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9.意識が途絶える数分前

でかい建物を見上げる。その建物は横だけでなく、高さもなかなかなものだ。全国チェーン店だけあって外装も綺麗である。


「・・・・・・すげぇ」


 俺は正直な感想を洩らす。

 恵はこちらを見て呆れるようにため息をつき、やれやれと身振りする。


「・・・・・・イオンなんてどこにでもありますよ・・・・・・。何がすごいのでしょうか」


「あ、はい。えっと、すごかったです・・・・・・いえ、すいません」




×××


「入口開いてるか探すぞ!恵は右から、俺は左から回る」


 俺が言う。恵はビクリと体をのけぞらせ、意味ありげにこちらを凝視している。

 ・・・・・・見つめるなよ、恥ずかしい。


「えぇ・・・・・・、わたし・・・・・・一人ですか」


 恵が心配そうに確かめる。自分の手を胸の前でぎゅっと強く握っている。 


「あぁそうだ。じゃぁ、俺は行くから。それと、見た感じゾンビはいなさそうだけど警戒はしておいてね」


 そう伝え走り去ろうとするが恵に手を握られる。ドキリ。

 上目づかいで俺に迫ってくる。


「もしもの場合があるかもなので・・・・・・こわいです。一緒に行ってはいけないですか?」


 恵の目には涙があふれている。何度目だろうか、恵の涙を見るのは。涙を流している女は美しい。


「うーん、効率悪いしなぁ」


「お願いします!な、なんでもします・・・・・・」


「本当!?」


 間髪入れずに聞く。あ、そうそう、これ俺の演技だよ。恵の涙顔見たかったから別々で探すぞみたいなこと言ってたけど、一人で行かせるわけないじゃん。まさか涙顔見れた上に何でもしてくれるなんて素晴らしい。俺策士。


「・・・・・・はい」


 顔を俯かせ答える。なんでもすると言ってしまうことに少なからず後悔はしているだろう。どういう系統の物が来るかは大方予想できているのだろう。


「なんでも・・・・・・かぁ。ふーん」


 確かめるように言い、続けて言う。


「よーし、決めた!今からやってもらってもいい?」


「え・・・・・・。その、家とか誰もこないような場所にしてほしい・・・・・・です」 


 恵は恥ずかしそうに頬を赤く染めて言っている。可愛い。


「そっかぁ、それは残念だなぁ。ただ単に、俺に心配かけるなよって約束させようと思ったのに」


「え!?」


 恵がものすごい早さで顔を向ける。驚いた、といった表情である。

 そして俺が小馬鹿にするように言う


「え?なにその驚きよう・・・・・・どういうこと想像してたの?」


「・・・・・・いえ、特に想像なんかしていません」


「顔、赤いよ?」


「夕焼けのせいです」


「今日曇り・・・・・・」


 

「・・・・・・正直、えっちぃことを頼んでくるのかと思ってました。なので・・・・・・その命令はちょっとざんね・・・・・・」


 恵は顔をはっとし急いで言い直す。


「じゃなくて!そそそそ、その命令は意外でした!」見直しました!」


 顔を真っ赤にしながら訂正していた。

 顔の前で違う違うと手を振っており、面白かった。


「そっかぁ、残念だったのかぁ。命令、変えようか?」


「はい。じゃなくて、今のは違うんです。他ごと考えててゆうとさんの話が耳に入ってきてなくて!それでうんって!適当で適当なんです、だから違うんです!」


 何度も熱演してくれている。


「日本語おかしいぞ・・・・・・。まぁいいか、じゃあ一緒に入口探すか」


「はい!」


 恵は胸に手を当てほっとしていた。何を言っているのかは聞こえなかったが、すごく小声で何かをブツブツと言っていた。聞こえはしなかったが、何と言っているのかはわかった。

 私のばかぁ。危なかったよ・・・・・・。

 恵の言っていた言葉である。・・・・・・・読唇術神スペック。


「でへへ」


「な、なんですか、こっちを見てニヤニヤと・・・・・・」


「なんでもー」


 そうですかと恵は言い、ぷいと頬を膨らませて俺とは逆の方向を向く。


「じゃぁ行こうか」


「はい」


 心底嬉しそうに返事をし、俺の後ろにつく。ていうか・・・・・・


「ちょっと近くないっすか・・・・・・?いや嬉しいけども」


 俺の言葉にはっとし顔を赤くしてささっと離れていく。


「ひゃっ!すいません!」


 いやいいけども。嬉しかったし。

 

 それからはイオンの入口を探すために一緒に歩いた。地下や屋上、全て探したが入れそうにない。ガレキやら車やらで封じられている。


「どうしようか」


「どうしましょうか」


 入れない。どうしよう。そりゃイオンに特別な思い入れとかないから探すの諦めてもいいんだけどさ。

 ・・・・・・服あげたいじゃん。今でも可愛いのにこれ以上可愛くなるのかと思うと諦めることができない。男の心理!


