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04

「ウォル、ター様……? ウォルター様ァァァァ!」


 崩れ落ちたウォルターに、メモリアが悲鳴のように名前を呼ぶ。


「ぐ……まだ、だ……まだ、俺は……」


 血に塗れた身体を起こそうとするが、震える手足は言う事を聞かず、抉られた脇腹からは大量の血液が流れ出て行く。


「……やめておけ、その身体ではもう戦えんよ。よくぞ壊れた身体でここまで耐えられたものだ……同じ痛みを知る者として尊敬の念を禁じえないよ。欲を言えば万全のお前とやり合いたかったが……まあ、何度やっても同じか。力の差が勝敗を決した訳ではないのだからな」

「万全じゃない、ってどういう……!」

「知らなかったのか、白いの? ウォルンタースの全身の経路はボロボロだぞ。俺も人の事は言えんが、こうなれば常人の半分も生きられん。肉体を介して天道術を使う者の宿命だ」

(そんな……! それじゃあ、睡眠時間を削るためにあんな無茶な事までしてたのは……少しでも自分の残り時間を伸ばすため……?)

「卑怯者! あなたは卑怯です! ウォルター様に勝てないからって、私達を狙うなんて!」

「わかっていないな。戦いとは、その場、その時、その状況、全てを活用して命を奪い合うものだ。お前を指して『人質』と言った時点で、ウォルンタースの不利は決まっていたんだよ」


 メモリアを『荷物』と呼んだ時の激昂をフルカは見抜いていた。それは、裏を返せばメモリアが『物』ではないと――――『人質』足り得るという事になる。その弱みをフルカは見逃さなかった。本来かわせた大技を、メモリアを守るために盾にならざるを得なかった。


「いくら稀少とはいえ、ホムンクルスのために命を捨てるとは……呆気ない幕切れだったな」

「ぐっ……!」


 動けないウォルンタースの肩をふみつける。


(違う……! 稀少とかそんな理由じゃない! ウォルターさんがメモリアを守ったのは、メモリアが自分の娘だから……! たとえ誰にも理解されなくても、自分の娘だと思っているから……だから命がけで守ったんだ! それを――――!)

「俺の……命は、くれてやる……だから、メモリアとイオリは解放して、やってくれ……『哲学者の石』は、もう……存在しない……こいつらは……無関係、だ……」


 ウォルターを足蹴にしたまま、フルカは残念そうにため息をついた。


「それを決めるのは俺じゃないんでな……悪いが、人型の方はミネルヴァにつれていく。『哲学者の石』の回収は無理かもしれんが、女型なら色々と使い道はあるだろう。面白い子を宿す可能性もあるし、そうでなくても『哲学者の石』を素材にしているんだ……標本にするだけでも価値はあるんじゃないか?」

(――――――――……るな)

「貴、様……ッ……!」

「やれやれ……自分の決断の結果だろうが。俺に文句を言うのは筋違いだ」

(――――……ざけるな)


 呆れ顔を浮かべながら、ゆっくりと手刀を頭上にかかげる。


「恨むなら、ホムンクルスの希少さに目がくらんだ、己の愚かさを恨むんだな――――!」

(――ふざけるなァァ!)


 断首の手刀が振り下ろされる寸前、伊織からまばゆい閃光が放出された。それを契機に数え切れない数の魔法陣が伊織の周囲に展開されていく。


 危険を察したフルカは飛び退き、伊織達から距離を取って身構えた。


「なんだ、これは……まさか、封印の一種か!? 膨大な天道術が編み上げられている!?」


 今まであるかないかというレベルだった伊織の天道術の気配が凄まじい勢いでその密度を増していく。その上昇率は十倍、二十倍、などという生易しいものではない。十乗、二十乗、三十乗、既に『魔人』の能力でも知覚しきれなくなっている。


(いや、待て……そうだ、こいつには何か引っ掛かっていたんだ……何かおかしいと――――)


 さっきメモリアを渡す時に感じた違和感。あの正体は何だったか。あの時はどうでも良い事だと切り捨てたが、この状況はただ事ではない。今度は記憶を辿り考察する。


 ――――気をつけて、メモリア! その男は普通じゃない! イオリくん、あなたは下がりなさい!


