2.食堂
「食堂・・・・・・か」
一階の中では恐らく一番安全だろう。なぜなら、窓やガラスなどはなく出入り口が一つに限られるからだ。頑丈なドアなため、ゾンビたちは恐らくは入れないだろう。食堂に入ると俺以外にも先客がいたらしく、俺を合わせて十人程度がブルブルと端で震えていた。鍵、かけとけよ。
「や、やぁ」
俺は戸惑いながらも挨拶をした。
「あ、あぁ、こんにちは」
挨拶を返してくれた人は、見たことのない人だった。名札を確認する。恐らく三年生の人だ。どうやって見分けたかというと、名札の色である。
一年生は緑、二年生は黄、三年生は青、といった種類でわけられている。
「僕は、夏目仁、じんと呼んでくれ」
「俺は田中悠斗、どんな呼び方でも構わない」
わかった、と頷いてくれた。こんな状況でもきちんと挨拶ができるなんて良く育てられたものだ。まぁ、俺もだけど。
「えーっと、なんでこうなったんだ・・・・・・」
恐る恐る質問する。
「僕にはわからない。突然地震が起きて運動場に避難したら・・・・・・」
そこでしばしの沈黙。仁は続けて話した。
「そう、突然変な人が校舎内に入ってきたんだ。運動場に向かってきたから教員が止めに入ったんだ。そしたら・・・・・・その教員が喰われたんだよ」
やはり。噛まれたのだろう。噛まれると、ウイルスが感染するのだろうか、どれほどの時間でなるのだろう。俺には真実はわからない、推測するだけだ。
「そうですか。すいません、聞いちゃって」
「いや、いいよ・・・・・・」
思い出したくもないことを聞いてしまったんだ、体調も悪くなるだろう。
仁はそのまま床に寝転んでいた。
突如、扉がドンドンと叩かれた。
「あけてくれえええええええええええ」
何人の声だろうか。恐らく5人ほどいるだろう。
「待ってくれ」
仁はそう言って体を起こした。扉に向かって歩きだしていた。扉に手をかけた瞬間、悲鳴にもにた叫び声が扉の向こう側で聞こえた。
「うぎゃあああああああああああ」
ムシャムシャという効果音付きで。
「開けるな!!」
俺は怒鳴った。ビクっとする仁。もう間に合わないと悟ったのだろうか、俺に相槌をしてから元の場所へ戻った。
「もう無理だ・・・・・・」
「ここからは出られないんだ・・・・・・」
食堂の端で怯えきっている人達がブツブツと言っている。そりゃそう思うよな。唯一の出口である扉の外にはすぐにゾンビがいるんだ。出られるわけがない。
仁は困った顔をしながら、こう言った。
「いや、助けが来るかもしれない。警察が動いてくれるはずだよ。幸い、この人数でも一週間くらいの食糧ならあるし、水だってある」
みんなの顔がパァっと明るくなっていく。
だが、それは幻想にすぎない。希望にすぎない。
だから、否定した。
「そんなわけない。食料はある、でもな、助けなんか来るわけないだろ、ゾンビは考えられない速度で増え続けていた。人を喰い、ゾンビ化させていた。もうこの学校だってほとんどのやつがゾンビになったに違いない」
何を熱くなっているのだろうか。人々の希望をぶち壊してたのしいのか、俺は?じゃぁなぜ。そう、ただいらついたからだ。ありもしない、起こりもしない希望を語るやつらに。
「ゾンビ・・・・・・?君はあれをゾンビだというのか?」
「あぁ、それ以外にはないだろ」
恐怖で青ざめていくのが見て取れる。「ゾンビだと・・・・・・」と呟いている人が多くいる。「もう無理だ」という声もちらほら聞こえてきた。
「それより、一体なぜ、助けは来ないなんて思ったんだ?警察が来るはずだよ」
仁は俺に質問している。なぜって?もうわかりきってるよ。
「この部屋に、テレビあるだろ?テレビつけてみろよ。それと、電話もしてみろよ、回線が込み合って繋がらないはずだぜ」
俺の言葉通りテレビをつけた。
[ただいま、ゾンビと思われる人達が人を喰い――ザ―ザザ―キャァァァァ]
そこからテレビは繋がらなくなった。電話も思った通り繋がらなかった。
「ど、どうすんだよ」
その言葉に返す人はいなかった。夜になるまで俺たちは黙り込んでいた。