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~最終章~

(ベッドの上でまともに眠ったのは久しぶりだな)


 目が覚めた時、セラフィナイトはそう思った。

 ふと気がつくと、傍らで眠っていた筈のシェルが居ない。

 セラフィナイトはシェルを捜そうとガウンを羽織って起き上がろうとした、ちょうどその時!

 ベランダに通じるガラス扉が開いた。



      挿絵(By みてみん)



 それ以上の言葉は出てこない。

 セラフィナイトは呆然とシェルを見つめていた。


 ノンマルタスの都を覆うドームを通して垣間見える海の色は漆黒の闇。

 初めて地上の海を見た時、シェルの碧い髪は海の碧を体現しているのだ……とセラフィナイトは思った。


(でも、貴方の髪は空の碧でもあるのですね)


 都の空は地上の空を再現しただけの人工の碧にすぎない。

 それでもセラフィナイトは、そう思った。

 それほど、シェルの髪は空の碧と光に溶け込んで透き通るように美しかった。

 しかし、それ以上にその時のシェルは、今までセラフィナイトが見た事のない、穏やかで優しい瞳をしていた。


 シェルの瞳は心を映し出す鏡。

 その鏡には何時も深い哀しみの色が宿っていた。

 シェルの哀しみが全て払拭された訳ではないのだろうが、そんな穏やかな瞳にさせたのが、もし自分であったならこれ以上の幸福はない。

 そうであって欲しいとセラフィナイトは願わずにはいられなかった。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「俺は一度、城に帰って来る。職務放棄して来たからな。今頃、ジェムシリカとクリソコラは天手古舞してる筈だ」

「シェルタイト様……」

「何だ?」

「シューレンベルグの事なんですが……」


 言うべきか否か?

 ずっと悩んでいたが、セラフィナイトは意を決してその件を口に出した。


「セラフィナイト。その決定は覆さないと言った筈だ」

「シェルタイト様っ!?」

「シャモス一族の力は大きいが、王族や大貴族たちには通用しない。シューレンベルグ家と伯爵位は、お前の後ろ盾になる。お前には必要なんだ」

「しかし、それでは貴方のお傍にはっ!」


「お前を今直ぐ、俺の側近に戻すのは不可能だ。そうするには、周りを納得させるだけの理由が要る。俺の権限でお前を側近に戻せば、お前への風当たりが強くなる。それだけは避けたい!」

「そんな事は構いません! 私は貴方のお傍にさえ居られれば……」


「焦るな、セラフィナイト! それは俺が何とかする。皆が納得するだけの理由も考える。だからお前は、今は傷を治す事に専念しろ。それと、お前の代わりにこのシューレンベルグを治められる者を。お前の代行者を見つけておけ」

「代行者、ですか?」

「ああ。俺の側近と領土の統治、両立は出来ないだろう? 家督と爵位を放棄せずにお前を側近に戻すにはそうするしかない。シャモス一族の中から選ぶ事になるとは思うが、皆が納得出来る人選にしろ! 俺はそこまで関知しないからな」

「承知、致しました」


「あっ! でも『暫くは登城するな! 王都に足を踏み入れるな!』っていう命は撤回する。くれぐれも言っておくが、必ず公的な理由を作ってから来るんだぞ。お前の気持ちを周りに悟られるな! それが、お前を側近に戻す絶対条件だ!」

「御意」


「全く、お前を護りたかったから遠ざけたのに。俺の知らないところでこんな事になるのは、もっと嫌だ」


 シェルは恥ずかしそうに小声でそう言った。


「シェルタイト様……」



      挿絵(By みてみん)



 窓から暖かく柔らかい陽光(ひかり)が差し込んでいた。


 ノンマルタスの都はもう直ぐ春が巡って来ようとしている。

 それはセラフィナイトが自身の想いを自覚したあの日から七度目の青陽(はる)だった。

次回は後書きに代えて「~ちょこっと設定裏話~」をUPさせて頂く予定です。

もう少しだけ、お付き合い下さいませ。

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