 ――――駄目だ、イオリくん! 君は下がっているんだ!


(そうだ……フィードゥキアとグラティアだ……! あいつらはこいつをまるで『人間』のように呼び、『人間』のように扱っていた……おい、ちょっと待て……まさか、『哲学者の石』で精製したホムンクルスとは――――!)


 白いマネキンのようだった身体が肌色を帯びていく。

 吹き飛んだ下半身は再生し、肉体とは別に黒いズボンと皮靴を構築している。

 指や関節が人のものへと変化し、白いシャツが構築され、細身の肉体を覆う。

 鴉の濡れ羽のような黒い髪、理知的な黒い瞳、学生服の上からローブを纏った少年。


 白石伊織という本来の姿を取り戻し、激しい怒りを込めた眼差しでフルカを睨みつけていた。





 伊織が羽織っていたローブを脱ぎ、足元に横たえる。


「なんだ? 中身は地上人のガキか……? まあ、この際何でも良い! 俺を楽しませてくれるなら――――!」


 一瞬で間合いを詰めた伊織の拳がフルカの顔面に打ち込まれていた。ミシリと頭蓋骨が軋む感触が拳に伝わり、フルカが吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


「ガッ……!? 何、が……――――!?」

「ふざけるな……!」

「ガハァッ!?」

(速い……ッ!? 俺以上の踏み込みの速さだと!?)


 またも一瞬で間合いを詰めた伊織の拳が腹を打ち抜き、フルカの身体がくの字に曲がる。


「――――お前、面白いぞ! ――フッ!」


 首筋を狙い振り抜いた手刀は空を切った。まるで前もって知っていたように、伊織は最小限の動きでそれをかわしていた。


「ふざけるなよ……!」


 反撃の左右の拳をまともにくらい、フルカの頭部が振り子のように激しく揺さぶられる。


(なんだ、これは……!? 未来が読めん……! どうなっている!?)

「アルターリアさんを傷つけて――――!」


 回避する動きを予測していたのか、逆方向から伊織の拳が打ち込まれる。自分から攻撃に飛び込む形になり、威力が倍増した一撃がフルカに叩き込まれた。


「フィードさんとグラティアさんの屋敷を壊して―――――!」


 移動に専念し、壁際から抜けだしてもすぐにそれ以上の速度で間合いを詰められてしまう。防御の隙間を突き、打撃が的確にフルカの身体を打ち抜いていく。


「ウォルターさんを殺そうとして――――!」


 突き上げた伊織の拳がフルカの顎を大きくはね上げた。


「メモリアを物扱いして、あまつさえ傷つけて――――!」


 左右から打ち込んだ拳が肋骨を砕き、内臓まで浸透するダメージを与える。


「それの何が楽しい! 何が面白い! こんな、誰かを傷つけるだけの暴力に――――いったい何の意味があるって言うんだ! ふざけんなァァァァァーーッ!」


 血を吐くような、全てを振り絞る叫び。全力で打ち抜いた拳をまともに食らい、吹き飛ばされたフルカが地面を転がっていった。





「すごい……! あれがイオリくんの本当の姿……?」

「理論上はわかっていたんだが……ハハ、実際に目にするとなかなか信じ難いな……」


 伊織の身体は超高密度のエーテルによって構成され、ウォルターが知る限りの天道術を片っ端から編み込んである。その中にはフルカが使用している身体強化や未来予測も含まれていた。


