スープとオムライスとチャチャボ
外から鳥の鳴き声が聞こえる中、目の前の食事に舌鼓をうつミリア。その顔はとても幸せそうで頬に手をあてうっとりしている。
メニューはスープとオムライス。飛びぬけて豪華な食事ではないが、どれも今朝採れたばかりの材料を使われていた。
「ふふっ、とても美味しいですね。」
「ああ、良かったな。」
「はい! ばあやの作る料理も素朴で優しい味でしたが……こういうのも好きです。」
スプーンに掬い、一口、また一口と食べる。
そんな食事の団欒にコンコンとノックの音が響いた。
ミリアはその音に慌てて口の中をモグモグし喉に通す。そんな姿の彼女にバズは呆れつつも、代わりに返事をした。
「誰だ?」
「はい、この宿屋の者です。失礼しても良いですかな?」
「ん……だ、大丈夫ですよ。どうぞ。」
コップの水を飲み干し、ミリアが入室の許可を出した。その言葉に部屋の扉が軋む音を立てて開かれた。
中から現れたのは、老婆と若い男性だった。二人は室内へと入ると深々と頭を下げていた。最初に言葉を発したのは老婆だった。
「……星の巫女様にお泊り頂けて、なんと感謝をしたら良いでしょうか。」
「そ、そんな! お顔をあげてください。わたくしなんてそんな。」
「そうだぜ、婆さん。むしろコイツの足が治るまで面倒見てくれて、こっちが助かってるくらいだぜ。」
「そうです。それに今日の食事が美味しくて……卵なんて絶品です!」
グッと力強く手のひらを握り締め、瞳を輝かせるミリアの姿にバズは吹き出した。そんな彼の行動にミリアは顔を赤くして狼狽える。
「なっ、何かおかしな事、言いましたか?!」
「いや、別に……くくっ、でも確かに卵、旨かったな。」
「ありがとうございます。今朝一番に採れたチャチャボの卵を使ったんですよ。巫女様に喜んで貰いたくて。」
男性がそう告げるとミリアとバズの二人は窓の外を見る。
そこには数羽の鳥が仲良く餌を突いていた。その姿にバズは問い掛けた。
「あの鳥か。なぁ、後で見せてもらってもいいか?」
「ええ、僕は構いませんが……。」
「ほっほっ、私も構いませんじゃ。巫女様方に見てもらえるなら喜びましょう。」
嬉しそうな老婆の言葉にバズは「サンキュ。」と、礼を述べていた。
それから少し談笑をすると二人は「ごゆっくり。」そう告げ部屋を離れた。
ミリアは食べかけの食事を口に運びながらも疑問が抜けなかった。そのため、彼へ問いかけた。
「バズさまは鳥が好きなのですね?」
「ん、なんでだ?」
「だって、見たいと仰っていましたから。」
「ああ、それか。ミリアが退屈だと思ったからな。そこまでなら足にも負担かからないだろ。」
そう笑うバズにミリアは小さく頷いた。
足の治っていない彼女を気遣う彼の言葉に感謝し、食事を終えると二人は鳥小屋へと訪れた。
そこには先程の男性が鳥たちの世話をしていて、二人に気が付くと帽子を外し、小さく頭を下げた。
「本当に来てくれたんですね。どうぞ、満足するまで見てください。」
「ありがとうございます……わぁ、雛もいます。可愛いですね。」
親鳥と仲良く戯れる雛を見て、ミリアは笑みを浮かべる。だが、隅の方で蹲る雛を視界に入れると、彼女は心配して傍へ近寄る。
ミリアの足音に雛はビクリと毛を逆立て、遠くに離れた。それでも、優しい声で雛に語り掛けるミリア。
警戒する雛は近寄らない。そんな一人と一羽を見てバズは雛を掴んだ。
「何してんだ? ほら、触りたいんだろ。」
「ば、バズさま! 雛が嫌がって……あら?」
ミリアは不思議そうな顔をする。それもそのはず、先程まで逃げていた雛はバズの手の中で、のほほんとくつろいでいる。
その姿を見た男性は驚いていた。
「チャボ、この子が懐くなんて……何かされたんですか?」
「いや、俺はなにも……返すぜ?」
バズがチャボと呼ばれた雛を男性に渡すと雛は鳴きながら手から降り、また隅でじっとしていた。
それを見て男性は一つ溜め息を吐いた。
「あの子は誰にも懐かないんですよ。餌も残りを食べるので、ちゃんと大きくなれるか不安なんです。」
「そうなのですか……それは心配ですね。」
「はい、でもバズさんには懐いておられる。巫女様方、お願いがあるのです。この子を連れて行ってはもらえませんか?」
雛を心配そうに見つめる男性の言葉に二人は顔を見合わせた。
そして頷くと出した答えはイエスだった。
「わかりました。わたくしたちで大丈夫であれば預かりましょう。」
「ま、大きくなれず死なれちゃ堪らねぇからな。」
「あ、ありがとうございます! 世話の仕方などは紙にまとめておきますので。」
安心し胸を撫でおろす男性。バズは雛に手を差し出すとトコトコと歩き、手のひらの上に座った。
その行動にミリアは微笑みを浮かべ、男性から雛の餌を受け取ると、二人と一羽は部屋へと戻って行ったのだった。