4.覚醒
「どうしてこうなった・・・・・・」
俺は今現在、ゾンビ集団のど真ん中にいる。無我夢中で逃げ出していた俺はいつのまにかグラウンドへと飛び出したらしく、グラウンドとゾンビ集団のど真ん中にいる。
「なぜ襲われないのか」
素朴な疑問を洩らした。ゾンビ達は聞こえただろうが答えるわけがない。ゾンビに襲われない俺はきっと特殊なことだろう。ネット情報では俺のような人はいなかった。襲われないに越したことはない。
「楽しくなってきたな」
隠された力に楽しみを覚えた。最初は恐怖のどん底に落とされたが、ゾンビを気にせずに行動できるという素晴らしさを考えると本当に楽しい。
「グフフフフ」
俺の奇妙な笑い方に近くにいたゾンビが引いていた気がしたが、気のせいだろう。
歩き続け、ゾンビ集団から抜け出すことができた。
「やっとか。さてどこにいこうか」
行く場所に悩んだが家に帰ることにした。途中、襲われている人がいたが無視して家まで歩いた。
「ただいまーっと」
恐らく親はいないだろうと予想はしていた。恐らく避難しただろう。あるいは、ゾンビになっているだろう。
「・・・・・・寝るか」
ドタバタして疲れていた上に、睡眠をとっていなかったため早速寝ることにした。ゾンビが来たとしても大丈夫だろう。俺の謎の能力さえあれば。
「ふぁぁぁ」
睡魔が襲ってきたため抵抗することもなく夢の世界へと飛び立った。
「開けてくれえええええ」
ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。とても気持ちのいい眠りだったというのに誰が俺の眠りを妨げたのだ。しぶしぶ重い体を起き上がらせ、扉に向かった。
「だれだよ・・・・・・」
扉に向かいながらポツリと呟く。もしかすると、両親かもしれない。男の声だったため妹の可能性は薄いだろう。起きたばかりだからか、なんの注意もなしに扉を開けた。
「だれっすかー?」
「どけええええええええええええええ」
開けた瞬間そいつは俺を外に放り出し、自分だけ家に潜り込んだ。
「おい!おい!」
「すまん、何の恨みもないが諦めてくれ」
突然そんなことを言われた。後ろにはゾンビの大群が押し寄せてきた。
「・・・・・・おい」
ゾンビは俺を襲わない。それはもう実証済みだ。ならば、襲われたり噛まれたりしないだろう。安全である。安全を確認した俺は何がいけなかったかを考えた。
まずは、注意力散漫だったな。玄関で誰かを確認すればよかったのだ。仮に、誰か知らない人だったとしても俺は家に入らせただろう。だが、俺はこれで気づかされた。ゾンビなんかよりも人間のほうが何倍も恐ろしい化け物だということを。
「コロスコロスコロスコロス」
呪文のように何度も連呼した。家の鍵は右ポケットに入っている。チェーンをかけられていた場合は、時間がかかるがハンマーか何かで破壊すればいいだろうと自身で納得し、鍵を開けた。幸いなことにチェーンはかけられていなかった。焦って忘れていたのだろう。
「・・・・・・コロス」
家に入り、リビングや各それぞれの部屋を探索したがいなかった。
もちろんゾンビを引き連れて。
「・・・・・・残るは、トイレだけ、か」
トイレの前にはゾンビの大群が右往左往していた。明らかにそこだけゾンビの数が異常だった。
「・・・・・・そこか」
小さな声で呟く。トイレの前まで歩いた。中からは震えている声が聞こえてきた。確実にそこにいる。
トイレの前に立つ。怯えている声が聞こえる。
「・・・・・・」
数秒ほどトイレの前に無言で立つ。
「・・・・・そこかあああああああああぁぁぁっぁ」
その叫び声とともにトイレのドアを叩く。
何度も。
何度も。
次第に叩く音は大きくなっていく。
「ひぃっ。た、たすけてくれ・・・・・・うぐぅ」
自身の命のために俺を犠牲にしたというのに俺に命乞い?ふざけんな。ドアは鍵がかかっていて開けることができなかった。しかし、俺の家のトイレはつまようじを使うことで開けることができるのだ。
小さな穴が開いており、つまようじがそこにピッタリはまるのだ。そこへつまようじを押し込めばカチっと開く仕組み。
「うへへ」
自分でも気持ちの悪い笑い方だとは思ったが特に気にすることもなく、つまようじを探し当てた。
「も~ういい~かい~?」
馬鹿にするように言った。一度やってみたかったのだ、映画などでよくあるこれ。
トイレにいるやつは怯えているせいか、助けてくれという声しか聞こえなかった。
つまようじを用意する。そして、カチっと開けた。
「みぃーつけたー!」
俺の後ろには大量のゾンビ。そして、俺の威圧感。相手の顔はもう言葉には表すことができないほど恐怖がにじみ出ていた。ケラケラと笑いながらそいつの死にゆく姿を眺めていた。
「お、おまえは、さっきの・・・・・・」
そいつは俺に何かを言おうとしていた。
「わ、悪かった、さっきは、しょうがなかったんだ」
うぎゃあああ、と悲鳴を上げながら弁解しているが、もう許せない。というか許そうにももう遅いだろう、喰われてるし。笑みを浮かべていた俺をみてそいつは言った。
「この・・・・・・化け物め」
それっきり、そいつが何かを話すことはなかった。
「・・・・・・化け物か」
先ほどまで自分以外のやつは化け物だ、と思っていたが、俺も本当の化け物なのかもしれない。
「だって・・・・・・人の不幸を見て楽しいと思ったから」