12.ゾンビの進化
俺は今鼻血を流している。なぜかは知らないが恵に殴られたからだ。そりゃあしょうがないだろう、俺だって健全な男子高校生なんだ。恵だってそういうことに少なからず興味はあっただろうに。
「エロい目で見ないでください。それより、説明してもらってもいいですか?」
「面倒」
間髪入れずに拒否すると恵は俺を睨む。そそそそ、そんなことでびびび、びびるわけ・・・・・・。
「コホン、五万円でお前を生き返らせた」
「はい?言ってる意味がわかりません」
そりゃ当然だわな。俺だってそんなこと言われたら何言ってんのこいつって思うし。てか俺、恵にビビってるわ・・・・・・。
今までの経緯を大体教え、力ずくで納得してもらった。
「えっと、要するに、その赤いスマホで私が生き返ったと。そうですか、とりあえず信じておきますね」
「ありがとう」
明らかに信じていないって目をしていたが信じてもらわないと困る。あ、言い忘れてたけど恵は俺の上着とか来てるから裸じゃないよ。
「あと、恵。ここ、男子トイレ・・・・・・」
「は?え、あっ」
気づき、大急ぎでトイレから抜け出す。ここはゾンビは侵入しない。何者かに家具がどかされていなければ。そんな大それたことをするやつがいないだろうと高を括り、安堵する。
「キ、キャアアア」
何が起こったのだろうか、恵の悲鳴が聞こえた気がする。俺は急いで恵の方へ向かう。トイレを出ると、ゾンビが恵の方へと歩み寄っていた。恵はその場に座り込んでいて動けないようだ。
「ゆ、ゆうとさんっ!」
数は十体。いや、二十体?違う、四十はいる。恵の周りには幸いなことに十体しかいないが、残り三十体も確実にこちらへと向かっている。猛ダッシュで恵の方へと走り、ゾンビへとタックルする。俺の猛ダッシュは異常なほどに早かった。恐らく、五十メートル二秒とかそんなレベルだと思う。ゾンビの力なのか、リミッターが外されてけた違いなようだ。
「ブシャアアア」
タックルされたゾンビは叫び声をあげながら飛ばされる。タックルしただけだというのに動く気配はなかった。
「余裕!」
自分の力に酔いしれ、ゾンビを蹴る、殴る、蹴るの繰り返しで倒していく。一瞬の内に十体のゾンビは俺によって殺される。
「ゆ、ゆうと・・・・・・さん。す、すごいです」
褒めてくれたが、恐怖の顔だった。恵は俺に怯えている、そう感じた。
「とりあえず、逃げるぞ!」
恵の手を掴み、二階へと下がる。何者かによって三階へ行かせないための家具はどかされていたらしい。ゾンビはそこから侵入してレストランを襲い、襲われた人達もゾンビとなって登場したようだ。
「まてよ・・・・・・」
俺の脳裏に何かがよぎった。おかしい、待て。考えるんだ・・・・・・。
「ゆうとさん・・・・・・ゾンビ、歩くスピードとか速くなってないですか?」
その言葉に何かが引っかかった。何かが思い浮かんできそうなのだが。
「いえ、気のせいでした」
恵はばつの悪そうな顔をして謝る。もう少しで何かが出てくる。
そのとき、頭の中で全てがつながった。
「そうだ!」
恵はばっと顔を向ける。何、といった顔だ。
「ゾンビは進化していっているんだ。俺の前までのゾンビのデータでは、階段は昇れなかったはずだ。なのに、今では階段を昇って上の階へと侵入してきている。これは・・・・・・やばいぞ」
確信した。ゾンビは進化していると。俺も薄々感じてはいたんだ。ゾンビのスピードが速くなってきていると。ただ、確証が持てなかったのは、俺は襲われない、安全を約束されていたから、そんな理由だ。実際に襲われてみないとわかるものではない。
「そ、そんな・・・・・・どうすれば!!」
「・・・・・・とりあえず、出よう」
二階から一階へ降り、イオンの外へと出た。