 激しい怒りによって解除されたリミッターは格闘に関する天道術を超高出力で展開し、伊織の戦闘力を『魔人』であるフルカ以上の領域に押し上げている。


「ハァ……ハァ……! ゴボッ! ガハッ、ガハッ! ああ……やってくれるじゃないか」


 血を吐きながら、ゆらりと揺らめくようにフルカが立ち上がる。常人なら致命傷になるほどのダメージを受けた筈だが、すでに傷の復元は終わっている。気管にたまった血を吐き終えると、何事もなかったかのように口元を拭う。


「何の事は無い、単純な話だ……お前の使う身体強化と未来予測の天道術が、俺のものより遥かに強力だった……だから逆に俺が先読みされ、一方的に打ち負けた……ただそれだけの話だ」

「僕も理屈は知らない。でも、そっちの動きは全部わかる。これ以上やっても同じ事の繰り返しだ……わかったらここから消えてくれ」

「なんだ、もう勝ったつもりか? スペックで上回ればそこで決着がつくと? もしそう思っているのなら、それは随分と浅い考えだ――――ぞッ!」


 一気に間合いを詰めたフルカが拳を突き入れる。


(わかる……一瞬先の相手がどう動くのか……! 攻撃をかわしつつ、ガラ空きの方向から!)


 未来予測の動きに従い、拳をかわしざまにカウンターを合わせ――――


(やはりそう来たか……天道術の出力は上だが、その動きは素人そのものだ……! わかりやす過ぎるぞ!)

「……え?」


 カウンターは完全に成功した。だが、フルカはそれを見切り、食らう瞬間に身体強化を集中して伊織の攻撃に踏みとどまっていた。


 そして、未来予測は自分で手を出した瞬間それまでの因果が変更され予測できなくなる。自身もハイレベルの未来予測の使い手であるフルカは、未来予測の破り方にも精通しているのだ。


「捉えたぞ……!」


 固まっていた伊織の腕を掴む。


「――――うわっ!?」


 まるで合気道の演武の如く、伊織が宙を舞い床に叩きつけられた。相手は闘争を研究する戦道士。打撃だけでなく組み技にも精通している。そして、当然ながら寝技にも。


 背後からチョークスリーパーのように左腕を回し、相手の首を引き寄せるように傾ける。そして開いた首筋には右の掌を押し当てた。


「――……フンッ!」


 中国拳法の発勁にも似た、密着状態から内部に衝撃をとおす技法。鈍い音をたて、伊織の頸椎は完全に破壊された。


 勝負は決したかに見えたが、ミシミシと何かが軋む音が漏れ聞こえる。


「ちぃ……粉砕された頸椎を即座に再生するか……! 復元術も俺と同等かそれ以上……!」


 首にまわされたフルカの左腕を伊織が掴んでいる。ただ掴んでいるだけではない。身体強化を集中し、肉も骨も握りつぶさんとしていた。


「ここまで出力に差があるなら密着状態はむしろ不利か……!」


 肉が削られるのも構わず無理やり引き剥がし、フルカはすぐさま距離を取った。


「ゴボッ……! ゼェ……ハァ……」


 血を吐きながら伊織も立ち上がるが、既にその首は完全に復元されている。


「クハハハハハッ! 素晴らしいぞ、ホムンクルス! 『哲学者の石』を使っただけの事はある! 『魔人』の俺が接近戦で後れを取るとは、考えもしなかった!」


 再び距離を詰めたフルカが拳を放ち、未来を予測した伊織がそれをかわす――――


「――ぐっ!?」


 かわす動きに合わせて逆の拳が脇腹に打ち込まれていた。かわす動きも自分で選択した行動のため、因果を歪め未来予測をキャンセルしてしまう。つまり、初撃は完全に見切れるが、それ以降はもはや因果の測定の及ぶ領域ではない。


 確かに伊織は超越した天道術をその身に秘めるが、格闘という分野においては素人同然だ。天道術によって超強化され、性能スペックこそ大きく上回っているが、虚実織り交ぜたフルカの卓越した戦闘技術はそれに迫る域にある。


(だったら――――!)


 相手の攻撃はかわさない。殴られたならそれ以上に殴り返す。


(そうだ! 小細工など捨ててしまえ! 全身全霊で殺し合う、それこそが『戦い』だ!)


