5.反省からの見殺し
化け物。俺が言われた言葉だ。思い返してみたが、その言葉は俺に合っている。俺は人殺しに成り下がったようなものだ。自分から手をかけたわけではないにせよ、ゾンビに殺されるように仕向けたからだ。
「まぁ、いいか」
心まで冷めたようだ。冷徹な心。人を殺したというのにこのすがすがしさは何なのだろうか。
「俺は・・・・・・血を求めているのかもしれない」
一人で呟き、自分が何を言ったかを気づいた。
「・・・・・・何を言っているんだ、俺は」
自分がした恐ろしいことを思い出し、反省した。
周りにはゾンビがいるが、俺の特異体質の前にはどうでもいいことなので無視してやった。
「俺は・・・・・・」
自分が何を言おうとしているかわからなかった。
「た、たすけてくれええええええええええええええええええ」
叫びが聞こえた。距離はあまり離れていないようだ。あの声の位置から察するに恐らくコンビニだろう。
「助けに行くっ!!」
罪滅ぼしはできないだろうが、罪を少しでも軽く、自分で納得できるように。自分でいられるように。
コンビニへ向けて猛ダッシュした。
見た限りでは生存者はいなく、ほとんどがゾンビになったと推測できる。
「ひでえ有様だな・・・・・・」
ぼやきながらも走る足を止めることはなく、確実にコンビニへ向かっていった。
「ひぃぃ」
コンビニへ着き中へ入ると小さな悲鳴が聞こえてきた。トイレの方からだ!!
・・・・・・またトイレ。嫌な思い出が蘇るようだが、首を振り、無理やり忘れようとした。
「大丈夫ですか!?今助けます!!」
「えっ!?あなたは・・・・・・大丈夫ですか!?」
「大丈夫です。今は自分の心配をしてください!」
まだ何かを言っているようだがこの多いゾンビをどう始末すればよいかと考えていたため聞こえなかった。数は二十体を超えている。ネットの書き込みでは頭をぶち壊せば行動不能になるらしい。恐らく、脳がかすかに稼働しているのだろう。心臓を止めても動くらしいのでそれしか方法はない。
「脳か。何かいい武器・・・・・・」
周りを見渡す。コンビニで使えそうな物といえば、なんだろうか。カッターナイフ。ハサミ。ビールビン。ライター。それくらいしか見当たらない。
「ッッ!」
彫刻刀が置いてあったのでそれを取る。そして、袋を開け、取り出す。
「大丈夫。・・・・・・大丈夫」
自分自身に問いかけ、確かめた。決意を固め、ゾンビの頭めがけて彫刻刀を刺した。
何度も。
何度も。
血は吹き出し、ドバドバと流れ出ている。
血は収まることを知らないかのように延々と流れており、すでに人間の致死量である二リットルはゆうに超えている。それを見て俺は、本当にゾンビなんだと思い知らされた。
何度も刺しているというのに、そのゾンビやほかのゾンビはこちらに見向きもせず、気にしていなかった。
何度も刺し、ようやく脳の一部が見え始めた。
「・・・・・・おぇ」
何度も吐き気に襲われた。血の匂いがプンプンして、返り血も大量に浴びていた。
ネットでは返り血を浴びても感染をしないと書かれていたが、どうだろうか。というか、それ確認したの?すげえな。
見え始めたゾンビの脳を彫刻刀で何度も刺す。ドクンドクンと微かに動いていた脳は停止し、ゾンビは気を失うかのように倒れた。
瞬間、携帯がなる。
右ポケットからである。
「なんだ・・・・・・?こんなの・・・・・・持ってたか?」
恐る恐る取り出す。赤色のスマートフォンと呼ばれる携帯機である。
美しい色で、おかしなことに電源の電池残量表示が見当たらず、どのように扱えばいいのかがわからなかった。
「メールがきてる」
誰の携帯かはわからないが、マナーに違反すると理解しながらもメール内容を確認する。
内容は以下の通りだ。
『初回討伐ポイント 一〇〇〇ポイント進呈します。
ゾンビ一体一〇〇ポイントです。
ポイントは装備やお金に還元することができます。
一ポイント=一〇円』
理解に苦しむが、装備というのを見る。
『現在、装備については考え中なため、種類は少ないです。
日本刀→一〇〇〇〇ポイント
日本刀(お試し二十回切り限定)→一〇〇〇ポイント 1回限り購入可
ナイフ→三〇〇ポイント
木刀→五〇ポイント
特別枠。
五〇〇〇ポイントでこのスマホに書いた人の名前を生き返らせることができる。』
「五〇〇〇ポイントで人を生き返らせれるだと・・・・・・?五万円で生き返るということだぞ?」
「ひぃ」
考え事をしているとトイレからうめき声が聞こえた。
あっ、忘れてた。
「とりあえずナイフ購入だな」
決め、ナイフを購入した。すると、スマホからナイフが飛び出た。右手でしっかりと持ちゾンビを殺しまくった。
「うけけけけけけけっけけけけ」
楽しい。俺はそう感じてしまった。気づくとゾンビは全て倒してしまったみたいだ。
「・・・・・・もう、大丈夫だよ」
「本当かい・・・・・・?」
「あぁ」
答えると、トイレから人が出てきた。推定年齢35歳ってところかな。
「大丈夫ですか?」
俺が質問する。その人は俺をみて困惑していた。
「その・・・・・・あなたが全部・・・・・・?」
「はい」
「だ、大丈夫でしたか?」
「全然大丈夫ですよ」
にこりと笑顔で返す。その笑顔が怖かったのか、ビクリと体をのけぞらせる。
「大丈夫ですよ、落ち着いてください」
「は、はい」
緊張しているようだ、そりゃ当然だ。ゾンビを一人で全部倒したうえに、刃物を持ってお出迎えだからな。
窓ガラスは割れており、風がビュウビュウと吹いている。
涼しい風に髪はなびき、気持ちいい。
コンビニの外にもゾンビは大量に生息し、三十五歳(推定)の人に向かってノロノロと歩いているのが見受けられる。その人は気づいていないようだが。
「では、僕はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました!」
お礼を言われるのは、気分の悪いものではなかった。でも、それでいいのかな?
俺は優しく言ってやった。
「自分の心配をしなさい」
その人は俺の言葉を厚意に受け取ったのか、元気な返事をする。そして、コンビニを出て歩いている俺の後ろ姿をみてその人は心配するように俺に大声で叫んだ。
「あんた!ゾ、ゾンビがッッ!!!!危ないぞ、離れろ!!!」
俺にゾンビのことを知らせてくれたようだ。俺の身を心配してくれたのだろう。だが、俺は振り返りもせずにゾンビの中を平然と歩いた。
ゾンビは声のしたほうへと大群でノロノロと歩き始める。あっという間にコンビニはゾンビで埋め尽くされる。
不快な音をさせながら貪るゾンビを見る。三十五歳(推定)は、モゴモゴと何かを言っているが距離もあるため聞き取ることはできなかったが、口の動きで大体何を言っているかはわかった。
「に・げ・ろ」
三十五歳(推定)は俺に逃げろと言っていた。未だに自分の心配よりも俺の心配をするその人をみて俯いてしまった。あんな人も、いるんだ。
「ごめんなさい」
ぼそりと呟き振り返るが結構歩いたため、コンビニは見当たらなかった。