17.狂うこと
ちょっといつもと雰囲気違うと思う
恵が死んでからおよそ一日が経過した。俺はショックから完全に立ち直ることはできなかったが、生死がかかってるんだ、立ち直るしかない。謎のスマホに一度しか生き返らせることができないなんて情報は確認しても載っていなかったはずなのに、どうしてだろう。
「くっそ」
悔やむが後悔しても時すでに遅し、恵を床に寝かせて俺は警察署を出た。途中、ゾンビを何体か確認したが殺す気分ではなかった。すぐそばにゾンビが居たにも関わらず、気にせずノソノソと横を歩いた俺は勇者なのかもしれない。気づいたゾンビは俺を追いかけていたが、そんなペースでは追いつかれない。
「もう、俺も襲われるんだな・・・・・・」
まるで他人事のように呟き、事実を確認する。警察署を出て外をウロチョロしていると、ふとゾンビが目に入る。俺は音も立てず歩く特性があるため、音を頼りに動くゾンビには気づかれることが少ない。周りを見渡してみると、360度全方向にゾンビの生存が確認される。
ゾンビが増えていっているような感覚に襲われ気分が悪くなるが、もうどうだっていい。よくよく考えてみれば、俺は噛まれても恐らく生き返るだろうし、俺にはゾンビの力がある。人の限界というリミッターを超え、尋常でない力が出せるんだ、所謂チートってやつだろ?しかも回復速度がやばいときた、これならもう大丈夫だ。
「めぐみ・・・・・・」
気が付くと常に恵の名前を出している自分に嫌気がさし、頬をパンパンと叩く。その音に反応したゾンビが一斉にこちらへ向かっており、俺は走って逃げだした。
歩くと、ゴミ捨て場なのだろうか、群がるゴミをムシャクシャと食べている犬がいた。動物を最近見なかった俺はその犬に無意識のうちに見入っていた。数秒が経ってから犬は血だらけなことに気付く。別に不審な点なんかない。しかし。
「バイオハザードとかでは犬がゾンビかするなんてのがあったよな・・・・・・」
少しの可能性を考え、その場を後ずさる。音をたてずに行けば気づかれない、そんな甘い考えだった俺に、信じられないことが起こる。いや、信じられないではない、信じたくないことだった。
通常、犬というのは人間の聴力の四倍はあると言われている。四倍と聞くと、そんなにないのかと思われるかもしれないが、人間だって聴力が悪いわけではない。ましてや四倍など、人間には未知の世界であり、聞こえないだろうと思っていた俺の後ずさる音はしっかり聞こえたみたいだ。
だって。俺の方を向いているから。
「いや、ごみ食っとけよ・・・・・・」
額に汗を滲ませながらしょうもないことを呟く。犬の目は赤く光って入り、普通の犬ではないと感じた。
ゾンビ化している・・・・・・。
突然犬がこちらに走りだし、「グガア」と犬らしくない吠え方で噛みつこうとしてくる。
「くっ」
反応は遅れたが避けられた。俺ポケットからハンドガンを二丁取り出し、両手装備をして犬へと銃口を向ける。
「ふっ」
ドンドンと放たれる鉛玉は狙った通りにまっすぐ進むが、犬に当てるのは至難の業だった。小さく、動きが素早い、こんな悪条件の揃った生き物がいるだろうか、いるけど。
「グガァワンッ」
ゾンビや犬の混ざったような吠え方をする犬に恐怖を覚え、無我夢中で乱射する。弾が底を尽きれば犬の攻撃を避けながら補充、そんな動作を繰り返すが無駄だとは思っていた。
「くそっ」
ドンと音をたてる銃に当然反応してくるゾンビ達がいつのまにか俺と犬を囲んでいた。正直、絶体絶命である。
「どうすんだよこれ」
ゾンビ達は囲む者の、一歩たりとも俺の方へと向かってこない。
どうしたんだ?
不審に思うが犬のこともあるのであまり考え事はできない。
「ワンッガガ」
謎の鳴き声の犬が俺の方へと飛びつき、口を大きく開けて噛もうとしてくる。俺は無意識で、マガジンを一瞬で代え、一丁の銃を両手で持つようにして引き金を引いた。
ドン
放たれた弾は犬の口へ入り通り抜ける。犬は最期に「キャンッ」と吠えて動かなくなった。瞬間、一斉にゾンビ達は俺の方へと歩み寄る。
なぜだ—。
およそ百体はくだらんだろう数でジワリジワリと詰め寄られると、逃げられる気がしない。諦めるのが先決なのかもしれない、だが、足掻いてみるのも悪くない。そんな考えで俺は暴れた。狂ったように。さーさー狂ったように、踊りましょう♪そんな歌が脳内で再生され、非常に気持ちがよかった。
「一体、何体居るんだ」
殺しても殺しても減らないゾンビ。抜け出せる気がしないと感じた。でも、足掻く、足掻き続ける。もう俺には守るべきものなんてないし、正直死んでもいいと思っている。俺がここまで生きてこれたのは恵のおかげだったといっても過言ではないだろう。それほどまでに恵の死はショックだった。
「多すぎるっ」
殴ったり蹴ったりを繰り返す俺の手は真っ赤に染まり、血が噴き出している。ゾンビを殺した時の返り血で体全身真っ赤な血の色になっているだろう、もう俺は狂った殺人鬼だ。
目からは赤色の涙が流れていたことに俺は気づいていた。