「!!!そうだ!ガレキとか全部どけて入ろうぜ」


「はい。・・・・・・・そんなことできるんですか!?」


「あー、うん。たぶん大丈夫」


 そういうことでガレキをどける作業をしております。地震によってなのか、人の手によってされたことなのかはわからないが大量だなぁ。まだ半分もいってねえ。

 ガレキをどける作業をしているにも関わらず、ゾンビは一体も出てこない。ガレキを投げ捨てる音がするにも関わらず出てこないのは不気味だ。だが、不審がったってしょうがない、気にしないようにしよう。


「終わりましたかー?」


 恵が涼しそうな声で聞いてくる。そういえば恵にも手伝えって言ったけどガレキの音しなかったな。恵の方へと首を曲げ確認する。


「・・・・・・おい!恵何にもしてねえじゃねえか!てかその右手のミルクティーはなんだよ!」


 言いたいことはたくさんあった。いつ買ったんだと聞きたかったがもうどうでもいい・・・・・・。

 言いたいことは一つ。


「手伝え!」

 


×××


 恵と俺でガレキをどける共同作業のかいあって入口が見えてきた。ほとんど俺がやってたけどな。

 さーて入口が見えてきたぞ。暗いな。


「は、入りましょうか」


 ゴクリ。暗いため何が出てくるかわからない。何だろう、武者震いなのか?手に柔らかい感触がある。しかも暖かい。武者震いなのか、初めてだ。


「・・・・・・胸、気持ちいいんだけど今はまってくれ」


「へっ?ひゃぁすいません!てか待ってくれってなんですか!」


 あー今日何度目だろう。サービス精神やばいな!

 気持ちも高ぶってきたところで決心する。


「行くぞ」


 俺の言葉に頷き、俺の腕にしがみついてくる。

 一歩イオンの入口に足を踏み入れる。ガシャリとガレキが音をたてる。身構えてみるが出てくる気配はない。もちろん俺は襲われることがないため恵のためにだ。


「怖いです」


 恵が俺の服の裾をつかんでブルブルと震える。声も震えている。


「怖いのか?」


「はい」


 そうは言うが、俺が一歩進むと恵も同じ歩数だけ進んでくる。ゾンビがいないか確認しながら店内を回る。懐中電灯を探しながらゾンビや生存者を探している。俺は知っている。恐ろしいのはゾンビだけではないことを。人間だって怖い生き物である、身をもって知らされた。


「おっ、懐中電灯見っけ!」


 それを手に取りカチッと電源を入れる。


「そりゃそうかぁ、点かねえな」


 電池を探す。どこだろうか。イオン来ねえからわからん。


「あ、あっちだと思います」


「よく来るのか?」


「たまにお母さんと買い物で」


 そうなのか、それは心強い。言われた通りの道へ進む。物音はしない。俺たちしかいないのだろうか。

 

「あ、これ電池です」


「おう、ありがとう」


 電池を受け取り懐中電灯に入れる。念のために懐中電灯は一人二個ずつ所持している。電池切れも怖いため二十個ずつ所持する。十分すぎるだろうが多いに越したことはない。

 電池を入れ、カチリとつける。


「明るいな。でもこれで普通に動けるな」


「そ、そうですね」


 明るいとはいえども照らす部分しか明るくならない。てか静かだな。まだ一階全てを見終えたわけじゃないし他のフロアだってあるし気を付けないとな。


「とりあえず一階を探すか。生存者ね」


「はい」


 そう決め、一階をうろちょろする。いやー、何にもないなぁ。電気つけられないかなぁ・・・・・・。

 恵の方へと見やると顔色が悪そうだ。その様子に見かねた俺は尋ねる。


「大丈夫?」


「まぁなんとか・・・・・・」


「どうしたんだ?」


「気分が悪くなってきました・・・・・・。ちょっとトイレ行ってきます」


「あ、うん」


 トイレかー。まぁすぐそこだしな。入ってった。顔色本当に悪いな。便秘か?


「おそいなぁー」


 


「おそいなー」




「おそい」

 

 もう1時間くらいたってねえ?全然出てこねえな。寝てんのか?


「・・・・・・入るか」


 少し嬉しそうに呟く俺自身に引いてしまった自分がいた。俺怖い。

 女子トイレへと顔だけを入れ、呼ぶ。


「おーい。大丈夫かー?」


 少しだけ待ってみるが返事はない。


「入るぞー?」


 やはり返事はない。少し心配になってきたため入る。トイレは思っていたよりも広く、大鏡が不気味である。なんていうか、鏡の世界に吸い込まれそうである。懐中電灯を大鏡に向ける。


「!?」


 後ろには見知ったゾンビがいた。


「め、めぐみ・・・・・・!?」


 俺が叫ぶと同時にそのゾンビは俺の腕に噛みついてきた。

 

「こ、こ・・・・・・・の・・・・・・・」


 引きはがそうとするもゾンビに力は強かった。よく聞くことだ、ゾンビになると人間では出せない限界のリミッターをぶち壊し最強の力を手に入れる、と。

 あ、やばい。意識が朦朧としてきた。ゾンビの感染ウイルスが体内に回ってきたのか。なぜ噛まれた、恵はどうなったんだ、そんなことを思いながら俺の意識はプツリと途絶えた。

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