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3.謎の能力?

「・・・・・・なぁ」

 

 時刻は現在21時を過ぎたところで仁は口を開けた。


「なんだよ?」


「どうすんだよ。出口にはゾンビがうじゃうじゃいるぞ」


 そう、今扉の向こうにはゾンビがたくさんいる。扉を開けようもんなら即座に噛まれて俺たちもゾンビになるだろう。それほどの量である。

 ゾンビが増えているのだろうか、扉のひしめく音が次第に大きくなっている。


「扉、壊れねえだろうな」


 仁が不安げに呟く。


「どうだろうな、壊れるかもな。幸い普通の扉に比べて分厚いからそれほど心配してなかったけど、さすがにまずいな」


 俺の言葉にみんなが恐怖する。


「ど、ど、どうすんだよ!」


 名も知らぬ一年生徒が怒鳴る。


「どーすっかな、いっそのこと扉開けてゾンビとやりあうか?」


「ひっっ」


 それ以降言葉を発しない。どうしようか。とりあえず食堂の周りを隅々まで確かめる。逃げ道はないのだろうか。とりあえず俺の考えを食堂の人達に伝えた。


「あの・・・・・・」


「ん?なにかな」


「あそこ、何とか入れるんじゃないですか?」


 指を指していたのでそこへ視線をやる。


「通気口・・・・・・だと・・・・・・」


 あまり広くはないが何とか人が入れるスペースはある。どこに繋がっているのかはわからないが、今は考えないようにしよう。


「狭いけどなんとか入れるな・・・・・・」


 仁が話す。その言葉に頷く人がほとんどだった。これで助かる、なんて思ったが全員が助かるわけではなかった。


「お、おら・・・・・・どうするんだよ」


 不安のせいか体型のせいなのか汗をダラダラと流れさせながら涙を拭っているデブがいた。


「おら・・・・・・そこに入れない。助けてくれ・・・・・・」


 必死に助けを乞う。みんなは申し訳ない顔をするが、自分の命が惜しいためか諦めろ、なんて無責任なことを言っている。


「う、うぐ、うぅ・・・・・・」


 デブは黙り込んだ。怖いだろう、ゾンビに喰われる恐怖、そのうえ生存者にまでこんなことを言われて。


「お前ら、黙れ」


 俺は静かに言った。


「もうお前らに頼ったりしねえ代わりに、助けたりしねえから行けよ」


 俺は何を言っているんだ。少しだまれ、俺。

 俺の思いとは裏腹に話をつづけた。


「俺はこいつとここに残る」


 言い切った。言い切ってしまった。突如、後悔が襲ってくる。もちろん、仁や他の人は「何を言っているんだ、来い」と止めてくれたが、一度断るとそれ以上は言ってこなかった。

 どうせ、赤の他人のことなどどうでもいいという人間の心理だろう。残るなんて言ったが、すごく怖い。とても怖い。

 

「そうかよ」


 仁は顔を俯けながら悔しそうな顔をした。俺は思った、偽物だ。心配しているフリをしているだけだ、と。俺は人の考えが大体わかる。昔から人の顔色を窺っていたからついた能力だ。

 

「じゃぁな」


 仁はそう言い残して通気口に入ろうとしていたが、天井が少し高いため、机を持っていこうとしていた。

 瞬間、ドアが開かれた。いや、開かれたわけじゃない、ゾンビによって割られた。


「なっ!?」


 全員が驚いた。通気口に逃げることもできない、出口にはゾンビが固まっている。絶体絶命の状況である。


「シャァァァァ」


 ゾンビは雄叫びを上げながら一人、また一人と喰いつく。次は俺の番か、今度こそ俺の番だ、と他人事のように考えていた。人々はこれを放心状態とでも呼ぶのだろうか。


「うぐ、あああああああああああああ」


 仁の叫び。仁は首だけでなく、顔や足、体全体を食べられていた。今まで喰われてきたどの人達よりも悲惨だった。顔は原型を留めておらず、肉が丸見えになっている。

 その悲惨な状態に俺は視線をそらす。そらした先には大量のゾンビがいた。


「ハハハハ」


 デブの声だ。何が面白いのだろう。気でも狂ったのだろうか。あれか、一人ぼっちじゃなくなったからか。こんな状況でも人のこと考える俺ってすごい。ハハハ。


「キシャアアアアアア」


 ゾンビは噛みつこうとしてきた。突然のことで体を動かすことができなかった。


「もう悔いはない・・・・・・」


 生きることを諦めた。噛まれて終わりだと思った。だが、そのゾンビは俺の真横にいた生存者に噛みついた。その後に何十体にも及ぶゾンビがそいつを襲った。そいつの名前はわからない。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 そいつは発狂していた。俺は噛まれていない。ゾンビ達は俺の存在に気づいていないかのようにこちらを見向きもしない。一体なぜ?


「や、やめろおおおおおお」


 デブが叫ぶ。まだ生きていたのか。


「た、助けてくれえ・・・・・・。田中さん・・・・・・。助けて・・・・・・」


 ゾンビに喰われながら助けを求めていた。正直、俺にそんなことはできない。なぜ俺は襲われないのかはわからないが、人助けをする気にはなれない。


「・・・・・・ごめん」


 ゾンビに襲われないことをいいことに食堂を飛び出した。

 後ろからはうめき声や俺を呼ぶ声が聞こえてきたが、振り返ったりはしなかった。


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