けん玉やお手玉といったこの村でよく遊ばれているらしい玩具が入っていた。


「えっと、これは?」

「これはお弁当。君がこの場所で目を覚ましたんなら、この村に関係あるもので遊んだり、食べ物を食べたりすれば、もしかしたら思い出せるんじゃないかなって思って。この村の大半は農家だから、僕の家で採れた野菜を食べればもしかしたら……って思って。……まぁ、僕のお昼ご飯でもあるんだけどね」


 そういって、少し大きいお弁当箱を置いて蓋を開ける。

 実は、お昼ご飯を食べてから野菜や玩具をもっていこうとしたところ、彼女の分も含めた少し大きなお弁当をおばあちゃんが作ってくれたのだ。


 おばあちゃんが作ってくれたお弁当の中は、まるで宝石箱みたいにキラキラ輝いているように見えた。

 それをみた僕の目も、そして、それを見ている彼女の目も、同じくらいキラキラしてると思う。

 いつも遠足に持っていくお弁当は、凍った食べ物を温めてそれを詰めたやつで、美味しいけど、キラキラしてるとは言えないから。


「はい、箸」

「……ほんとに、食べちゃっていいの?」

「いいよ。このお弁当は、僕の分でもあるし君の分でもあるから。それに、ちゃんと僕の分の箸もあるし」


 そういって箸を取り出すと、彼女は笑顔になって手を合わせた。

 それを見て、僕も彼女と同じように手を合わせた。


「「いただきます」」


 2人揃ってそう言うと、おばあちゃんの作ってくれたお弁当を食べ始めた。

 口の中に入れた瞬間に広がる、なんだか暖かい美味しさに目を輝かせながら、彼女と僕は、何も喋らずに箸を動かす。

 そして、僕ら二人がもう一度喋り始めたのは、お弁当の中身が綺麗に空っぽになった時だった。


「「ごちそうさまでした」」


 二人揃って手を合わせてそう言った事で、お弁当だけしか見えてなかった自分たちに気がついて、ちょっと恥ずかしくなりながらも、あれだけ必死だったのが面白くて笑ってしまった。

 笑いがおさまった頃、僕はお弁当箱をバッグの中にしまい、代わりにけん玉を取り出した。

 不思議そうに首を横にする彼女に、僕はけん玉について知っていることを教えた。


「これは、けん玉っていう玩具で、横に大きくて平らな所と中くらいで平らな所、後ろに小さくて平らな所と前の部分に針みたいに刺す所があるでしょ?で、この紐の先についてある球を平らな所に乗せるか、球の空いている穴に刺して遊ぶんだ。見てて」


 そういって、球を安定させてから、小さな声と一緒に球を大きなとこ、中くらいのとこ、小さいとこに乗せていき、最後に針みたいなとこに球を刺した。

 カツンという音と共に球が刺さると、彼女が小さく声を上げながら拍手をしてくれた。

 それにちょっと照れながら、彼女にバッグからもう一つ出したけん玉を手渡す。


「球の刺し方とか乗せ方は沢山あるけど、これがけん玉の基本かな。初めはちょっと難しいかもしれないけど、こういうので遊べば何か思い出せるかもしれないし」

「……色々、ありがとう」

「お礼なんて別にいいって。僕が勝手にやってるだけだし、けん玉なんて、なんか色々言ってるけど、結局は僕が遊びたいだけだもん」


 僕がそういうと、彼女は僕に笑顔を返してからけん玉をやり始めた。

 カツンカツンと、木がぶつかる音がする。

 初めてやったからなのか、球が大きなところに乗る気配もない。


 こういうので遊べば懐かしさとか感じるかもしれないと思ったけど、けん玉で遊ぶ彼女は、昔初めてけん玉で遊んだ僕と同じ顔をしてる。

 やっぱり、けん玉じゃダメだったのかなーと思いながら、彼女の方へ近づく。


「じっとしてて」


 言われたとおり動きを止めた彼女のけん玉の球に手を伸ばし、前後に揺れている球を抑えてから、くるくるとコマのように手で回した。

 綺麗に回ったのを確認してから彼女から離れると、彼女が僕に聞いてきた。


「なんで球を回したの?」

「球を回すと、前とか後ろとかに揺れにくくなるから、大きいところに乗せやすくなるんだ」

「そうなんだ!」


 そういってから彼女は、再びけん玉をやり始めた。

 すると、大きなところに球が僅かに乗り、カツンと音を立ててそこから落ちた。

 それを見て、彼女は嬉しそうに笑った。

 それを見た僕も、釣られて笑顔になった。


「ねぇねぇ、今の見た!?少しだけど乗ったよ!」

「うん!あとちょっとで乗るよ!頑張ろっ!」


 僕がそういうと、彼女は真剣な顔でけん玉を乗せようとし始める。

 その姿になんだか目が離せなくて、自分のけん玉で遊ぶことを忘れてしまう。

 彼女のその真剣な横顔は、なんだかとっても……綺麗だった。


 じっとその横顔を見ていると、彼女の瞳が少しだけ開かれて、星みたいに輝く瞳が横にいた僕を見た。

 そして、今日一番の、とびっきりの笑顔で僕に笑った彼女は、弾む声で言った。


「できたっ!!」


 大きなところに球を乗せた彼女は、嬉しそうにけん玉を僕に見せてくる。

 その雰囲気に釣られて、僕も笑顔になる。


「……じゃあ、次は中くらいのところに乗せてみよっ!針にさせるくらいまでできたら、僕が技を教えてあげる」

「技?なんだかかっこいいね!」


 そんな風にけん玉で、日が暮れるまで僕らは遊んだ。






 僕が帰るまで、あと5日。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