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~第一章~

 これは『ノンマルタス・シリーズ(二次創作)』全三部作の最後の一作です。

 二作目の「aeon~アイオーン~」で、報われないセラフィナイトがあまりにも不憫だ……という読者様のご意見で、書かせた頂いた物語です。

 ですから、この物語にオニキスは登場しません。

 オニキスが居て、セラフィナイトとシェルの話を……というのは、やっぱり無理がありますので。

 あくまでも、セラフィナイトとシェルの物語だと思って頂ければ幸いでございます。

      挿絵(By みてみん)



 その男の子が谷底に落ちていく光景は、セラフィナイトにはまるでスローモーションのように見えた。

 背後で動く気配がする。


 セラフィナイトはその動きを右手で制すると


「私が行きます!」


 そう叫んで谷底に身を投じた。


(シェルタイト様を危険な目に合わせることは出来ない! その為に私は此処に居るっ!!)


 それは時間にすれば瞬き一つの間だった。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 その光景は六年前と酷似していた。


 そう、あの日!

 その日は、セラフィナイトが自身の想いを自覚した日でもあった。


 唯一違うのは、その子が少女だった事くらいだろうか。

 その場にいる誰もが、その子はもう助からないと覚悟した。

 しかし、ただ一人だけ諦めてはいなかった。

 シェルは超人的なその身体能力で、その少女を助けたのだ。


「流石はシェルタイト様だ!」


 少女を抱きとめて谷底に無事に着地したシェルを見て、誰もがホッと胸を撫で下ろした……その瞬間!

 脆くなっていた岩が崩れ始めた。


「シェルタイト様ーーーーーっ!!!」


 濛々と立ち込める砂煙で視界が遮られて谷底の様子が分からない。


(シェルタイト様はご無事なのかっ!?)


 張り裂けんばかりの胸の痛みに苛まれながら、セラフィナイトは何度もシェルの名を呼んだ。


「心配するな、セラフィナイト。俺は大丈夫だ!」

「シェルタイト様っ!!」


 落ちてくる岩を紙一重でかわしながら、シェルは女の子を抱いて谷の岩壁の僅かな窪みを足場に崖を跳躍して来たのだ。


 流石は“我が(きみ)”と素直にシェルを賞賛する気持ちと。

 その大切な王を危険な目に合わせてしまった我が身の不甲斐なさと。

 そして、シェルを失うかもしれなかったという恐怖と……。


 様々な想いを噛み締めながらセラフィナイトは 


「シェルタイト様! 貴方はご自分が“ノンマルタスの王子”だという自覚をお持ちですか!?」


 そう言いながらシェルを抱き締めた。


「貴方にもしもの事があったら、私は……」

「セラフィナイト……」


 セラフィナイトの身体が震えていた。



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 セラフィナイトがシェルに目通りを許されたのは、シェルが三歳、セラフィナイトが八歳の時だった。


(王子様だと聞いていたけど、姫君の間違いだったのか? それにしても可愛い姫君だなあ~)


 それが第一印象だった。


 大商人シャモス家の次男坊として何不自由なく育ったセラフィナイトは、幼い頃から文武両道に秀で、特に剣は連戦練磨の達人も舌を巻くほどの腕前を持っていた。

 貴族に勝る権勢を誇るとはいえ、平民出身の彼がシェルの守役に選ばれたのは、その剣の腕をラピス女王に買われたからに他ならない。

 故に、シェルの剣の相手は主にセラフィナイトの役目になっていた。


 地上の人間を遥かに凌ぐ身体能力を誇るノンマルタス一族。

 その中でも特にムーカイトの碧い髪を持つ者の能力(ちから)は一族の比ではない。

 しかし、まだ三歳のシェルが五歳年上のセラフィナイトに勝てる筈はない。

 けれどシェルはセラフィナイトに負ける度に悔し涙を流していた。


 

 そして、運命の日。

 シェルは五歳で己の呪われた出生の秘密を知った。

 荒んでいくシェルの心――


 けれど、このままではいけないと

 愛されないのなら、自分が愛そうと

 決して見返りを求めない無償の愛で一族を護ろうと

 自らの想いを昇華させた、その痛々しいまでの決意を

 セラフィナイトは一番近くで見守った。


 八歳の時、ラピス女王の命を受けてムーカイトを訪れたシェルは、実の両親と双子の兄。そして自らを捨てたもう一つの血族に、愛と憎しみの末……自身の決して持ち得ない“希望”を見出すようになった。

 その希望は、シェルの歴代最強と謳われたムーカイトの碧い髪の力を目覚めさせるには充分すぎた。

 そう、八歳のシェルに敵う者は一族に誰一人として存在しなくなったのだ。


 実際、王子としてのシェルは完璧だった。

 これがムーカイトの碧い髪の力なのかと

 尊敬と畏怖と嫉妬と

 そして歴代最強の王となるべき人物に仕える事の出来る誇りと幸せを、セラフィナイトはひしひしと感じていた。


 しかし、一人の人間としてのシェルは違っていた。

 その心の傷(トラウマ)故の苦悩と自身の背負っている過酷な運命に翻弄される――不器用で純粋で優しい、壊れやすいガラス細工のような繊細な心を護りたいと

 ずっと傍に居たいと

 その想いが主君への想いを遥かに逸脱しているのだと

 人間として、男として、シェルを愛しているのだと

 セラフィナイトが気づいたのがシェルを失うかもしれないと感じた、六年前のこの時だった。


 もう、こんな想いはしたくないと

 シェルを護る為にもっと強くなろうと

 ずっとシェルを護る為に! 一番近くで居る為に!

 一族最強の男になるのだ!!

 ……とセラフィナイトが決意した日でもあった。



  挿絵(By みてみん)



 それは、シェルタイト11歳、セラフィナイト16歳の春だった。

 この六年前の出来事が「aeon~アイオーン~Ⅲ」第三話でラピス女王が語った

『王は一族の誰一人として見捨てない――という強烈な確信』を一族の人たちが持った出来事です。

 シェルがこの女の子を救った事は、この後、一族中に知れ渡るんですよね。

 そしてセラフィナイトが自分の気持ちに気づくエピソードでもあります。

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