 あまりに原始的だが、超絶した身体能力と復元能力を持つ二人には小手先の技など必要ない。ひたすら相手を削り、先にエーテル枯渇に陥り天道術を使えなくなった方が敗北する――――もはやそれ以外に決着はありえなかった。





「ク、クク……どうしたホムンクルス! それで終わりじゃないだろう! お前の力はそんなモノじゃないだろう! 全部見せろ! お前の全てを俺に見せろォォォォ!」


 フルカの拳をまともに受け、伊織が大きくのけぞった。


「ハァ……ハァ……ハァ……!」


 伊織は荒い息を整えながら距離を取る。


「マズい、な……」

「ウォルター様、しゃべらないでください! 傷にさわります!」

「あいつらほどじゃないが、俺も回復術は使える……まだ動けそうにないが、出血は止まった。それより、問題はイオリだ……」

「問題、ですか? イオリくんが優勢に見えますが……」


 フルカの左腕は力なく垂れ下がり、傷の復元も目に見えて遅くなっている。

 対する伊織は息切れこそしているが、その身体能力も復元能力も全く衰えていない。


「『哲学者の石』の……イオリのエーテル量は測定不能の領域にある……いくら『魔人』といえど……人の身で渡りあえるものじゃない……消耗戦など、そもそも成り立たない……」

「え、でも……それならイオリくんの勝ちという事では……?」

「問題は……イオリは天道術を無意識に発動させている事だ……それ故その出力は感情に大きく左右される……もしも、『魔人』の出力を下回るような事になれば……戦闘経験の乏しいイオリに勝ち目は無い……」

「ですが……イオリくんが敵に手心を加える理由はないと思うのですが……」

「だと良いんだがな……」


 案じるウォルターとは裏腹に、消耗したフルカは膝をつく寸前だった。


「ハァ……ハァ……もう、良いでしょう。あなたの負けだ……!」

「なら……何故手を休める? 好機と思うなら攻めれば良いのだ! このようになァ!」

「くっ……!」


 音速の貫手をかわしそこね、伊織の頬が切り裂かれる。衰える復元力とは反対にフルカの攻撃は鋭さを増す一方だ。


「ハハハハハッ! どうした! 未来予測の精度が落ちてるんじゃないか!? まだ勝負はついていないぞ、ホムンクルス! ――――ゴボッ! ガハァッ!」


 ついに復元が追いつかなくなったのだろう、フルカが大量の血を吐いた。


「これ以上やれば本当に死にますよ!」

「死ぬ……?」

「どう見ても限界でしょう! これ以上の戦いに何の意味が――――!」

「それがどうした! 敗者が死ぬのは当然だ! 『戦い』とは命の奪い合い、その敗者が賭け金を支払うだけの事! そうでなければならない! それが戦場のルールだ!」


 腹部への蹴りをまともにくらい、伊織が血を吐き先に膝をついた。骨が砕け、内臓もズタズタになっているというのに、フルカの攻撃は更に鋭さを増している。


「どうした、ホムンクルス! そんなものか!? 最初の勢いはどうした!? まだまだやれる筈だ! 死力を尽くせよォォ!!」


 膝をつく伊織に連続で蹴りを見舞い、とどめとばかりに大きく蹴りあげた。


「ガ、ハッ……!」

「イオリくん、しっかり!」


 すぐ傍まで吹き飛ばされてきた伊織にメモリアが手を伸ばす。

 傷だらけの伊織の顔に手を添えるが、傷は一向に復元する気配が無い。


(やはり……! 身体能力と復元力が落ちている……恐らく、未来予測も同様だろう……)

