~第六章~
「まさか、セラフィナイト殿! 貴方は陛下の事を……?」
「……っ!」
「やはり、そうだったんですね! 普段は沈着冷静な貴方が、陛下の御事となると冷静さを失われる……。陛下への思い入れが主従の域を超えているのではないかと思っていました」
(だから、なのか? だから、陛下はセラフィナイト殿を遠ざけられたのか? セラフィナイト殿を護る為にっ!?)
「しかし、それは危険だ! セラフィナイト殿、“友”として忠告します! 貴方の陛下への想いが、もし周囲に知られるような事になったら、陛下が何と仰られようと、周りが貴方の存在を許さないでしょう! 貴方の事を評価して下さっているエルンスタイト様でさえ、例外ではありません!」
(セラフィナイト殿がシューレンベルグを継ぐ事は、公にはコスモクロア公の推薦を陛下が承認された事になっていると聞いた。しかしあの時、西の回廊でのコスモクロア公のお言葉、あれからはそんな印象を受けなかった。多分、陛下はご自分がセラフィナイト殿を特別扱いした訳ではないと周りに印象づける為にあんな方法を採られたのだ。陛下の御意図は、セラフィナイト殿を遠ざける事。側近から外す……という一点のみの筈。けれど、セラフィナイト殿の今後を考えられて伯爵位を与えられた。それほど陛下は、貴方の事を大切に思われているのですよ!)
「貴方はこの度の事で、貴方を推挙して下さったエルンスタイト様のお顔に泥を塗った事になります。勿論、陛下のお顔にもです!」
「そんな事は分かっています」
(分かっている? ……そうですね。多分、こんな私でも分かる事を聡明な貴方が分からない筈はない。それでも貴方は、陛下のお傍に居たかった。 それほど陛下を想われている。そういう事なのですね)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シュレキンゲルから帰還したクロサイトはその足で王宮を訪れた。
シュレキンゲルでの任務はシェルから直接言い渡された命ではなかったが、それはシェルの指示だとクロサイトは思っていた。
その任務は四天王である自分が直接赴かなければならないほどのものではなかった。
それでも四天王を行かせた理由。
意図はきっと別にある!
(陛下は決して表には出されないが、セラフィナイト殿の事を気にかけていらっしゃる筈だ。一刻も早く、セラフィナイト殿の事を陛下にお伝えしなければ!)
クロサイトはそう思っていた。
だが、クロサイトがシェルに伝えた事はセラフィナイトとの会話の内容ではなかった。
「陛下。子孫が絶えて長い間放置されていたシューレンベルグ家を立て直す為にセラフィナイト殿は献身されておられます。ただ、それが昼夜を問わず……な感じらしく、このままではお身体を壊すのではないかと家中の者が案じておりました」
それはシューレンベルグ家を辞する直前に、シューレンベルグ家に仕える者から聞いた事だった。
(これだけお伝えすれば、それで陛下には全てが解られる筈だ!)
「そうか」
シェルは顔色一つ変えずにそう言った。
「……っ……!?」
(それだけ、なのですか?)
その言葉が口をついて出そうになるのをクロサイトは押し止めた。
「クロサイト、俺はこれから遠乗りに出る。帰りは少し遅くなるかもしれないが、心配するなと皆に伝えてくれ。供は必要ない!」
突然のシェルの言葉に一瞬クロサイトは戸惑った。
(やはり、行かれるのですね。セラフィナイト殿、貴方は本当に幸せな方だ。私は貴方が心底、羨ましい!)