~第十章~
セラフィナイトは施設の建設に取り掛かっていた。
この三日間ぐずついた天候が続き、作業が思うように進まなかった。
今日は久しぶりの晴れ間。
工事の遅れを今日で取り戻そうとセラフィナイトは内心焦っていた。
しかし、朝から身体が重い。
この二ヶ月半、昼夜を問わずがむしゃらに働いていた疲れが、ここにきてピークに達していた。
その事故は突然起こった。
足場を組む為に積み上げていた材木、それは雨を含んで大幅に重量が増していた。
その重さに、支えていた綱が耐え切れず……材木は突然、セラフィナイト目掛けて転がり落ちてきたのだ。
「……っ!!!」
セラフィナイトの傍には、彼の指示を仰ぐ為に現場の指揮を任されている男が居た。
セラフィナイトはその男を思いっきり突き飛ばした。
「セラフィナイト様っ!?」
その一瞬の間!
普段のセラフィナイトならその(・・)間があったとしても、落ちて来る材木をかわす事など造作もない事だったかもしれない。
確かに材木の動きは見えていた。
だが、身体が思うように動いてくれなかった。
――シェルタイト様……っ!――
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
シェルがクロサイトと共にシューレンベルグ家に駈け付けた時には、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「陛下。セラフィナイト様のお怪我は、頭部と右上腕部の裂傷。肋骨を三本ほど骨折されておられますが、幸い内臓には損傷もなく――お命に別状はございません。けれど傷そのものよりも、お身体の衰弱が酷く、暫くは絶対安静が必要かと思われます。この度の事も、セラフィナイト様の体調が万全であれば、こんな大事には至らなかったのではないかと」
それが主治医の言葉だった。
「セラフィナイトの怪我は、多分……俺の所為だ!」
「陛下! ……そんな事はっ!!」
「クロサイト。暫くセラフィナイトと二人きりにしてくれないか」
クロサイトの言葉を遮るようにシェルは言った。
「えっ? いや、しかし……」
「頼む、クロサイト!」
「………承知致しました。何かありましたら、何時でもお呼び下さい」
そう言うと、クロサイトは主治医と共に部屋を辞した。
「何故、こんな事になった?」
(どうして? 俺は、お前をこんな目に遭わせたくなかった。お前を護りたかったんだ。なのに……)