「立てるか、イオリ?」

「う、ぐ……はい、なんとか……」


 口元を拭い、鉛のように重い身体をどうにか起こす。さっきまでの、まさに飛ぶように動けた身体とはまるで違っている。


「……自分の身体の変調には気付いているな?」

「はい……急に身体が重く……すいません、僕しか動けないのに……」

「……気にするな、お前は優しいやつだ。だから、恐らくこうなるだろうと思っていた」

「え……?」

「もう少しで俺も動けるようになる。それまで時間を稼げるか? 後始末は……俺がつける」

「――――ッ!」


 ウォルターは言葉を濁しているが、伊織は理解した。


 これ以上やればフルカが死ぬと認識してしまったから身体が動かないのだ。どれだけ許せない相手であっても、命を奪う事は正当化できない。理論や理屈ではなく、伊織の根本の価値観がそうなっていた。それが無意識に天道術の出力を弱め、今の弱体化を招いてしまった。


 そして、伊織に出来ないのであれば自分がやる。ウォルターはそう言っているのだ。


「二対一か? 良いねぇ、大いに結構! 多勢を相手にするもまた一興! だが、弱った兵から仕留めるのも戦の常道だ!」

「やらせない!」


 ウォルター達に襲いかかろうとしたフルカを正面から掴んで押しとどめる。


「僕は……殺したくないし、殺させたくない! 引いて下さい! お願いですから!」

「そうか! だったらお前が死ぬか、一人でこの場から立ち去るんだな! それから残った俺とウォルンタースで決着をつける! どうする、ホムンクルス! 理解したならさっさと――――ゴボッ! ゴハッ!」


 またもフルカは大量の血を吐き、伊織の胸元が返り血で赤く染まる。


「もう限界じゃないですか! それ以上動けば本当に――――!」

「戦場の死こそ我が誉れ! これこそが俺の待ち望んだ瞬間だ!」

「――――ッ! ……こ、の……馬鹿野郎ォォォォ!」


 思い切り打ち抜いた伊織の拳がフルカを殴り飛ばしていた。









「ハァー……ハァ……ゴボッ! ガハッ、ガハッ! ……ゼェ……ゼェ……」


 フルカは膝をつき、立ち上がる力さえ既にない。だというのにその両の眼は爛々と輝き狂気に満ちている。体力が戻ればすぐに立ち上がり、再び牙をむくつもりなのだ。


「……きっとあなたは死ぬまで戦う事をやめないんでしょう……そして、死んだら死んだで、それで満足なんでしょう……」

「ああ、その通りだとも……! わかったなら続きをやろうぜホムンクルス……この程度のダメージ……すぐに回復するぞ……!」

「――――お断りします」

「ああッ!?」


 伊織は戦闘前に脱いだローブを拾い上げた。


「つまり、勝っても負けても満足するんでしょう? たくさんの人を傷つけて、壊して、それで独り満足しようだなんて……そんな都合の良い話は許さない」

「ククッ……ならどうするんだ? この期に及んで話し合いで解決するとでも? 不可能だな! 対話など、片方が拒否すれば成立しない!」

「そうですね……だから――――」

「ぬッ……!?」


 ローブの懐から取り出した『シリンダー』をフルカに押し当てた。


「消えて下さい。この世界から」


 『筒』の中の天道術が作動し、フルカを包み込むように立体型の魔法陣が展開される。


「な、んだこれは……!? この術式、まさか転送陣か!? 馬鹿な! 転送陣はゲート以外に存在しない筈ッ!」

「さようなら。あなたの顔はもう見たくない」


 魔法陣の内側に光があふれ、徐々にフルカの姿が飲み込まれていく。


「待てッ! ふざけるなァ! 認めんぞ、こんな決着! 命を奪わずに何が『戦い』か! かかってこい、ホムンクルゥゥゥゥス! こんな結末など、俺は絶対に認め――――!」


 ――――パシュン!


 一際強い閃光が放たれた。瞬間、フルカの姿は跡形もなく消失していた。


「…………あーあ、やっちゃった」


 空になった『筒』を握り締め、伊織が天を仰ぐ。


 取り返しのつかない事をしたとわかっていたが、その晴れやかな表情に悔いはなかった。


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